56 コーラの味
どうぞよろしくお願いします。
顔を拭いてリビングに戻ると、テーブルの上はまるで学生の時の友人との昼食のような感じで。
私は笑ってしまった。
「なんか高校の時を思い出すね」
「……お嬢様でも?」
「いやいや、女子校でも普通の学生生活ですよ。
……ハヤトこそ、共学でしょ! なんか初恋の彼女とかの思い出が?」
「いや! そんなことは!」
私は座るとふふっと微笑んで「いただきまーす」とチーズバーガーの包みに手を伸ばした。
お互い高校時代の話なんかして、笑ったり、ちょっと寂し気にな気持ちになったり。
ハヤトは母子家庭で裕福ではない生活をしていたし、私は学校では自由だったが家に戻ると窮屈で休みの日に友人と出かけられたのは数えるほどしかない。
だからこそ、ハヤトとこうしてふたりでそんな学生時代の時のようにハンバーガーやポテトを食べているのが、なんだかうれしい。
ハンバーガーやポテトは食べ終え、飲み物だけになった。
「かー、久しぶりのコーラ、うっま!」
ハヤトの少年のような口調に笑う。
その時、インターホンが鳴った。
ハヤトが確認し「早乙女中尉だ」と言って、玄関に行く。
私もなんとなくついて行く。
ドアを開けると疲れた表情の早乙女中尉がいて「休んでいる時にすまん」と玄関に入ってきた。まだ制服姿だ。
封筒をハヤトに差し出す。
「辞令だ」
「辞令?」
ハヤトが封筒を開ける。封筒には封がされていなかった。
「二枚?」
辞令が二枚?
さっと目を通したハヤトが「決まったのか?」と言いながら、その紙を私に渡してきた。
ハヤトと私の辞令で、第一師団本部研究室所属のまま、三日後からアラスカダンジョンへ出向とある。
「早瀬医療士も?」
ハヤトが訝し気に言う。
私は一緒の方がうれしい。
「ああ、ちょうど第三師団の新人が出発するんだ。それと同時にね。
まだ小池大佐には今こちらで起こっていることは伝えられていない。
だから、早瀬ちゃんも新人ってことで、向こうへ行く方が不審に思われないだろうってね」
「……泳がすことになったのか?」
「まあ、そういうことだ。
第三の井狩総班長付きにするそうだよ。
大岡はこちらの本部の追加人員として行ってもらう。まあ、ダンジョンのベテランでもあるしな。
出発が思ったより早くて。ごめん、急ぎで知らせた」
「ああ、ありがとう……」
「明日、本部で詳しいことを!
今日はゆっくり休めよ!」
そう言って、早乙女中尉は出て行った。
ドアが閉まる。
少しの間、ハヤトは動かなかった。
「三日後……。準備しなきゃですね」
私の言葉に、ハヤトが抱きついてきた。
私は予想はしていたけど、思わず紙を落としてしまう。ひらひらと舞う二枚の白い紙。
「……離れるの嫌だな」
あ、そうか。
私は本部から出向して第三師団の医療士って扱いになり、ハヤトは本部から派遣された隊員みたいな……。一緒の部屋ってわけにはいかないもんね。
ああ、花を買うのはアラスカから帰って来てからだな。
私はそんなことを思いながらハヤトを抱きしめ返した。
ハヤトがキスしてきて、コーラの甘い味が微かにした。
なら私はオレンジ味かな?
その場で押し倒されていることに気づいて、少し驚いた。
「俺の手は、不快じゃない?」
恐る恐る聞いてくるハヤト。
「不快じゃない。むしろ、好き。気持ちいいよ」
「リア……」
またキスしてくる。私は目を閉じてハヤトを感じる。
今はいろいろ考えたくない……。
私はハヤトに全てを預けてしまう。
うん、今だけはいいよね……。
読んで下さり、ありがとうございます。




