第4話 前日譚③映画デート?
少し悶々としながら過ごしていた、ある日のことだった。
家でぼんやりテレビを眺めていると映画のCMが流れてきた。そのタイトルに聞き覚えがあった。確か定食屋で、彼女が気になっていると話していた映画だ。
――これ、誘ってみてもいいかもな。
そんな考えが、ふと頭をよぎった。
映画のチケット代を出すのは流石にやり過ぎか。ならポップコーンとジュースを奢るというのはどうだろう。それぐらいなら彼女も恐縮することはないだろうし、俺も定食屋での借りを少しでも返せて気が楽になる。
俺は彼女みたいにお洒落なカフェなんて知らないし、他に好きなものもわからない。この映画に誘うくらいしか思いつかなかった。
上映が始まってから少し日数は経っているが、それも考えようによっては好都合だろう。もし彼女が乗り気じゃなかった場合、「もう既に観たので……」と体よく誘いを断る口実になるからだ。やっぱり、パワハラとは思われたくないからな。
うん、これでいこう。我ながら完璧な作戦だ。誘いに乗ってくれたら借りを返せて良し、断られてもこれ以上は踏み込むなという印になるから、特に問題はない。
「実はその映画、もう観たんですが……」
彼女は少し気まずそうに答えた。
ああ、やっぱりな。大丈夫、その返事も織り込み済みだから。
若い子が上司のおっさんと一緒に映画なんて、行きたいはずもない。
なんとなく、胸の奥がズキリと痛んだような気がした。
「面白すぎてもう一回観に行きたいと思ってたんです。是非ご一緒にお願いします……!」
「えっ」
その展開は予想外だった。
どうやら彼女は、好きな映画は何度も観るタイプらしい。初回はひとりで観に行ったから、次は誰かと一緒に観たいと思っていたと彼女は語る。なるほど、そこにタイミング良く俺が声をかけたということか。まあ、彼女が嫌でなければそれでいい。
俺はホッと胸をなで下ろした。
◇ ◇ ◇
なかなか見応えのあるアクション映画だった。興奮冷めやらぬ中、近くの喫茶店に寄って彼女と感想を熱く語り合う。彼女は二回目ならではの視点で、注目のアクションシーンを詳しく解説してくれた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そろそろお開きというところで、彼女が「次」の話を持ちかけた。
次は、俺が気になっている映画を観たいと。
俺は少し躊躇した。気になる映画、あるにはあるが、ジャンルがロボットアニメだからだ。長年続いている有名シリーズだからタイトルぐらいは聞いたことあるかもしれないが、果たして彼女の趣味に合うだろうか?
俺の不安をよそに、彼女はあっさりと頷いた。俺の好きなものを観たいからそれでいいと。
正直ちょっと、いやかなり嬉しかった。まさか自分の好きなものに興味を持ってもらえるなんて、思いもしなかったからだ。
ひょっとしたら彼女も俺に映画を誘われた時、同じような気持ちだったのかもしれない。それで嬉しくなって、俺の誘いに乗ってくれたんだろう。次の映画も、多分そのお返しだ。
そんな感じで、俺と彼女はたまに映画を観に行く仲になった。彼女はきっと俺のことを、気の合う映画仲間と思っているんだろう。そういう関係も悪くない。
だからあの日も、いつも通り映画を観て、いつもの喫茶店で感想を語り合って終わるのだと思っていた。
しかしどうやら、そう思っていたのは俺だけだったようで――
「私はあなたのことが好きです。結婚を前提に付き合ってください」
……一体なにがどうしてそうなったんだ!?




