20 もうひとつの研究室
どうぞよろしくお願いします。
会社の研究室は、父が亡くなって私は入れなくなった。
美咲や叔父が認めた薬学研究者が引き継ぐと。
ここはもうひとつの、私の知らない父の研究室。
部屋に足を踏み入れ見回す。
なんだか胸がいっぱいになった。
父の字……。壁やパネルに張られた資料や写真には父の字のメモ書きが残っていて。
製薬会社では重症者の回復や臓器や皮膚の再生、その先に四肢の再生という研究だった。
ここの研究室ではもっとダンジョンの謎について、広く情報を集め、自分の考察や仮定、そう『人類の進化』についての研究も進めていたのだろうか?
「ハ……、大岡大尉が引き継いで?」
ハヤトがドアを閉めた。
「現場で一緒に行動することが多くなり、いつの間にか助手みたいになってました。
中佐は……、まるで父のようで……」
「……ハヤトは何歳なのですか?
いつから……、志願で?」
ハヤトは窓を開けた。
部屋の中が乱れないように風の量を調整すると私に椅子を勧め、向かいの椅子に座った。
「大岡隼人、26歳です。
高校を卒業して志願しました。だから、8年目ですね。
志望理由はリアと似ている。早く家を出て独り立ちしたかったから」
「それは……」
私がさらに詳しく聞こうとした言葉を遮るようにハヤトが言った。
「ごめん、ちょっと複雑なんだ、順に説明していくから、最後まで聞いて」
私は頷いた。
「俺は三人兄弟の一番上なんだ。
両親と俺と真ん中の弟の四人家族だった。今は……三兄弟なんだが、順を追って話すな。
俺が10歳の時に父が、ギリシャダンジョンで戦死した。最初は警察官だったそうなんだが、当時は警察官から防衛隊に志願するという枠があったらしくて。
それで、10歳の俺と、三つ下の7歳の弟と母が残されたわけだ。
母は父の大岡姓のまま、大岡家で過ごしていた。
俺が14歳の時、一番下の弟が生まれた。
相手というか、実質的な義父は、叔父だ。父の弟。
でも、籍を入れたり、結婚という形はとらなかった。
さっきもリアの手続きで話が出たが……、遺族年金があったからだ。
今は……、でも、その時の14歳の俺もこれは詐欺というか犯罪だとはわかっていた。
でも、中学生の俺にはどうすることもできず。
まず高校まで出ないと、仕事には付けない。
そこまではと目をつぶったわけだ。不甲斐ないことにね」
私は首を振った。
私も高校を出て働いていたのに、叔父の囲い込みの中から逃げることができなかった。弟を抱えて、さらに中学生高校生なら……。
「……俺は高校を出てすぐに働くつもりだった。
真ん中の弟を上級学校に行かせてやりたかったのもある。
なら、衣食住が保障されてて全部面倒を見てくれる防衛隊がいいかと、志願した。
父が戦死していることもあるけれど……、まあ、とにかく、家を出たかった。
アラスカダンジョンが活動を始めて、数年だな。
戦いというよりは研究や押さえ込むという方にシフトしていたし、これまでのノウハウで効率のいい戦い方のような知識も蓄積されてきてて。
早瀬中佐、その時は少佐だったけれど、第三師団にいらして、俺はすぐにアラスカダンジョンに派遣され、少佐直属の部下のひとりになった。
魔物の出現がわかるというか、気配とか空気感とか……、そういうものに気づくのが、俺は早かったんだ。
特技とまで言われたよ。
本当の父は警察官だったんだが、剣道が得意で、俺も子どもの頃、習っていた。
リアは……、魔物のことは聞いているか?」
読んで下さりありがとうございます。




