22 服と息子
どうぞよろしくお願いします。
「肩と腕をぶつけて!」
お母さんが息子さんの頭を抱えるようにしながらオロオロと言う。
私はその5歳とタブレットに書いてある男の子に聞いた。
「どこにどんな風に腕をぶつけた?」
「すごい風におされた。
前のカベにどんって、手をこうしたら、ここがいたかった。いまもいたい」
うん、なんとなく身振りからだと、身体を捻って、肩からという感じか。頭は本能的に守ったみたい。
「肩だね。服を脱ぐのは痛そう?」
「うん」
「服を切っていいですか?」
お母さんに確認する。
「えっ?
服を切る?」
「ええ、脱ぐのに肩を動かすのは痛いそうです。
はさみで切って状態を確認します」
「そんな、服を切るなんて!」
「でも、治療を受けるためには必要で」
「ここでは子ども服が貴重で!」
「……でも、無理に動かして脱ぐと悪化する可能性もあります」
「私が脱がせます!」
お母さんが手を服に掛けて捲り上げようとすると男の子が「いたい!」と叫んだ。
「お母さん、やはり切りましょう!」
「いやよ!」
なんですと!?
「どうしたんだ?」
原隊員が来てくれた。
「打ったところを見るのに、服脱ぐのが辛そうなので服を切りたいとお願いしたんですけど」
「痛そうだな。
切った方が早いだろう」
「服を切ったからって、早く治るわけじゃないですよね!」
お母さんが言い返してくる。
ま、そりゃそうなんだけど……。
次の怪我の人が来てしまう。
黒須衛生士が来て、次の人の手当てを始めてくれた。
「ちょっと、うちの子よりなんで次の人を先に!」
「落ち着いて下さい!
状態を診なければ治療も検査もできません!」
私はお母さんを宥める。
そこへ山野井くんが「どうした?」と来た。
原隊員が説明してくれている。
お母さんは私を睨んでいる。
「あー。お母さん、切りますよ。
これじゃ治療できませんので」
山野井くんがはさみを手に言った。
「なんで!」
止めようとするお母さんに山野井くんが言った。
「服と息子の身体とどっちが大切なんだよ!
早く治療しないと後遺症が出る怪我だってあるんだぞ!」
穏やかな山野井くんの一喝!
いや、山野井医療士、だ。
「わ、わかりましたっ!」
お母さんがプルプルしながら言って、息子の頭から手を離した。
男の子のシャツと下着を切って、ぶつけたという肩を出す。
「打ち身、かなり強くぶつけたね。
レントゲンオーダーしておこう。
それから、頭のここも擦ってるね」
生え際当たりの擦り傷を指摘する山野井医療士。
え、あ、お母さんの手でわからなかった。
「アレク医療士、額の擦り傷、傷薬とバンドエイドで頼む。湿布は私が」
ふたりで男の子のを治療した。
原隊員が毛布を母親に渡してくれる。
「温かくして検査の順番をお待ち下さい」
母親は頷き……「困らせて、すいませんでした……」と謝ってくれた。
「いえ、医療士や医師はその人に必要だから言っているんです。
普通なら何も言わずに切りますよ。
彼女は丁寧に理由を説明してくれたんです」
山野井医療士の言葉にお母さんは項垂れた。
読んで下さり、ありがとうございます。




