2 行きずり
どうぞよろしくお願いします。
恥ずかしくてぶわっと全身を嫌というほど熱が駆け巡り、全身真っ赤になっているんじゃないかと自覚できる。もう頭も目もドクドク心臓の音に合わせて痛いくらい。
「それは……」
彼が困った表情をする。
「すみませんっ!
変なことを言っているのはわかっているんです。
でも、私、この一年間、あなたに恋してました。
この気持ちを伝えずにいたら後悔する。
そしてこの身が汚され、朽ち果てることになる前に、好きな人に、せめて。
自分が好きだと思った人に……」
「落ち着いて話を聞いた方が良さそうだ。
次の駅で降りても大丈夫かな?」
私はコクコク頷く。
初めて降りる駅。いつも彼が降りて行く駅だ。
私は黙って、私のカバンを持ってくれた彼の後をついて行く。
ああ、伝えることができただけでも、よく頑張った!
でも……、自分の気持ちを押し付けて、彼を困らせてしまった。
私は少し前を歩く彼を見る。
夜の中。街灯の明かりの中に浮かぶような横顔。
彼は私の視線に気がつき立ち止まると手を取ってくれた。
「ごめん、目が悪いんだよね?」
「いえ、大丈夫です。
これは叔父の家族に掛けるように言われているだけですから」
「掛けるように?」
「はい、私の目の色が黒ではないから……」
「君は日本人だよね?」
「はい、父は日本人です。
ですが、母は日系でしたが南欧の人でした。現地の混血児だったと」
「南欧?」
「はっきり聞いたことはないのですが、ギリシャのほうとか?」
「ギリシャか、2番目のダンジョンがあったな」
私は頷く。
「はい、父はそこへ派遣されていました。
ギリシャダンジョンに派遣されて、そこの日系のコミュニティで母と出会い、結婚し、私達を連れて日本に戻ってきました。
母は私が6歳の時に亡くなり、父は1年と……、もう1年半になるか……、戦死しました」
彼の雰囲気が少し変わった。
「そうか、だから『前線』という言葉を……」
どこかのマンション群のような場所に到着した。
彼が困った顔をする。
「その……、こんな行きずりのような……男の家に入るのは……。
女性を誘うのは……、どうなんだろうか?」
行きずり……。
私のことはその程度の認識だったんだ。
私の目がじんとして涙が滲みそうになる。懸命に抑えた。
「行きずり……じゃないです。
父が亡くなって、誰も私のことを気に掛けなくなって。
そんな時、あなたが電車の中で私を気に掛けてくれたのがうれしくて……。
それからずっと、たぶん、恋してました……」
「それは……、私もあなたのことは気になっていました。
かわいらしい方だと。
だから、今日、花束を持っていらして……。
もしかしてご結婚が決まったのかと……、焦りました」
私は少し涙が滲んだ目で笑った。
「……私も焦ってました。
もう、あなたに会えなくなる。でも、思いを伝えたい。
でも、こんな私の……、それこそ行きずりの私のこんな気持ちをぶつけるのは申しわけないと……」
彼は少し怒ったような表情をした。
「いや、そんなことは。
あなたを行きずりだと思ったことはないし、その……」
「でもさっき、『行きずりのような』って……」
彼は私の手を強く握りしめた。
「すみません。それは自分のことを言ったんです。
俺は……、本当なら俺からあなたに声を掛けるべきでした。
ああ、とにかく、うちに来て下さい。ゆっくり話をしたい」
私は頷いた。
「はい、短い時間ですが、私に……最後の、自分で選んで進んだ思い出を下さい。
それを大切に……します」
彼は私の手を握り直し、そう、大切そうに握り返してから、強く手を引いた。
読んで下さり、ありがとうございます。




