7-21.『天魔大戦』
最後、何とかアイリに言いたいことを言えた。伝わっててくれたら嬉しいが、まぁそこは伝わってくれているだろう。
ーーしかしこの場所はどこだろうか?
何もない。天も地も定かではない。歩いている感覚はあるがふわふわしている。それに自分自身を触られない。透過してしまう。けどちゃんと話せるし歩ける。
「お主! どこへ行くつもりじゃ!」
後ろを振り返ると巫女装束をもっと派手にしたような子どもが現れた。
「誰?」
「お前! 妾を知らぬのか!? かなり長いこと見てきたのにか!?」
「あんたが長く俺を見ていても面識がないんだ。どうしようもないよ」
「むむむ……」
何か考えている。普通に自己紹介してくれればいいのだけれど。
「うむ、よし。お前には妾の名前を教えてやろうぞ」
「よろしくお願いします」
「妾は『太陽の一族』の長。太陽神『天照大神』である! さぁひれ伏すが良い。特別に見てやらんでもない」
「あぁ、太陽神ソール!」
「その名で呼ぶでないわ。本名じゃないのに下界ではソールで通っているのに憤りを感じるのじゃ」
「アナスタシアがいつもお世話になっております。まさか太陽神様だったとは」
「何じゃ? 随分と聞き分けがいいのう」
「俺の弟子アナスタシアを見出してくれたことにはすごく感謝してるので」
でも意外だ。風神ボレアスは意識内ではあるが見たことあり神の威厳というのが感じられた。しかし太陽神ソールは威厳が感じられない。背も低く子どものコスプレみたいだ。
「でも何かイメージと少し違いますね。俺の知っている天照大神は大人の女性で威光を放っている感じなんですが」
「威光か? それならいくらでも出せるぞ」
後光とでも言えばいいのか、ピカーっと光った。そういう意味ではないんだが……。
「威厳というか、圧というか、俺の知っている向こうの天照大神はそんな感じですね」
「向こうの妾か? 向こうのとは妾であって妾ではない。同一の存在だが、切り離されたお互い別人格みたいな感じなのだ」
「ではお互いの存在は認知していると?」
「当たり前じゃ。向こうの言葉でメル友って言うらしいのう。たまにだが連絡もとっておる」
そういう感じなんだ。お互いの対応している神は通じている。この世界と向こうの世界は表裏一体というわけだ。
「そんな話の為に読んだのではない。妾に触れよ、お前を呼んでいる神がいる」
触れられないと思ったらソールには触れられた。そしてどこかに瞬間移動した。
「よくぞ参った、双竜よ」
「ここは?」
「ここは神々が集う場所だ。そして我は四職神が一柱、テイマーを司る『ヴォルス』である」
マスター・テイマーになった時一度だけ見たことがある。ということは両隣にいる残りの三柱がソーサラーの神『ナヴィア』、スミスの神『エルン』、メイカーの神『ラーシル』か。四柱で1つの神『四職神』が勢揃いだけでなく、その他にも名前がわからない神が沢山いる。その中で四職神に近い位置に三柱がいる。その中の一柱は風神ボレアスだ。意識内で見たまんまの姿だ。
「なぜ俺はここに呼ばれた? 死んだはずなんだけど」
「見ていた。一時的な封印とはいえよくぞやってくれた。しかし、その封印も10年程で解かれてしまう。今はただ仮初の平和なだけに過ぎない」
「次は大賢者とアナスタシアがやってくれる。10年もあればあの子は飛躍的に伸びる。ここにいる太陽神の加護もある。心配する必要はないと思うけど」
「それだけでは不可能だ。思い出してみよ。敵は悪魔王に加えて配下の悪魔が多数いる。アナスタシア・ヴェストフォルにはその対応に追われる」
「何が言いたい?」
「お前は転生し、もう一度悪魔王と戦うのだ」
転移の次は転生か。それに悪魔王と戦う為だけに転生するのか。
正直、転生はしたくない。戻っても姿が違うから家族には会えない。だが、ここで転生し本当に悪魔王に勝てたら、家族が暮らす世界は守られる。会えないが少しでも安心して暮らせる世界が実現出来るなら選択肢は1つだ。
「いいよ、やる」
「その言葉、待っていたぞ。そして約束しよう。勝利した暁には、ここにいるすべての神の力をもってお前を元の体に戻してやる」
「本当に?」
「神に二言はない。それだけ悪魔王打倒はここにいる神にとっての悲願なのだ」
「転生する前に悪魔王ってのは何なんだ? 俺からしたら突然現れた強敵という情報しかない」
「そうだな、では人間の世界で英雄譚とされてる話をしよう」
◇
宇宙ができ、次第に地球が出来上がったと同時にもう一つの世界も出来上がった。最初の頃は地球と同じく微生物から始まり、徐々に進化していき、人が完成した。地球と違うのは魔法の存在だ。一部の人間は魔法が使えた。とても便利ではあるが便利ゆえに地球に比べて文明の発展は著しく遅れをとることになった。
魔法の発展よりもさらに昔。それこそ人がまだ海にいた時代。原初の神はそこにいた。何もなく到底暮らせるような環境ではない。そこで神はさらに2柱の神を産み、3柱は人が暮らせる環境を作るために大地を塗り替え、川を整備し、海を整えた。全ての力を使い果たした3柱は消え去り、別の神々が産まれた。これがのちに人々から『ゼウス』『天照大神』と呼ばれる神の誕生である。
さらに時は流れ、人が産まれ衣食住がそれなりに発展した頃、天界ではあることが問題となっていた。人の悪意から生まれた存在である神アングラとの対立である。人の時代が進むとともに悪神の力が増していくことを恐れていたのだ。
「今回の議題は悪神アングラについてだが、ボレアスよ。何かあるか?」
「アングラを倒すのは賛成だが、現実として倒すことができるのかどうか。彼奴の源は人の悪意だ。人が消えぬ限り力は増幅するし、倒したところでどうせ復活する。人を滅ぼしたとしたら今度は我々も存続することができない。産まれた時は親父から渡された力で維持できていたが、今は人の信仰によって成り立っている」
「何が言いたい」
「簡単な話だ。封印しかあるまいよ。親父含めて我ら『天空の一族』は封印術についてはからっきしだ。つまり封印術を得意としている『太陽の一族』の力が必要だ」
「では『太陽の一族』としての意見はどうだ、海神よ」
「別に俺は自由に暴れられるなら何でもいい。それにツクヨミの姉貴は言われれば断れない質だから、言えばやってくれるぜ」
「では海神よ、ツクヨミに言っておいてくれ。我が弟クトニオスもそれで良いな」
「……」
「どうした? 何かあれば言え。話が纏まらん」
「悪神の封印については何もない。私もそれしかないと思うが、何か勘違いしていないか?」
「何だと?」
「悪神の狙いは力をつけて絶対神の座を狙っていることだ。つまり兄者を殺すことと同義」
「だろうな。それくらいはわかっておる。故にこうして話をしているのだ」
「それが悪神だけとは限らないということだ兄者よ」
場が一気に凍りつく。ボレアスが戦闘態勢に入った。
「なぁ叔父貴。ワシが産まれたての頃、あんたには世話になった。正直言うとあんまり戦いたくはない。だからその殺気しまってくれんか?」
「ボレアス。叔父として猶予をやる。お前も兄者につくと言うのなら今この場で殺すが、こちらにつくというなら許してやる」
「ワシは親父から産まれた。付くなら親父以外はありえん」
「そうか残念だ」
ゼウスの弟であるクトニオスは力を使い建物ごと破壊した。これは兄に対しての宣戦布告だった。
「私はツクヨミとは仲が良いから、ツクヨミの弟であるお前ならこちら側についてくれると思ったのだが、どうやら違ったらしいな」
「ワシもてっきり向こう側と思ったわ。だが、お前がこちら側なら心強い」
「勘違いすんな。俺はただ暴れたいのと、ジジイに借りがあるからだ。姉貴がじじい側かどうかなんて知るか」
「あの弟想いのツクヨミのことだ。こちら側に来てくれる」
ゼウス、ボレアス、スサノオの3柱がその場に並び立ち、クトニオスと向かい合った。
「流石にこの場は私が不利すぎる。兄者……いや、ゼウスよ。今この瞬間からお前とは敵だ。その首が切られる時を想像しながら震えてるがいい!」
クトニオスはこの場から姿を消した。
これが後に天界側と悪神が戦う『天魔大戦』と呼ばれ、英雄譚の始まりの物語だった。




