表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

6 幸せな思い出

どうぞよろしくお願いします。

 ハヤトは私のひとつ結びしている髪のゴムを解いて、髪を撫でてくれた。

 黒く染めている髪。傷んでいる。そのことはもう言わなくていいだろう。


「……嫌だったら、言って下さい」

 ハヤトはそう言って優しくキスしてくれた。

 嘘でもいい。

 今は、思いが通じ合って、結ばれたのだと、幸せだと思わせて欲しい……。



 初めてで戸惑ったことはあったけれど、嫌ではなく……。

 安心しきって、うとうとしてしまった。

 いや、うとうとじゃないな、久しぶりの熟睡……。

 目を覚ましたら、ハヤトの隣に寝ていた。お互い裸で、彼の腕が私の身体の上に掛かっていて。

 重くはあるけれど、守られてる感じがした。

 肌と肌が触れ合うのが温かくてすごく心地良くて、安心できた。


 人に求めてもらううれしさもせつなさも温かさも、そして、なにもかもあげたいという愛しさと、私自身がハヤトを求める気持ちと……。

 いろいろな感情と幸せを……貰った。

 

 例え、嘘だとしても、一夜だけの行きずりの恋だったとしても、私だけの宝物のような思い出だ。


 私はそっとハヤトの腕の中から抜け出すと、服を着てカバンを手に取り、静かに洗面所に行き、ドアを閉めた。髪を結び直し、顔を洗い、眼鏡を掛ける。

 そして玄関に向かい、そっと開けて外へ出た。

 入口はオートロックだったし、防犯カメラも多そうだった。鍵を掛けなくても数時間程度なら大丈夫だろう。

 そっと閉めて、ドアに手を当てて「ありがとうございました」と呟き、記憶を頼りに外へと歩き出した。


 もう始発が動き出す頃。

 駅に無事にたどり着き、電車に乗り、二駅先の社宅……と言っても古アパートなんだけど、そこに帰り着く。

 部屋に入り、鍵を閉めると小さな1Kの部屋を見回した。

 もう持っていけないものはすべて処分してある。

 布団はレンタルだし、家電と家具は置いていくことになっている。

 大きめのカバンが布団の横にあり、そこには父と母の写真や思い出の品、大切な本、最低限の身の回りの品がまとめてある。

 朝、9時に管理人が来て、部屋と鍵の引き渡し予定だ。

 一年だったけれど、ひとりで暮らすのは……、楽しかったのだろうか?

 さみしい気持ちになったことはあったけれど、母と父のことを誰にも邪魔されずに思い出しながら、前向きに生きていた時間だったのかもしれないな。

 だから、最後に、自分のためにって、あんなに思い切ったことができた、のかもしれない。

 昨夜のことを思い出し、恥ずかしくなって、畳んだ布団にもたれてじたばたしてしまった。

 はあ、落ち着け。

 買っておいたパンを食べ、グラスで水を飲む。

 このグラスは母との思い出の品。父と私の湯飲み茶わんはもうカバンに入れてある。これだけは持って行きたいと思ったんだ。

 グラスを洗い、タオルにくるんで大切に大きなカバンにしまった。

 そして、また布団にもたれてうとうとしてしまう……。


 ドンドンドン!

 ドアが叩かれる音と振動に飛び起きた。

 ん、もう9時?

 壁の時計を見るとまだ8時だ。

 もう管理人さんが!?

 慌てて玄関のドアを開けた。そこにいたのは敏夫だった。

 

読んで下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ