ババアの指示で年下美少女が激しいセッ○○
「アンタたちッ! ぷりちーなアタシを待たせて何やってんだいッ!?」
今にも俺の首を取らんと迫っていた木刀がピタリと止まる。
辛うじてその軌道に回避行動をとっていたが、間に合ったかどうかはわからない。
要するに俺は絶対絶命の状態で固まったまま、突然の闖入者の台詞に目をパチクリ。
「……誰?」
思わず聞いてしまったのも無理はないと思う。
ぶかぶかのハーフパンツをケツ近くまでずり下げ、やけに攻撃的なイラストのTシャツを着て、ジャラジャラと首から下げたメタリカルなネックレスが酷く日光を反射する。
頭には斜め後ろに被った派手な色の帽子。そして目元には、何を思ったかデカすぎる星形のサングラス。
極めつけは、今にも「YO!」とか言い出しかねない黒人ラッパー的ポーズだ。
コスプレなら笑えるだろう。若気の至りならば許されるだろう。しかしその人物はどちらにも当て嵌まらなかった。なぜなら――――
「お。おい佐々木…… このブッ飛んだババアは誰だ……?」
俺が呻くと、鈴蘭がサッと膝を付いた。
「婆様ッ!」
「…………は?」
い、いやちょっと待て。
婆様って…… 佐々木家のご当主様でいらっしゃいますよね……?
一瞬俺は不謹慎な想像をしてしまったが、いやいやそれはないと首を振る。
由緒正しきサムライの当主が、ボケのまわったB系BBAとかあるわけがない。
「あたしゃずっと待ってたんだ! こんなところで何してるんだい!」
ババアが『チェキラ!』みたいなポーズで声を荒げる。
クッチャ クッチャ とガムを嚙む音が非常に不愉快だった。
俺は眉間を軽く揉んで言った。
「おいババア…… ここは佐々木さんちでアメリカさんは3軒隣だ。わかったら回れ右して帰―――」
「オラァァッッ!!」
「ぶぎゅぼべッッ」
思いっきり腰の入ったアッパーカットがレバーに突き刺さった。
体中の酸素が一瞬で排出される。
いっそ清々しいほど装甲を無視した打撃だった。
「なんて失礼なガキだッ! 『ぷりちー』なおねいさんだろうッ!?」
「婆様、それはさすがに無理があるかと……」
「大体なんだいこのしみったれたガキはッ!? ぷりちーじゃないねッ!」
「そ、その方は兄上の主君で……」
妄言らしきセリフがやけに遠く聞こえる。
他にも訳の分からんことを言っているような気がしたが、確かめる事も出来ないまま、俺の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「というわけだ。悪かったね」
「いや、まあ、ハア……」
かぽーんと鹿威しの間抜けな音が庭園に響く。
俺は今、なぜかファンキーなババアと一緒に、縁側で麦茶を飲んでいた。
チリンチリンと風鈴が済んだ音を奏でる。
涼し気なグラスを口元に、氷の浮かんだ麦茶を一口。ほうっと息を吐くと、そのまま絵日記の世界に飛び込んだ気分だ。
横目で見る小柄なババアから貫禄らしきものは感じられない。
ていうか星形サングラスをかけた老婆に貫禄があっても困惑しかないと思う。これがあの一輝の師匠かと思うと正直拍子抜けの感が否めなかった。
対人戦ではもしかしたら葵よりも強いだろうサムライの恐ろしさを知っているだけに、もっと鬼のような人物を想像していたのだ。
帽子からはみ出た白髪や、口元の皺を見る限り60代、70代なのだろうが、肌には張りがあって若々しい。
高い鼻梁から顎へのラインは美麗で、若いころは相当モテたと思うが何で俺はこんなババアの描写をしているんだろう。
「話した通り今の時代、サムライは不遇でね。対人戦じゃとんでもなくプリチーなんだけどダンジョンが絡むと、ちょっと強いだけのヒトになっちまう。ヒトガタの魔物に滅法強くてもダンジョンはそれだけじゃないからねえ……」
「まあ、ごもっともというか……」
ダンジョン時代のこのご時世、いくら対人で驚異的な成績を残しても結局最後はダンジョンアタックがものを言う。
サムライは強い。とんでもなく強い。それは誰もが知る事実。
しかし『対人に限って』という但し書きがついてしまった時点で格は1段も2段も落ちてしまうのが現実だ。
高ランカーにすら届く必殺の刃も、低層階のゴーレムすら斬れないとなれば軽んじられてしまうのも十分頷ける。彼らサムライは今、そんな出口の見えないジレンマに陥っているのだという。
だから技術も経験も無く、低レベルで火竜の装甲を抜いた俺の存在が注目され、技を盗もうと躍起になっているというのだ。
「一つ質問、いいッスか?」
「あん? 構う事ぁないよ」
「なんでサムライって対人なら格上の装甲でも抜けるんスか……? 同じモンスターでもヒトガタならば抜けるんでしょ? 違いが分かんないんスけど……」
「ああ、それかい」
ババアは、くちゃくちゃガムを噛みながらグビリと麦茶を一口。
なんて行儀の悪いババアだと思った。
「ぷりちーだからさ」
「いやプリチーて……」
困ったようにババアを見ると、ババアも困ったような表情を浮かべていた。
本気で自分でも理由がわからないといった風だ。
しかし、ババアは「でもね」と言って語りだす。
「あたしたちゃ、人を斬るために人斬り包丁担いで生きてきた。ご先祖様もそのまたご先祖様もさ。そしていつしかあたしたちは出来るようになってた。『人を斬る』って事がね。トップランナーだろうが何だろうが人だ。人である以上、あたしらは斬れる。サムライってのはそういう存在なのさ」
「いやでもヒトガタっていってもモンスターは人じゃないッスけど」
「認識の話さ。あたしらが人だと認識すりゃそいつは人だ。だから人の形をしたバケモノは斬りやすい。頭のどこかで混同してるんだろうさ。ホラ、あれを見てみな」
そう言ってババアが顎をしゃくった先にいるのは、薄い鉄板を巻きつけた案山子と、その前で居合の構えをとる一輝だ。
一輝は、ヒュッと細く息を吐くと、目にも止まらぬスピードで抜刀。
銀光が煌いた後、流れるような動作で納刀し、鍔と鞘がカツンと音を立てる。
と同時に、鉄板ごと切断された案山子がドシャリと音をたてて地面に落ちた。
「切断面を見てみな。何が見える?」
「あれは藁と…… 鉄棒!?」
繊維を潰すことなく切断された藁束の中心に黒光りするのは、幅2cmくらいはある鉄棒。なんと竹の代わりに鉄骨が使われていた。
薄い鉄板ならまだしも、あの太さの鉄の棒を、同じ鉄から出来ている刃物で両断するなんて普通は考えられない。力や技の問題ではない。単純に武器の問題だ。
だからこそ冒険者たちは武器に魔導を通すし、武器の方も魔導を通すことを前提に作られている。そうしないとモンスターの装甲や障壁を抜けないからだ。
なのに、今の一輝の居合にはその気配が無かった。完全に素の技術だけで鉄を斬ったのだ。
当の一輝はというと、出来て当たり前みたいな飄々とした態度だ。
「あれって普通の刀すよね…… 魔導を通してる気配も無かったんスけど……」
「魔導と剣気は相性が悪いらしくてねぇ サムライは魔導を使えないよ」
「……は? え、と……?」
「信じるのは己の技とぷりちーだけって事さ」
「マジかよ……」
信じられない。普通に考えたら有り得ない。
人はレベルが上がるからこそ様々な事が出来るようになった。魔導を扱えるようになったからこそ、冒険者たちは超人的な戦闘能力を手に入れた。
だが彼らは、ダンジョン由来の要素に頼らず超人の域に達してしまう。その意味が分かるだろうか。
これが在来者なのかと、俺は照り付ける太陽の下で寒気を覚えた。
「だけど、あれを見てみな」
一輝が再び居合の構えを取っている。
彼の目の前には、ただの鉄の棒がある。唐突に地面からニョキっと生えたそれは手首くらいの太さがあり、高さは胸くらいまで。
庭園に唐突に生えた円筒上の物体なんて違和感しかないはずなのに、黒と銀と茶が混然一体となり年季が入っているせいか不思議とすんなり風景に溶け込んでいる。
おそらくはずっと昔からこの場所で修練として使用されてきたのだろう。
そして一輝は気合一閃。
先ほどと同様、目視不能のスピードの斬撃はしかし、甲高い音と共に鉄棒に弾かれる。
鉄の棒はただの鉄ではないのか、表面に傷くらいはあるものの、切込みのようなものが入った気配は無い。少しだけ一輝の顔に悔しさが滲む。
目の前で容易く鉄骨を切断してみせた一輝の斬撃が通らなかったのだ。
「ご覧の通りさ。人の形をしていないただの棒じゃ、あたしらのぷりちーな技術が発動しない。人によっても範囲は曖昧でねぇ。一輝の実力だったら全身鎧くらいまでなら何とかなっても強化外骨格はまあ…… 難しいねぇ」
自分だったら強化外骨格を斬れると言わんばかりだが、このババアは実際に斬ってしまうのだろう。そんな気がする。
ダンジョン要素無しで物理法則無視するババアとかマジ怖ぇ。
「それで俺が招待されたって事ッスね」
俺がそう言って肩を竦めると、ババアは『ヘイ! メーン!?』みたいな感じで俺をビッと指さす。
あやうくこの若さで脳溢血になるところだった。
「とりあえずその力を見せてくれないかい? プリチーにね」
「いや、見せてって言われても……」
俺のスキルは相手がいて初めて成り立つし、相対的にダンジョンの恩恵を無視するというワケのわからないものだ。
レベル1ですら俺を圧倒したサムライ相手に今ここで使用しても意味なんて全く無い。
そうざっくり説明してもババアが食い下がってくるので、俺は渋々ながらスキルを開放する。
「じゃあまあやってみますよ。秩序破壊」
いつも通り、ガキンと、不可視の何かが砕ける感覚。
かといって何かが起こるわけでもない。
「なんも変わらないねぇ」
「変わんないんすよ」
ババアは「う~ん」と腕組みした後、突然、キラッ☆ みたいなポーズで言った。
「鈴蘭、ちょっと相手をしてみな」
「はい、婆さま」
いつの間にか後ろに控えていた鈴蘭がスッと腰を上げる。
いやいやいやいやいや…… スキル使った瞬間殺されると、さっき冷や汗流したばっかりなんスけど
という俺の固辞はやんわりと拒否され、俺は鈴蘭に引きずられるように連れ出される。
「鈴蘭、ぷりちーにやんな」
「はい婆さま。クールにいきます」
「お前ら話聞けって」
ボコボコにされた。
殺されるかと思った。クラスメイトの妹に。
「なんだいその力は」
「……俺が聞きたいっすよ」
半べそ書きながら項垂れる。
鈴蘭は納得いかない表情で一輝の下に駆けて行った。遠目で見てもなんか興奮気味で抗議してる。
情けなくて泣きたくなった。
「でもアンタは確かに貧弱な魔導銃で火竜の装甲を抜いたんだろ? もっと応用は利かないのかい?」
「応用……?」
「剣気も剣技もスキルも一緒さね。基本的な使い方があるってことは他にもプリチーな使い方があるもんさ」
俺がおずおずとババアを窺うと、ババアは呆れたように言った。
「ダンジョンが定めた秩序を無視するのがスキルの本質なら、他に無視できるものは無いのかい? って言ってんだよ。サムライが人ではない人型のモンスターに強いように……て、いや、もしかしてサムライだって他に…………」
ブツブツ言いながらサングラスを外すババアは、そのまま俺をほったらかして黙考に入った。
初めてババアの素顔を見たが、くりっとして可愛い目をしててかなりの美形だ。
一瞬だけレベルアップを見たいかもと思った自身に、俺は戦慄を禁じ得なかった。
答え:ババアの指示で年下の美少女が激しいセッカン




