35 ヒロイン
どうぞよろしくお願いします。
研究室に戻り、私はまた仕事に没頭した。
父との思い出が蘇るような作業……。
ハヤトは「呼び出しがあり、少し出てくる」と出て行き、まだ戻ってこない。
その時、ドアがノックされた。
ハヤトだったら開けて入ってくるはず。シーンとした。
私は席を立ち、ドアを開けた。
女性隊士だ。
制服の色が、ハヤトと同じ黒で……、本部付きの、うーん? 私まだよくわからない。
「昨夜、お会いしましたね」
そう言われて気がついた。
「あ、布団の!
ありがとうございます!」
布団セットを運んでくれた女性だ!
「さっき、夫から連絡があって。
少しお話しません?」
夫?
私の『???』な表情に彼女は笑った。
「ふふ、私、早乙女愛理と言います」
「早乙女……、早乙女中尉の!?」
「はい、早乙女中尉は私の夫です」
私は愛理さんを研究室に招き入れた。
お茶をっ!
研究室に簡易的な台所が続き間というか、作られていて、そこでお茶を入れて、愛理さんに出す。
「……大岡大尉とは、その……、どのように?」
すごく申し訳なさそうに聞かれた。
「えっと……、水曜日に、私が、声を掛けました」
「あなたから?」
「はい、私達、帰宅時の電車で時々出会って挨拶するぐらいの感じだったんです。
1年ちょっとぐらいになりますか……。でも、お互い名前も知らなくて……。
木曜日に私が志願で第三師団に行くことが決まっていたので、もうお会いすることもないだろうと……。その……、ずっと片思いというか、好きだったことを……、伝えたくて」
「そういう……。
そう、早瀬中佐を亡くしてから、大岡は何度も早瀬中佐の御家族を訪ねようとはしてた。
でも、彼には珍しく、なかなか踏ん切りがつかないようで……。
あなたは早瀬中佐の娘さんなのよね?」
「はい、早瀬アレクサンドリアです。
父が亡くなり、早瀬家当主は叔父に代替わりし、私はもう早瀬家を出ていましたから……、もし、いらしたとしても会えなかったと思います」
「……長く顔見知りだったけど、木曜日に初めて話をして、金曜日に婚約して同棲?」
ん、まあ、そういう時系列ですね。
「ああ、変ですけど、そういう感じですね」
「大岡のこと、何も知らないのよね?」
私は頷く。
そうだ、軍人だとも知らなかったし、木曜日の夜の時点では名前も『ハヤト』しか知らなかった。
「やっぱり、大岡から何も聞いていない?」
「いえ、父の助手で、父が亡くなった時、そばにいて、戦っていたことは……」
「……そのことは話せたんだ。今の大岡がなぜ大尉であるか、は?」
私は首を振った。
確かに、高校を出て隊員になったのなら、志願とはいえ、たぶん一番出世しても軍曹とかの現場の役職ではないだろうか?
早乙女さんも言っていた、特例で候補生……と。
「簡単に伝えておくね。
彼はアラスカダンジョンで戦闘現場においてものすごく功績を上げたの。
剣……、戦いのことは知ってる?」
「あ、はい、それは聞いてます。
剣とか槍とかの方が効果があるとか?」
「そう……、彼は強かった。
それで早瀬中佐に見い出され、引き上げてもらい、候補生に、あ、中佐が少佐の時にね。
で、中佐になる時には、彼も中尉にまで上がっていたわ。
あの、医療士や衛生士を助けて、中佐が戦死された時も、彼は戦って、その功績で大尉になったの」
「それは例外的な?」
「そう、だから、彼は、同性から妬まれたりやっかまれたりも多少あると思うわ。
そして、女性からすると憧れの男性だったというわけ」
うん、第三師団の受付の女性もそんな感じだったものな。
ということは……、私は、突如、王子様と婚約を発表した平民の少女的な?
ヒロイン……。いや、正当派のヒロインがいたら、悪役?
読んで下さり、ありがとうございます。
ゆっくり話が進んでいます。
順番がおかしいふたりですけど見守って頂けるとうれしいです。
一度読み直しをして、言葉の表記揺れを直しました。
ここからさらに話が発展していきますので、どうぞ長くお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。




