第二十話【デート対決、結果発表】
レイとの家デートから数日後。
やけに部屋が騒がしくて目が覚めた。
「ふわぁ〜あ……んだよ朝からうるせぇな……あ?」
重い身体を起こしてベッドから這い出ると。
「はわわわわわ!!!!!!」
俺のシャツ一枚で慌ててるレイと。
「……ミッ…………」
死にかけのセミみたいなヒナが居た。
「あーあ。こらレイ、ヒナの事いじめちゃダメだろ~?」
「えっ!? あたし!?」
寝起きで頭も働かないので適当な事を言ってみる。
律儀に返事をしてくれるレイは本当にいい子だね。
「ミッ……ミィ……」
「んで、なんでヒナが転がってんの?」
「えっと、あたしにもわからなくて……あたしを見た途端倒れたから、もしかしたらあたしのせいかもなんだけど……」
「うーん、わからん」
なぜこうなってしまったのかの経緯が知りたかったが、俺より先に起きてたレイがわからないんじゃどうしようもない。
「ヒナが起きるの待つしかねえか……」
しかしこのまま床に転がしておくと言うのも良心が痛むので、たった今フリーになったばかりの俺のベッドに運ぶ事にした。
「よいしょっと……」
「あー!!」
「なんだよレイ、あんまりデカい声出すとびっくりしてヒナ落っことしちゃうだろ」
ヒナを抱き抱えた俺を見てレイが指をさして抗議する。
「お姫様抱っこしてる! ずるい!」
「ずるくない」
「ずーるーいー!! あたししてもらった事無い!!」
「そりゃする機会が無いからな」
背後でぷりぷり怒っているレイは一旦無視して、ヒナをベッドに横たわらせた。
「だいぶうなされてんなぁ。一体何があったんやら」
「う、うぅ……」
「お、起きそうか?」
ヒナの顔を眺めていると、俺の視線に反応する様にヒナの目蓋がゆっくりと開いた。
「ん……かいと?」
「ぐっもーにん、ヒナ。キスしなくても起きる眠り姫で良かったよ」
「…………」
再びヒナの目蓋が閉じられた。
「おいコラ目開けろ、今起きただろ」
「……きすしてくれなきゃおきない」
「朝から随分お盛んな頭してんじゃねえか。余計な事言わなきゃよかった」
一回やってみたかったんだ、起きたばかりの女の子にキザな事言うの。
結果としては面倒な事になったが。
「まあいいや、起きないってんならこっちにも考えがある……」
「…………!?」
ヒナが横たわるベッドに俺も乗る。
ギシ……ギシ……とベッドが軋む度に、目を閉じたままのヒナの顔がビクッと反応する。
そのまま覆い被さってやった。
「本当にキスじゃねえと起きねえのかな~?」
「…………」
「だったらあんなことやこんなこともし放題だなぁ~?」
「……………………」
「一体どこまでやっていいんだろうなぁ~」
「………………………………」
煽りまくりながらヒナの顔や首、肩などあちこち触れてみたが起きる気配がない。
「強情だな……しゃーねー」
「…………っ!?!?」
「……本当にキスするしかねえか」
ヒナの耳元でくすぐる様に囁いてやった。
見る見るうちにヒナの顔が赤くなっていくが、それでも目を開こうとしない。
なんだかこっちまで意地を張りたくなってきた。
「…………(ちょいちょい)」
「うん?」
「スッスッ……」
俺はそばに居るレイにジェスチャーを送る。
「…………ぐっ!」
簡潔なジェスチャーで全てを理解したレイが俺に向けて親指を立てた。
レイがそーっと部屋を出る中、俺は少しの間ヒナをからかう事に全力を捧げる。
「すぅ……今日のヒナもいい匂いだな」
「……!!」
「柑橘系……デートの時と同じ奴か。もしかして、俺に褒められたのが嬉しかったのか? それとも俺の好きな匂いを選んでくれたのか?」
「……!! ……!!」
無抵抗で匂いを嗅がれたのが恥ずかしいのか、表情が何かを訴えてきているが、面白い反応をしている事しかわからない。
「ていうかさ、無防備に男の部屋に入って来るって事は、ヒナもちょっとは期待してたんだろ?」
「……!?」
「そっちがその気なら、遠慮なく相手してもらうからな……」
散々挑発したにもかかわらず、ヒナは断固として目を開けなかった。
残念ながら今のが最後のチャンスだった。悪い子にはおしおきが必要だ。
「……ちゅっ」
「んむっ!!?!?!?」
ヒナの唇に柔らかい物が触れた瞬間、電流でも流れたかのようにヒナの目蓋が開いた。
「……んふっ、本当にキスした瞬間目覚めたな……ふふっ……」
「わぁ~」
「………………」
ヒナの視界にはおそらく、考えたくない状況が広がっていただろう。
性格の悪そうな笑顔を浮かべる俺と、楽しそうに顔を覗かせるレイ。
そして、自分の唇に押し付けられたこんにゃく。
「……………………」
こんにゃく。
「かいとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」
「ダーッハハハハハハハハ!!!!! お前本当にキスされたと思っただろ!!? ガバッて目開けやがって!!!」
「どこから出てきたのよこんなものォ!!!」
「冷蔵庫に入ってたのを持ってきてもらったんだよ!!」
「あたしが持って来たよ~!」
口から火が出るんじゃって勢いで俺に食って掛かるヒナ。
想像以上の反応の良さに涙を流しながら大笑いする俺。
吹っ飛ばされたこんにゃくを大事にキャッチしてニコニコしているレイ。
食べ物を大事にして偉いね。
「私の乙女心を何だと思ってるのよ!!?」
「(笑)」
「何笑ってんだこらぁぁぁぁ!!!!!!!」
「姫様!! もっとお淑やかな言葉遣いをなされないと!!!!」
「うがああぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」
ヒナのおこはしばらく続いた。
主にガソリンを注ぎ続けた俺のせいだが。
一緒になってレイも笑っていた。なんて平和な朝なんだろうか。
平和ってなんなんだろうな。
◇
「で、なんで倒れてたんだお前」
最終的にヒナに取っ掴まり、リビングの床で正座させられながらヒナに訊ねた。
「えーっとねぇ……とりあえず今日もご飯作ってあげようと思って、貰った合鍵で入ったの」
「そこはいいよ、その為にやったんだし」
「え!? あたしも合鍵欲しい!!」
「レイ、静かに」
俺の周りで抗議するレイをそっとたしなめる。
今大事な話してるから。
「そしたらカイトがまだ寝てたから、潜り込んで寝起きドッキリしようと思って」
「誰が寝室まで入っていいって言ったんだお前。あっという間にツーアウトだよ」
確かに鍵はやったが、寝てる所に入ってきていいなんて一言も言っていない。
そもそも同じ家に住んでいたって勝手に人の部屋には入らないものだ。
そこに居るピンクの毛玉にも何度も言ったはずなんだが、誰もマナーを守ってくれない。
「お前も正座だろヒナ」
「はい……」
俺に言われて素直に床に正座するヒナ。
やっぱりお前自身悪い事だって言う自覚あったんじゃねえか。
「んで、なんで倒れてたんだ?」
「あ、そうそう。それでカイトの布団をめくったら先客が居て……」
「レイ」
「はい……」
俺が何か言う前にヒナと並んで正座をするレイ。
素直でいい子だね。
「でもよ、それだけで倒れるまでダメージ受けるか? こう言っちゃなんだけど、レイがたまに潜り込んでくるのはヒナにも話してただろ?」
「私もそれは知ってたよ。実際目の当たりにするとかなりダメージ食らったけど、言ってもそこまでじゃなくて」
「だったらどうして……」
「……がさごそ」
俺が首をかしげていると、ヒナが自分の鞄から手鏡を取り出した。
あれ、なんか前にもこんな事があったような気がするんだが。
「はい」
ヒナが鏡で映したのは俺の首元。
「…………はぁ」
パジャマの下から見える俺の肌には、何か所も赤い痕が付けられていた。
「レイ」
「ビクゥッ!?」
「どこに行くつもりだ?」
俺とヒナが話している隙に逃げようとしていたレイに釘を刺す。
こんな狭い家の中でどこへ行こうと言うのだね。
レイに再度正座を強要し、俺とヒナで圧をかけて見下ろしていた。
「レイカさんがそういう事したがるって言うのは知ってたんだけど……」
「けど?」
「……リアルタイムでキスマークつけてる所を見るのは、本当に耐えられなくて」
なるほど、全てわかった。
レイは朝から俺の部屋に侵入、そのままベッドにも侵入。
俺が寝ているのを良い事にまた大量のマーキングを施していた訳だ。
最初は俺も焦りに焦ったが、三度目にもなるとレイはそう言う事するという認識が生まれるおかげで落ち着いていられた。
おまけにレイは俺のシャツ姿。ヒナから見たら完全に「ゆうべはおたのしみでしたね」だ。
せっかくパジャマ買ってやったんだから着てくれよ。見たいんだぞ俺も。
「それでセミみたいにひっくり返ってた訳か」
「私そんなんだったの?」
「ミンミン言ってたぞ」
「言語野が麻痺してたんでしょうね……」
哀れヒナ、一度ならず二度までも敗北の幻覚を見せられるなんて。
足が痺れたのか、もじもじしているレイに視線を戻す。
「まさか本当にヒナの事虐めてたなんてな。適当に言っただけなのに」
「いじめてないよ!?」
「バカ野郎、俺にマーキングしてダメージ受けるのヒナだけだろうが」
「……あ!!!」
「気付いてなかったのマジ?」
俺に言われるまで本当に気付いていなかった様で、説明した途端急に青ざめて震え始めた。
「ご、ごめんね……でも、カイトにあたしが付けた痕ついてるの見ると、嬉しいから……」
「…………ぐっ」
可愛いって本当に罪なんだな。
だがここはヒナの手前、心を鬼にする。
「ヒナ、今日のメニューはいかがで」
「特に決めてないよ。カイトが食べたいもの作ってあげる」
「食いたいもの……そろそろ祭の季節だし、粉もん食いてえな……」
「粉もの……じゃあお好み焼き焼いてあげよっか」
「マジか!? うわ食いてぇ~、完全にお好み焼きの口になった」
俺は部屋から財布を持ってきてレイに手渡す。
「レイ、お仕置きです。お好み焼きの材料を買ってきなさい」
「えぇ!? 今日もすっごい暑いよ!? 溶けちゃうよ!!!」
「ちゃんと日差し対策して行けば平気だ。頼んだぞ~」
そう言って俺は一緒に持ってきた麦わら帽子をレイにかぶせてやった。
「ほら、遅くなればなるほど気温あがってくぞ。急いだ急いだ」
「ひぃ~~ん!!!」
レイは半泣きになりながら、麦わら帽子を抱えて自室に向かった。
程なくして外出用の服を身にまとったレイを玄関から見送った。
「ふぅ……ひとまず一件落着か」
朝起きて早々発生した白銀陽向セミファイナル事件の原因と犯人の特定が終了した。
後はレイが刑期を終えてお好み焼きの材料を買ってくるのを待つだけだ。
「レイカさんって一人で買い物できるの?」
「流石にそこまで抜けちゃいねえよ。それに悪いことしたらちゃんと罰を受けねぇと」
「カイトひとりだったら甘やかして許してたんじゃない?」
「耳痛え〜」
ヒナの言うとおり、被害にあったのが俺だけだったらしょうがねえなぁとか言って許してた気はする。
しかし今回はヒナも大ダメージを受けたはずだ。これでお咎め無しはヒナも面白くないだろう。
「ま、まあ私的にはカイトと二人きりになれて悪くない気分だけどね?」
「……そうだな」
「え!? カイトも!?」
今、レイが出かけて俺のヒナの二人きり。
真面目なトーンでヒナに聞きたかった事があった。
「なあヒナ。聞きたい事あんだけど、いいか?」
「うん? どうしたのよ改まって」
「ちょっと、レイに聞かれたくない話でさ」
ヒナとの内緒の話って言うわけでもないんだが、レイに聞かれると色々問題がある。そんな話。
多分ヒナなら詳しいと思ったんだ。
「実は……」
◇
「「いっただっきまーす!!」」
レイが帰宅し、色とりどりの具材を使ってヒナがお好み焼きを振る舞ってくれた。
俺とレイの目の前には、かつお節踊りソースきらめく熱々のお好み焼きが並んでいた。
「おいしぃ〜!!」
「うめぇ!! サクサクでいてふんわり、火加減も完璧で……お前お好み焼きまで焼けるんだなぁ」
「お褒めにあずかり光栄ね。私も食べようかな」
俺達に続いてヒナも食卓につく。
三人で食卓を囲むこの光景を眺めていたら、ふと思ってしまった
「……いいな、こういうの」
「急にどうしたのよ」
「いや……なんつーのかな」
不意に自分の中に浮かんだ感情をうまく言語化できずに腕をこまねいて頭をひねる。
少なくとも、そう思ったきっかけは普段との違いだろうから、そこから組み立てて。
「複数人で飯食う事……かな? ほら俺、親父と離れて生活し始めて長いだろ? 家での飯なんて基本一人で食っててさ。でも少し前にレイを拾って、食卓を囲むのが二人になって。色々あって今はヒナも一緒で。一人より二人、三人の方がなんつーか…………」
「……カイト?」
「……やっぱ何でもない」
「そこまで言って!?」
信じられないものを見る様な視線をヒナに向けられる。
仕方ないだろ。言ってる途中で今から言おうとしていた言葉の恥ずかしさに気付いてしまったんだから。
だって恥ずかしいだろ。俺を好きだと言ってくれた女の子二人と並んで飯食って「家族みたい」って思っただなんて。
母さんの似顔絵を見て、少しセンチメンタルになってたのかもしれない。
「ふん、でもカイトがいいなって思ってても、この関係をそんなに長く続けさせるつもりなんてないんだから」
「お前の目的は最初っからそうだもんな」
「そうよ! 私はカイトがレイカさんを追い出したくなるようにアプローチし続けるんだから!!」
「んむぇ!? んもももっ!! んむーっ!!」
「レイ、口に物入れたまま喋るんじゃない」
悪い顔をするヒナにレイが抗議をするが、美味しそうに口いっぱいお好み焼きを頬張っていた為に何を言っているのか全く分からなかった。
「ふふん、見なさいこのピアスを。今はまだ穴あけ用の奴だけど、そのうちカイトに貰ったカイトのピアスを着けるようになるんだから。それにピアス穴だってカイトがあけてくれたのよ!」
髪をかき上げ、誇らしげに耳たぶをレイに見せつけていた。
「ドヤってるけど、お前ピアッサーにビビりまくって、終わった後もしばらくめそめそしてたよな」
「カイト静かに。どうレイカさん! 吸血霊鬼のあなたにピアスは着けられないものね!」
「ぐぬぬ~!」
「え、そうなの?」
吸血霊鬼はピアスを付けられない? 初耳だ、ピアスだけに。
「吸血霊鬼はピアス穴をあけようとしてもすぐ治っちゃうのよ」
「そうなの?」
「人の傷を治せる種族が自分は治せないと思った?」
「確かに吸血鬼や幽霊って物理的には無敵や不死身なイメージあるか……」
「他にも穴あけ用の道具が杭っぽくてよくないとか、ピアスの材質次第じゃ大変な事になるとか。色々あるのよ」
流石退魔師の修行も受けたヒナさんだ、まるで吸血霊鬼博士だな。
「そ、それに! 私はデートの日にカイトと間接キスもしちゃったし? 別れ際にもほっぺにキスしちゃったし!? レイカさんみたいに添い寝してもらったり抱き締めて貰ったり、色々したんだから!!」
「あーあー……」
なんと言うか予想はしていたが、やっぱりコイツレイにマウント取りにきやがった。
ヒナの目的の為には俺への好感度稼ぎの他にレイに諦めさせる必要もある訳で、こういう行動も必要と言えば必要なのだが。
だが、哀れなり白銀陽向。
「きっとレイカさんのデートじゃこんなに積極的な事出来なかったでしょう! …………って、あれ?」
今回ばかりは相手が悪かったよ。
「…………ッスー」
「あぅ…………」
「二人ともどうしたのよ。そんなに気まずそうな顔して」
目を逸らし、大きく息を吸う俺。
気まずそうに顔を赤らめるレイ。
ヒナは知らないのだ、レイの本性を。
いや、本性と言うよりはエンジンがかかった時のレイのポテンシャルをか。
レイはいつだって素直で正直。欲しい物は欲しいし好きな物は好き。ただ相手の事を考えて我慢する事も出来るだけだ。ひとたびリミッターが外れてしまえば……。
それにあの日は本当に色々な事があった。家からほとんど出てないと言うのに。
一回のデートでどっちの方が関係が深まったかと問われたら、非常に言いにくいのだが。
「え、何? あなたたち、どんなデートしたのよ。ねえカイト」
「……俺からはノーコメント」
「レ、レイカさん?」
「えっと……」
言える訳ない。普通に話せない内容もあるがそれ以上に破壊力が高すぎて言えない。
またヒナがセミになる所を俺は見てられない。
「……ぐ、覚悟は出来てるわよ!! 来なさい!!」
気まずそうなレイもヒナの言葉を受けて、おずおずと語り出した。
言うのか、アレらを。
「外が暑かったからおうちデートにしたの。そしたらね、カイトがなんでもお願いを聞いてくれるって言ったから……」
「ぐっ!?」
「あたしのベッドで一緒にお昼寝して、カイトの身体にもいっぱいちゅーさせてもらって……」
「ひうっ!?」
「カイトにお昼ご飯をあーんさせて貰ったり、手を繋いで一緒におしゃべりしたり……」
「ほっ、それくらいならまあ……」
「最後はカイトにありがとうって、言って……その…………ちゅーしちゃった」
「おっふっ!!!?」
あーあ言わんこっちゃない。レイの一言一言にダメージ食らってるじゃねえか。
しかしヒナは最後の力を振り絞り、根性を見せて立ち上がった。ほとんど自爆みたいなものだが。
「で、でもキスなら私だってしたから! どうせピュアピュアなレイカさんの事だから、ほっぺやおでこなんでしょ!?」
どうせって、お前もそうだったろ。ピュアピュアヒナ。
「っ…………」
「…………え?」
「……かっ、かいとぉ~」
「言い辛いからって俺に振んなや」
二人して俺に視線を向ける。
やめろ、そんなにまじまじ見ても言う訳ないだろ。
「か、かいと……うそよね?」
「見るな、寄るな、言わねえぞ」
縋るような目で俺に寄ってくるヒナ。
わかってくれ、お前の為でもあるんだ。
「れ、れいかさん……?」
「…………んぅ」
「れ……!?」
再びレイに視線を向けたヒナの目に映ったのは、信じがたい光景だった。
恐らくは当時の事を思い出して、顔を真っ赤にするレイ。
熱っぽい息を漏らし、僅かに口を開き、何かの感触を思い出すかのように唇に触れる指先。
「…………あっ」
言葉は無かった。
レイのその仕草だけで、ヒナは全てを悟ったのだ。その唇がどこへ触れたのかを。
俺の唇に最初に触れたのが誰なのかを。
「ビターン!!!!!!!!」
「うわーっ!! ヒナーッ!?」
背中からモロに倒れるヒナ。
「ミッ……ミィ……」
「しまった、手遅れだったか!!」
セミファイナルヒナ、セカンドシーズンの到来だった。
「おい! しっかりしろ!! 敗北を認めるんじゃない!!」
「所詮幼馴染は負けヒロインなのね……」
「何言ってんだお前!?」
それからずっとうわごとの様に弱音を吐き続けるヒナを抱き抱え、再び俺のベッドに横たわらせた。
今回はお姫様抱っこがどうとレイも騒がなかった。原因が自分だと理解しているのだろう、偉いぞ。
しばらくして目を覚ましたヒナは何故か幸せそうな顔をしていた。俺のベッドだからだろうか。
まあ、お前が幸せならそれでいいよ。




