7-20『真実』
次の日、アナスタシアさんに呼ばれて王宮にやってきた。
「話って何ですか?」
「まずはこれを」
渡されたのは一枚の手紙だ。差出人はなんとお母さんだ。
「あなたがいない間に届きました」
『リリィへ
ヴェストフォル王国には着きましたか? シーザーには会えましたか? もしこの手紙を読んだのなら一度戻ってきてください。シーザーにも同じ手紙を出しています。 母より』
内容は詳しくは書かれていない。何だろう?
「何が書かれていたんです?」
「特に何も。ただ帰ってこいと」
「そうでしたか。なら丁度いいですね。私からは今後どうするかを聞こうとしていましたがアイリさんが呼んでいるならそちらを優先してください。手紙は速達で届いています。急いだ方が良いかと」
「そう……ですね。なぜ呼ばれたのかはわかりませんが、一度帰ります」
急いで家に戻り、帰り支度をする。途中正人君にも事情を説明すると一緒に来てくれることになった。せっかくだしお母さんにも紹介しよう。私の旅仲間で想い人。きっとお母さんも理解してくれる。
アナスタシアさんに最後の挨拶をした。本当にここでお世話になった。お父さんの縁のおかげで私はここで有意義な時間を過ごせた。ここを離れても悔いはない。それにまた来ればいいだけだしね。
今度は東の大陸のアシハラノクニ経由で帰る。本来こっちの方が近い。
「そういえば、神器作らなくても良かったの?」
「うん。今はまだいいよ。この槍も一級品だし、戦いには困らない。それにメルクリウスがその他にも素材を用意した方が良いって」
「それだけでも十分だと思うけど」
メルクリウスがくれたのは何千年とかけて作られた海の魔力の結晶だ。本来これだけで成り立つ素材ではあるがメルクリウスはさらに別のものを要求してきた。
「塩が必要なんだって。しかも自分で作ったやつ」
「海水から作る塩か……。それによってもたらされる力はどんなのか想像がつかないや」
「私もそう思う。けど必要なんだって」
しかもかなりの量なのですぐにはできない。なので先にお母さんからの用を終わらせてから塩を作り神器を完成させる予定だ。
正人君の提案で陸路ではなく空路で実家まで向かう。陸よりも魔獣は少ないし、乗っている使い魔は星の属性であり、月女神の神使であるカグヤだ。滅多なことでは墜落はない。
何事もなく迎えば3日もあれば着く。アシハラノクニに着いてから1日休憩し、また飛び立つ。そこからレギオン大陸まで海を渡り、陸に着いてまた1日休憩をする。あとは少し飛ぶだけで故郷の村にまでたどり着く。
「真っ直ぐ先に見える村の外れにあるからこの辺で降りよう」
「カグヤ、この辺で降りてくれ」
さすがにこんなすごい使い魔が村の中に降りて来たら村人がびっくりするだろうから残りは徒歩で移動する。
村に入ると久しぶりの面々が出迎えてくれた。そんなに長い年数離れてなかったが、とても懐かしい気がする。王国も良かったけど故郷はやっぱりいいなぁ。
そして村を出てすぐ近くに私の家がある。
母はちょうど庭の掃除をしていた。
「おーーい!お母さーん!」
遠くから手を振る。それに気づいてくれて持っていた箒を置き寄ってきてくれた。
お母さんに思いっきり飛び付き久しぶりの再会にぎゅっと抱きつく。
「おかえり、リリィ」
「ただいま。……あっ、そうだ。紹介するね。この人私の旅仲間のっーー」
紹介する途中だった。けど突如正人君は走り出し。私と同じようにお母さんに抱きついた。
「やっと……。やっと会えたよ」
思考が止まった。なぜ? どうして? が延々と頭の中を周り答えが出せない。お母さんもすごく困惑してる顔だ。
「えっと……あなたとはどこかで会ったことありましたか?」
「俺だよ。姿も声も違うけど、相羽拓人だ」
「えっ……」
そんなはずない。相羽拓人は私の父親ですでに死んでいるはず。そんなの嘘だよ。
「相羽拓人は何年も前に死んでいます。あなたが彼であるというのなら私たちにしか知らない事実があるはずです」
「あぁ、そりゃこんな姿だから信じられないのも無理はないか。そうだなぁ。俺の生まれ向こうの世界で奈良県という場所で生まれて向こうで死んだ。悪魔王との戦いもいっちゃんとの共闘で何とか一時的に封印できたけど代わりに俺が死んだ。とかは?」
「それは最悪大賢者に聞けば話せる話です」
「ん〜、あっ。俺がヴェストフォルに来て間もない頃なら起きた事件。アイリが奴隷商人に拐われて、北の大陸で解決した事件はどう?あまり思い出したくないだろうけど元々は奴隷だったアイリさんの過去を知っているのは当時のグラム王と三厳と俺くらいなはずだ。それにその後故郷に行って生みの親にも会いに行ったよね」
「本当にタクトなんですか?」
「訳は話すよ」
「リリィ、ごめん。こんな形で正体をーー」
その場にリリィはいなかった。
「あれ?」
「何となく久しぶりに会った瞬間考えましたが、あなた自分の正体言ってないんですね」
「だって、言っても信じる訳ないし。だったらアイリに信じてもらえればきっとわかってもらえると思って」
「はぁ、あなたが本当にタクトだったとして、年頃の女の子が同じ歳に近い男の子と一緒に長い間旅をしたらどうなるかなんて想像くらいはできたのではないですか?」
「いや、だって俺会ったことないけど父親だぞ?」
「それはあなたしか知らない真実です。私も正直驚いてますが、とにかく父親なら先にその責任を果たしてください。私への説明はその後でいいので」
気持ちが落ち込んだ時、近くに流れてる川によく行くと聞いたのでとりあえず、その川に向かってみる。確かにリリィの姿があった。ゆっくり近づくけどなんて声をかけようか。確かに思えばデリカシーがなかった。体は10代でも中身が大人で、親でもあったから恋愛とか年頃の女の子とかあんまり考えなかった。ただリリィの安全の為だけに動いていた。何より親ではあるが親らしいことはしていない。だから会った時親らしいことしなければと、考えていた。
「何?」
近くに来たものの何を言おうか……
「ごめん。いつかは言うつもりだったんだ。でも父親だと言っても信じてもらえないからアイリに会ってからの方が説得力が増すと思って。リリィの気持ちとか考えてなかった」
「いいよ、別に。私がはしゃいでいただけだし。正人君がお父さんとわかってたらこんな気持ちにもならなかったし」
涙を流すリリィに何もできない。する資格が無い。本来の正人なら例えこんな状況なくただ悲しむリリィが目の前にいたらなにかしてられたかもしれないが。
「今から言うことは俺がリリィに会うまでの話だ。だから聞き流してくれて構わない。頷く必要も無い」
◆
十数年前、最初から相羽拓人としての人格が出ていたわけでは無い。最初はただの楠木正人だった。
楠木家はアシハラノクニの帝、皇室の食糧を生産する仕事を担っている。農業、畜産、加工も全て楠木家の敷地で行われ、出荷する。その為かなり大きな家だ。土地も広い。正人はそこの四男として生まれた。
とても平和で和気あいあいとした家族だった。
しかしそんな平和はすぐに崩れ落ちた。魔獣たちの大群がなぜか急に押し寄せてくる。理由は不明。両親、兄たちは死亡。その他楠木家の人たち、使用人たちが次々と蹂躙されていく。正人を何とか逃がしてくれた兄もまもなく殺された。
「こんな片田舎になぜ私が行かねばならないのかと、最初は思ったが。なるほど貴様か、ゲシュタルト様が言う人間は」
「な、なんのことだ。僕は何もしてない……」
「ん? 記憶がない? それかまだ人格が出てきていないのか。ならば好都合だ。今ここで殺しておけばゲシュタルト様も納得するだろう」
死の間際、正人の感情が爆発した。それと共に相羽拓人の人格が覚醒した。
悪魔に首を掴まれていたが、その辺に落ちていた石ころと場所を入れ替えた。
「お前、死んでも俺に付いてくるとかどんな物好きだよ」
「オイラが死ぬ間際に呪いをかけた。死んでもなお強制的に魂に付随するって」
「まぁでもおかげで何とかなった。いくぞヴォイド、カグヤ」
覚醒してからは魔獣たちを次々と逆に蹂躙する。使い魔は少ないが2人とも強力な使い魔だ。その中に今使っているトリッキーという見えない壁を張る使い魔をテイムして、この事件は幕を下ろす。




