7-19.『水宝宮の試練③』
重剣、柔型二節『天城』は一振りで空間を裂く奥義。その時現れた次元は世界による修正力によって閉じるが、副作用として吸引力が発生する。当然その次元は斬ることによって発生したため1ミリでも触れると切り刻まれて木っ端微塵だ。故に重剣という流派は最強という声も少なくないが、あくまでこの奥義を習得できたらの話。この奥義を使えるのは世界でたった2人。その1人は今、目の前にいる。
戦況が大きく変わった。闇雲に突っ込めばあれを出される。だけど、距離を取っていてもジリ貧だ。
「では次の段階に進む。武器と体に纏わすことを覚えたのならもうできるはずだ」
「な、なにを?」
「神を降ろす」
「それって確か段階があるよね?」
「三段階あり、お前は今この人間の世界で言われる『1stステージ』と呼ばれる1つ目の段階を使用している。そして次に『2ndステージ』をやる。これを覚えることができればさらに強くなる」
神との接続は三段階ある。1stステージはただ、神と接続して無限の魔力を得られる。2ndステージはより深く神と接続する。溢れる魔力はまるで神を模したように形成される。正人君が言うには95%のパフォーマンスを可能にするらしい。そして3rdステージは神を降ろす。人格を神に委ねるらしいが正人君でも不可能だと言う。
「水神の姿を想像しろ。無限に溢れる魔力の元を辿るのだ」
「水神の姿って、絵本でしか見たことない。本物なんてわからないよ」
「それでいい。神は1つの姿だけに非ず。信仰は違えど同じ水を司る神を崇めている民は多い。数多くあれど本質は変わらない。ネプチューンであろうとポセイドンであろうと、スサノオであろうと全て同じ水の神だ。お前にとって1番馴染みのある水神を思い浮かべればいい」
「私にとっての1番……」
それはやはり絵本であるような三叉槍を持ち髭面で、屈強で、羽衣を纏っている雄々しい姿だ。
後は魔力の元を辿る。意識がどんどんそっちに引き寄せられる。まるで底のないプールに入ったように延々と沈み続けるような感じがする。でも不思議と心地いい。深く行けば行くほど強い魔力を感じ取れる。
「たったそれだけの時間でオレにたどり着けるたぁやるなぁ小娘」
ーー誰だろう?
「オレが送り出した息子がやっと見つけた主人だ。レイヤのガキに負けたとあっちゃ面目丸潰れだ。貸してやる。オレの力を。ただし溺れるんじゃねぇぞ?」
意識がスッと戻ってきた。
誰かと話していた気がする。一方的だったけど。あれがもし水神ならもう頭に焼き付けた。
「行くよ、メルクリウス」
魔力のタガが外れたかの様に一気に溢れ出る。余剰魔力は形を変えて水神の姿を模す。
少し私なりにアレンジしてより動きを良くするための水の武装を施した。
「それがリリィの2ndステージなんだね」
戦乙女のようにドレスを着て、羽衣を纏う姿に変えた。槍の穂先も三叉槍に変えてより強くする。
「じゃあ僕もそっち側に行こう、かな!」
正人君も2ndステージに入った。でも思ったりも変化は少ない。
「土神レイヤは華美じゃないからね。意外とこんなものだよ。でも能力はさっきの比じゃないよ」
2ndステージ同士の戦いはもはや人の域に収まらない。一撃毎の威力が今までの比ではない。
私の場合、より水の流れが見える。そこを辿れば速さが段違いだ。流れに乗り加速すれば六連一刀流やリベリュール槍術よりも速い。そして何よりも空間の支配をしている。水中という特殊な環境下にある宮殿のすべてが私を自由にさせる。正人君の僅かな動きで生まれる流れもすべて手に取るようにわかる。
水中限定なら今の私はきっと正人君よりも強い。でも決定打に欠けるのはあの一撃があるから。
「恐れずに行け。今のお前ならあれを出されても問題ない。なんせここは水中。お前のルールで動きお前の思い通りに動かせる箱庭だ」
正人君が地面に触れると巨大な岩柱が何本も襲いかかってきた。
2ndステージに入ることによって得たことは他にもある。
水を自在に操るという動作を極限にまで行うことで得られる『抉ぐり』、『穿つ』力を手に入れた。
「正人君の大地を操る力とは相性最悪かもね」
「本来何年もかけて水流が岩を削っていく工程をとんでもない勢いで操作することで得られる訳か……。確かに相性は最悪かもね。でもさ、僕との技術面での不利は消えた訳じゃない。所詮は付け焼き刃だ」
何か言いたいのかわからないけど、今までにない異質な感覚が襲ってくる。
「大地の魔力とは即ち天体そのものを操る力。天体には重力が備わっている」
大地が揺れる。さっきより体が重い。重力を操るだけならーー!
「ラウラの闇属性魔法で反重力を使えば対応できる!」
「その魔法は所詮重力という名の真似事だよ。僕が扱うのは星が持つ重力そのものだ!」
突然圧倒的な圧によって押しつぶされる。反重力を持ってしても相殺できない程の圧!
「ベルグローテはテイマーなら誰でもテイムできる。だけどその力を扱うなら使用者に大地の魔力が備わっていることが条件だ。そしてーー」
人差し指を立てて何か小さな丸い物質を形成し始めた。
「大地の魔力とは星そのものを操るも同義だ。これは星にあるエネルギーの一部を今発動中の重力によって閉じ込めている状態だ。これを放つとどうなると思う?」
「そんなの……知らないよ……」
「神器ベルヴェルクの最大威力よりもやや高いくらいだけど十分この辺一帯は吹き飛ぶだろうね」
重力の効果が切れた。何で解いたの……?
「もしまだ僕とやるならこれを放つ。今神との接続を維持できてない君が受けたら間違いなく死ぬ。この宮殿も無くなるからメルクリウスも下手をしたら天界に戻ることになるかもね。結局神使たちをこちら側に繋ぎ止めているのは建物なんだし」
そういえばいつの間にか接続が切れてる。
「私の負けだよ。スケールが違いすぎる」
「メルクリウスの力ももっと極めればできることは多い。まだテイムして数分なんだから出来なくて当たり前。むしろよくそこまでできるなと感心するよ」
「全部メルクリウスが言ったことをやっただけだからそんな大したことないよ」
「言ってすぐできることは簡単じゃない。飲み込みが早いって言えばいいのかな。槍の練習だって早かったし。普通は年単位で修行するものだよ。だから自信持っていいよ」
「正人君がそう言うなら」
少し照れる。私にも何か誇れる才能があったんだ。家族の中で1人等級が低くて、戦う力もなかったけど今は違う。旅をして生きる力を手にして、そして好きな人と出会った。偶然なんだろうけど、双竜の娘というのも案外悪くない。
「行こう。帰って報告しないといけない人がいるでしょ?」
「そうだった。アナスタシアさんに言わなきゃ」
陸に上がり、閉じていく海を眺めている頃には夕陽は水平線に沈んで言った。
時間は少し経ちヴェストフォル王国に戻ってきた。真っ先にアナスタシアさんの下に行き報告する。
「リリィならやれると思ってましたよ」
「正直運と縁だけで何とかなったと思ってます」
「運も縁もとても必要なことです。何よりもあなたが無事で良かった」
ギュッとハグをしてくる。やっぱりこの人の胸の中は暖かい。疲れが癒やされていく。
「何はともあれしっかり休んでください。今後についても話す必要があります。」
「わかりました」
確かに疲れた。アナスタシアさんに触れて強張っていた緊張が解けた。




