23 父の言葉
どうぞよろしくお願いします。
「ハヤトは……、それで前線を、ダンジョンを離れたの?」
ハヤトは苦しそうな表情をした。
「『ここから逃げろ』と、早瀬中佐に言われて。
最初はこの場からかと思った。
だが、無事に後方へ下がってから……、気がついた。
ダンジョンからだと。
中佐の研究のための資料もほぼ集まっていたこともあり、ちょうどリアの卒業前には日本へ帰る予定で……」
「その後、女性が襲われるようなことは起きていない?」
「第三師団に信用できる者がいて、情報を流してくれているが、特に動きはないそうだ」
ほっとする。父が防いだことで、その事件が注目され、動きを潜めたのかもしれない。
父はハヤトと話ができていた……。
「父はそんなにひどい怪我、つまり即死の致命傷ではなかったのなら、医療士もいたのに、保全治療できたかもしれないのに、なんで……」
「わからないんだ……。
怪我を負い倒れたところに駆けつけて、話をして、後を治療師に任せて……。治療師と医療士の協力もあり、一緒に後方まで逃げることはできたんだが……」
「ごめん……、責めてるんじゃないの。
父の最期を看取った人の話を聞きたい。
会えるように、お願いできる?」
ハヤトは頷いてくれた。
外はすっかり暗くなっていた。
窓を閉め、戸締りをして研究室を出る。
ずっと廊下を歩いて、またあのカウンターの所へ行き、身分証の新しい物と差し替えになった。
ああ、一日に2回も更新差し替えなんて、手間もかけさせ、申し訳ない……。
「銀行口座の件はちょっと複雑になってまして、明日には全容がはっきりすると思います」
係の人がそう教えてくれた。
「早瀬医療士の宿舎は決まった?」
ハヤトが聞くと、係は困った顔をした。
「本部宿舎は空きがなく、他をあたっているそうです。
なので、今日は当初の第三師団の方に……」
あ、さっきの603だっけ。
私はハヤトを見た。考え込んでる。
ハヤトが顔を上げた。
「今夜は私の部屋に泊める。明日も朝から一緒の仕事なのでね」
「え? あ、わかりました。
大岡大尉の宿舎に寝具一式追加を連絡しておきましょうか?」
「頼む」
「承知しました。お気をつけて」
そのまま、駐車場に向かいながら私は言った。
「一緒っていいの?」
「大丈夫。というか、リアが嫌か?」
「いえいえ、美咲の隣より、ずっといい」
ハヤトが笑う。
車に乗り込んだ。
いつもは私服で電車で帰っていたが、今日は朝から軍服で、車を使うことにしたとさっき聞いた。
「もし……、俺の部屋でふたりで暮らすのが認められたら、それでもいいか?」
急にハヤトがぼそっと言った。
「はい、いいですよ」
「……そんな、簡単に返事して。
よく考えてみたほうがいいぞ」
「自分から言ったくせに!
あ、言って後悔してるんですか!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「私、よくわからないから。
ハヤトにいろいろ教えてもらいたい。
今のところ……、自分のカードを作って買い物することもできないくらいだから」
「そうか……、わかった」
ハヤトが車を発進させた。
宿舎の駐車場のそばに宿舎内のスーパーがあって、そこで食材を買って、ハヤトの部屋に帰る。
「ふふ、朝、ここから出て行った時は……、もう会えないかと思ってたのに、また戻ってくることになるとは!」
ハヤトがドアを開けてくれ、私を先に入れてくれた。
私はリビングに進み、ハヤトが私のカバンを持って、リビングの棚の前あたりに置いてくれた。
花が飾られている。私の痕跡。
「寝具のことを確認に行ってくる。鍵閉めておいて」
「はい!」
読んで下さり、ありがとうございます。




