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第5話 私は今日、あの人に告白する。


 きっかけは、仕事の相談だった。

 それまであの人とは業務上の指示や報告、連絡といったやり取りばかりで、会話らしい会話をしたことがなかった。どこにでもいる普通の上司だと思っていた。


 でも、そうじゃなかった。

 声をかけても邪険にせず、じっくりと時間をかけて相談に乗ってくれた。

 私の良いところを褒め、注意点はしっかり指摘する。上司の言葉選びから、受け答えに公平さを意識しているのが感じとれた。その姿勢がとても誠実で、信頼に足る人だと思えた。

 それだけじゃない。

 私は人に弱みを見せるのがとても苦手で、今回の相談もとても勇気の要るものだった。それが話し始めると、抱えていたものがするすると言葉になって出てくる。あの人の前では、不思議と素直に話せたのだ。これは私にとって大きな衝撃だった。

 もちろん、あの人は上司として真面目に責務を果たしただけだろう。私を特別扱いしているわけではない。

 でも、だからこそ、惹かれるものがあった。

 あの人と、もっと一緒に過ごしたい――そう思ってランチに誘ったり、映画に誘われたりしているうちに、あの人への想いは強く確かなものになっていった。


 私は、この人と一生添い遂げたい。




 ……というかこれさ、完全に脈アリだよね?

 ランチだけならまだ私の勘違いかもしれなかったけど、あの人から映画に誘われるなんて思ってもみなかった。しかも、私が話題に出した映画を覚えててくれて。すっごく嬉しかった。

 こういうのって、その気がないと誘ったりしないよね? そう思っていいよね?

 思いきって次の映画も誘ってみたら、OKしてもらえたし。やっぱそうだよね!?

 そんな感じで、あの人と何度も映画デートを繰り返した。



 うん。これは多分、イケる。恋愛経験ほとんどない私でも、流石にわかる。いわゆる、両片想いってヤツ。

 今までずっとわかりやすくアプローチしてきたんだし、もしあの人にその気がなかったらこんなにデートは重ねない。

 あの人が何も言ってこないのは、きっと上司という立場を気にしてるからなんだと思う。下手に告白して、パワハラとかセクハラとか言われたらどうしようって。私はいつでもOKだけど。


 だからここは、私から告白するべきなんだと思う。私の心はもうあの人に決まっているから、なんの躊躇もない。

 けれど、もし、万が一、あの人が本気ではなかったら?

 そうだとしたら……残念だけど、諦めよう。あの人は優しいから、きっとその気がなくても私を傷つけないようにと告白を受け入れてくれるんだろう。でもそれじゃダメ。無理して私に付き合わせたくないし、何より私はそういう同情が一番イヤだから。気持ちが釣り合わない関係は望まない。このプライドの高さが恋愛経験の少ない理由なんだけど、それでもこれだけは譲れない。

 まあ、ここまできて脈ナシってことはないだろうけど、可能性としては想定しておこう。


 そう決心を固めて、今日のデートに臨んだ。



「……ちょっと待ってくれないか。結婚とか、今すぐには考えられないし、少し時間を……」


 まさかの返事だった。

 これって、脈ナシってこと?

 今まで全部、私の勘違いだった?


 自信満々で臨んだクセにあっさり玉砕するなんて、めちゃくちゃ恥ずかしかった。穴があったら入りたい。というかもう帰りたい。


「いえ、あなたにその気がないなら、私はここで諦めます。急に変なこと言ってすみませんでした」


 万が一を想定していて本当に良かった。全然よくないけど。早く帰ってヤケ酒しよう。

 席を立ち上がりかけたら、あの人は何故か私を引き留めた。

 どうして? 別に私のこと、好きじゃないんでしょう?


 そのまま帰ればいいものを、私はまた席についてしまった。断られたら潔く諦める、なんて格好つけても、結局はまだ諦めきれなかったのかもしれない。

 あの人は落ち着いた声で真剣に話し始めた。その雰囲気は、初めて相談に乗ってもらった時と重なった。


 ――ああ、やっぱり、こういうところが好きなんだ。


 私が試すようなことを言っても、あの人は真面目に答えてくれる。どうして、そこまで考えてくれるんだろう。

 あの人の口から「好き」という言葉は聞けなかったけど、まだ可能性があると思っていいんですか……?


 望んでいた形ではなかったけれど、私はあの人の提案を受けることにした。私のことをもっと知りたいなんて言われたら、どうしたって期待してしまう。

 恐る恐る触れた手をしっかりと握り返された瞬間、胸が大きく高鳴った。心臓は正直だ。

 こうなったらもう、腹を括るしかない。



 あなたには絶対に、私のことを好きになってもらいますから。覚悟してくださいね。

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