第3話 前日譚②ランチ再び
後日、再び彼女からランチの誘いがあり、俺は驚いた。しかも「今度こそ私が奢ります」ときたもんだ。
そんなに俺に奢られたことを気にしていたとは……彼女は他人に借りを作りたくないタイプなのかもしれない。
いや。もしかして、俺が「また次の機会に」なんて言ってしまったもんだから、彼女もそうせざるを得なくなってしまったんじゃないか。こ、これって、パワハラ……っ!?
内心で焦りながらどう言えば無難に断れるのか思案したが、上手い断り文句はひとつも思いつかなかった。結局、彼女に押されるがまま誘いを受けることになる。
まあ、これで彼女の気が済むなら、それでいいか。
今回の店は俺の行きつけの定食屋だった。
彼女が言うには、俺の話を聞いて食べてみたくなったそうだ。確かに、前のカフェでそんな話をした気がする。よく覚えていたなあと素直に感心した。流石、仕事のできる部下は違うな。
彼女は俺イチオシの焼肉定食を選んだ。前に俺がウキウキと語っていたのが印象的だったそうだ。ちょっと恥ずかしい。
一方の俺は――部下の奢りだし、今日のところは安めの天ぷら定食にしておこう。焼肉はまた今度だ。
すると彼女は「今日は気分じゃなかったですか?」と少し残念そうな声を出した。
いや、正直いつでも焼肉定食の気分なんだが、部下に負担をかけるわけにもいかないからな。ここは大人の対応として、グッと堪えておかなければ。しかし彼女の表情は、なんだか浮かない。
ハッ、これはあれか!
上司より高いものを注文することに、引け目を感じているのかもしれない!
そんなの気にしなくていいのに……とは思うが、やはり部下の立場からはそういうわけにはいかないんだろう。うん、きっとそうだ、そうに違いない。
ならばここで上司としてできる対応は、部下の要望に応えることだ。
「やっぱり、焼肉定食が食べたい気分だな」
そう言った瞬間、彼女の顔がパァっと明るくなった。うんうん、上司に遠慮しながら食べても美味しくないもんな。彼女も俺も、焼肉定食を食べられてWIN-WINだ。
そんなこんなで楽しいひと時を過ごしたわけだが、俺にはほんの少しだけ気がかりが残っていた。
今回は約束通り彼女に奢ってもらったが、前回のカフェよりも金額が高くなってしまったのだ。焼肉定食は伊達じゃない。
これが同僚や親しい友人なら「人の金で食う肉はうめえ」と堂々と言えるのだが、やはり部下が相手となるとなかなかそうもいかない。そもそも俺が最初のカフェで無理やり金を出さなければ、彼女が後から余計な出費をすることもなかったんじゃないか?
とは言えこれで彼女の気が晴れたのなら、俺にできることは何もない。
でもやっぱりちょっと、上司としては気になるんだよなあ……




