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4 姫

どうぞよろしくお願いします。

 彼の部屋の中にいる。

 自分の想像を超えたこの状況、その想像からは感じられなかったリアルさというか現実感に、今更、とんでもないことをしでかしてしまった……と思ったり。


 彼は持ってくれていた私のカバンを部屋の棚の上に置くと、私が抱えていた花束を見て「花は水につけた方がいいでしょうか?」と言った。

「何か花瓶はありますか?

 私、明日、花を持ってはいけませんから、このお部屋に飾らして下さい」

 彼は何か言いかけたが黙ると、台所から広口の少しデザイン感のある瓶を持って来てくれた。

 ジャムの瓶かな?

 私の様子に「蜂蜜の瓶です」と教えてくれた。

 私は花束と瓶を持って洗面台を使わせてもらうと、瓶に水を汲んで花束のラッピングを外す。ミニブーケでだったので、束ねたままで良さそうだ。長さも良さそう。

 ハンカチで瓶の外側の水気を拭き取り、部屋に戻ると私のカバンの隣に並べた。


 椅子に促されるかと思ったら、部屋の奥のベッドに座るように言われた。

 台所に行った彼が何かしている音が聞こえて、少ししてカップをふたつ持って戻ってくる。

 ひとつは和風な湯飲み、もうひとつはマグカップ。

 私にマグカップを差し出した。

「ありがとうございます」

 受取り、すぐ一口飲んだ。 

 緑茶だった。

 久しぶりだ。


「おいしいです。ひとり暮らしをするようになってから緑茶あまり飲まなくなりましたから……。

 父との暮らしを思い出します」

 ほっとする。身体の力が少し抜けた。

「お名前を聞いても?」

「……明日にはいなくなる人間です。

 今は……、リアと呼んで下さい。

 父と母が、私をそう呼んでいました」

「リア……さん」

「リアでいいです。

 お嫌かもしれませんが、さっき言ったことは本気です。

 前線では女性の医療士が襲われることや戦いに巻き込まれて死体も回収できないような……亡くなり方をすることがあると……。

 だから、その前に……、好きな人と、と思ったんです」

「では、私もハヤトと呼んで下さい」

「ハヤトさん」

「ハヤトでいいですよ。

 私達は両想いの恋人同士なんですから」


 ハヤトが、いやハヤトが本名かもわからない。

 ハヤトが私の眼鏡を慎重に優しく外してくれた。

 私は目をつぶり、眼鏡が外れた感触にそっと目を開けた。


「綺麗な瞳の色ですね。濃いブルーとでもいうのかな?」

「ありがとうございます。

 母と同じ瞳の色で……。私は好きなのですが、叔父家族には気持ち悪いから隠すようにと……」

「では、今日からもう隠すことはしないでいいのですね」

 私は首を振った。

「いえ、掛けていなくてはいけないんです」

「どうして?」

「……従姉が一緒だからです」

「一緒に?」

「はい、当番というか、徴兵されたのは従姉のみっ」

 彼女の名前を言いそうになって黙る。

「従姉の?」

「はい、従姉の……『姫』とでも呼びましょうか。

 姫に徴兵の連絡が来たのです。

 それで叔父は私と代えられないか交渉しましたが、さすがに国からの徴兵なので、それはできず。

 ただ、私が志願して一緒にということに。

 そうすると、姫の勤務期間が短縮できるとか」

「その制度は確かにあります……。でも従姉と一緒なら心強いのでは?」

 私はため息をついた。

「たぶん、私は危険な目に合わせられるでしょう。

 姫は私が嫌いですから……」


読んで下さり、ありがとうございます。

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