36 嫉妬の捌け口
どうぞよろしくお願いします。
「大岡大尉には手を出せない男性も、大岡大尉に憧れていた女性からも、あなたに何か嫌がらせのようなことが起きるんじゃないかと、夫は心配してるの」
愛理さんがため息をつきながら言った。
ああ、それは、なんかわかる。
だから、早乙女中尉は『早く結婚を!』と言ったんだ。
「気をつけます。
教えて頂きありがとうございます」
「ふふ、本当にかわいい子ね。
私は本部の秘書課にいるの。階級は少尉よ。
本部の上層部、上層部付きの助手や秘書、防衛隊の研究者などはこの黒い隊服を着ていることが多いわ」
はい、父もそうでした!
でも、それ以外の隊服の色とか、まだいまいち階級的な言葉がよくわからない。でも早乙女夫妻は候補生からのスタート組なんだろう。
「連絡先を教えて?」
そう言われて、私は愛理さんと連絡先を交換した。
おお、二人目。
「じゃ、そろそろ行くね。
何か宿舎の方で、困ったり、買い物とか欲しい物とかあったら、気軽に連絡してね!」
「ありがとうございます!」
ドアから愛理さんを見送った。振り向いて、手を振ってくる。お茶目な人だ。お姉さんみたい。
少ししたらハヤトが戻ってきて、台所に行き慌てたように私に言った。
「誰か、来た?」
「はい、早乙女愛理さん、えーと早乙女少尉?
宿舎のことなどいろいろ教えて頂いて、連絡先を交換しました」
ほっとするハヤト。
早乙女夫妻はハヤトにとっても気を許せる人達なのだな。
「愛理さん、面倒見のいいお姉さんみたいな方ですね」
ハヤトは笑った。
「ああ、あそこは夫婦で、面倒見がいい」
昨日より一時間早く、私達は本部を出た。
第三師団に行くのが業務内として認められたのだそう。
私は本部の書類や筆記具は研究室に置いていくことにした。
カバンは自分の身分証や貴重品だけ。
「帰りに買い物したいが、軍服姿じゃ、ゆっくり買い物もできないな」
ハヤトがため息をつく。
「そうですね。
食材は敷地内のお店で……、あそこにも皿とかはあるんじゃ?
今の物はどこで?」
「あそこで買った」
「なら、同じ皿もあるかも」
「そうだな……。じゃあ明日は、それ以外のものを買いに行こう」
「はい」
第三師団に到着して、入り受付に名前を告げると井狩総班長が現れた。
「待ってました。こちらにどうぞ」
私とハヤトは井狩班長の後をついて歩く。途中で、すごく周囲から私達が見られていることに気がついた。
ハヤトに手が出せない男性。ハヤトに憧れている女性。
双方からの視線? 少しピリピリというか冷ややかというか、あまりいいものではない。
本部より、ハヤトや父がもともと所属していた第三師団の方がそういう感情が強いのかもしれないな。
小さめの来賓室のような所に案内された。
そして、シャツ2枚、替えのスラックス、夏服のスラックスと半袖シャツ3枚を広げて説明されながら渡される。靴もあった。大きな紙袋のようなものにまとめてくれて、ハヤトが預かってくれる。
「このまま、お願いしていた話を……」
ハヤトが言いかけるとドアがノックされた。
「どうぞ!」
井狩班長の言葉に医療士、白い制服を着た若い女性が入ってきた。
「早瀬アレクサンドリアさん。
早瀬中佐が亡くなられた時、私とこの鈴木医療士が治療を担当していました」
井狩総班長が紹介してくれた。
鈴木医療士がぺこりと頭を下げた。
「……お父様を助けられず、申し訳ありません」
「いえ、そういう、責める話じゃなくて!
純粋に父の最期を知りたいだけなんです。
思い出すのは辛いかもしれませんが、どうか、教えて下さい、お願いします」
私は頭を下げて頼んだ。
読んで下さり、ありがとうございます。




