53 自己保身
どうぞよろしくお願いします。
「もし……、私に謝りたいとか……、本当にそう考えているなら、自分がしてきたことをはっきり話して謝って欲しいですし。
それに、美咲のいる所で言った方がいいと思います」
私の言葉に稲岡さんがさらに傷ついた顔をする。
舛添さんが稲岡さんを支えるように背中と肩を支える。
ここって、恋人同士じゃなかったよな?
「ひどいわ。私達が向き合おうとしているのに」
ハヤトが言った。
「何に向き合おうとしているんですか?
あなた方は無意識なのかもしれないが、謝罪せずに許されようとしている。
謝ってもいないのに、どうして許すことができる?」
「……私達は私達自身で振り返って、反省して……」
「なら、御自分の中で完結させて下さい。
謝りもせず、許しだけを引き出そうとするなんて、そっちの方がよほどひどいでしょう。
何のために? 自己満足? 自己保身のためですか?」
「失礼じゃないか、君!」
舛添さんが怒り出す。
自己保身……。
何か思い当たることがあり、私は話しを続ける。
「美咲や叔父のせいにするのでなく、ちゃんと御自分がしたことを話して下さいね」
「自分がしたこと?」
稲岡さんが呟く。
反省してると言いながら自覚はないのか?
私はゆっくりと言った。
「早瀬製薬には調査が入っています」
「調査?」
顔を顰める稲岡さん。
「会社が私にしていた違法なことに対して、調査が入っています。
もう、書類とか押さえているそうですよ」
舛添さんが怒ったように声を荒げた。
「それが僕達となんの関係がある!?」
「舛添さんは知らないんですか?
染野さんがアラスカダンジョンに行かれている時、どちらが研究棟のリーダーをされていたんでしょう?」
稲岡さんが不安気な顔をして私を見た。彼女か。
「稲岡だ! 彼女は優秀で、染野さんの助手である期間も長かったし!
美咲さんが来て……」
稲岡さんが舛添さんの言葉を止めるかのように、舛添さんの口を押さえようとした。
「稲岡さんは知っているのね。
染野さんがアラスカダンジョンで何をしたのか」
私の言葉に舛添さんが稲岡さんを怪訝そうに見た。
「今回の早瀬製薬への調査。私だけの件じゃないんです。
アラスカダンジョンの培養液の問題も明るみになると思います。
舛添さん、用心しないと稲岡さんに責任、押しつけられますよ」
私の言葉に舛添さんが「えっ?」と呟いて、稲岡さんを見て一歩、後退りをした。
「染野さんが不在の時のリーダー代理は稲岡さんですね。それとも稲岡さんの答えは違う?」
舛添さんの顔が引き攣り、恐怖を感じているようだ。
あわてて話そうとして声が裏返る。
「いや、それは! 違う! リーダー代理は稲岡で!
僕は、何も!」
読んで下さり、ありがとうございます。




