4章 【彼方を照らす光】 お留守番
売れてくださーい。(切実)
ということで、新章開始。目標12万文字以内
プロローグと導入で既に1万文字使ってる件・・・orz
まだカーテンの隙間から差し込む光が青白い時間帯、枕元に置いてあった端末のバイブで俺は目を覚ました。
起きた瞬間に襲い来る生温い空気と無駄に元気な蝉の声。
うつ伏せのまま枕に顔を突っ込み、未だ振動し続ける端末を手で探す。2,3度空振りしてから探り当てた端末を引き寄せ寝返りをうつと、脇のあたりでモゾモゾと何かが動く気配。
「くあぁ」
寝ぼけたシロが目をショボショボさせながら、俺の腹に顎を乗せる。そしてそのまま再び寝息を立て始めた。
決して爽やかとは言えない目覚めも、シロの無垢な寝顔を見てると頬の筋肉も緩みがちだ。
目覚まし時計を見るとまだ6時半。
今日から佐々木の実家に行くので、早起きする予定だったが電話で起こされるとは思わなかった。
こんな朝っぱらから誰だよと目を擦りながら端末の画面を見ると、そこに表示されていたのは『おふくろ』のひらがな4文字。
俺は溜息をつきながら通話ボタンを押した。
「おふくろ、こんな朝早くから何だよ……」
『もしもしミナちゃん? 最近連絡無いからお母さん心配になっちゃって……』
未だ子離れ出来ないおふくろは、特に何があったわけでもないのに、突然心配になり突然電話を掛けてくる。親が子供を心配するのはしょうがないとしても、正直勘弁してほしいと思う時が無いでもない。
『さっきゴミ出しに行ったらお向かいの田代さんがね、年頃の男の子は夏休みに非行に走るって言うのよ。お隣の田中さんはミナちゃんは「エンジョー」だから「ひきおたにーと」一直線かもしれないって。世間の目を忍ぶんだって……』
「前から思ってたけどウチのご近所さん大概だな」
おふくろは世間様からズレまくっている天然の人なので、あることない事吹きこまれ放題だ。
ていうかご近所さんの評判悪すぎて実家帰りたくないんですけど。
『お母さん「エンジョー」も「ひきおたにーと」もよく知らないけど、最終的には「がちむちワッショイ」だって斜向かいの矢追さんが……』
「おふくろ…… 矢追さんは特に頭が発酵してるから話を鵜呑みにするなって言っただろ」
『でもお母さん心配でっ』
おふくろの心配は最早趣味なんじゃないかと最近思う。
親父から聞いたところによると、俺が一人暮らしを始めてから、時折ボーっと宙を眺め『ミナちゃん元気かしら……』とか呟いたりするらしい。
ちなみに、なんかの拍子に旨鹿にその話をしたら、『全てお前が悪い』と一刀両断にされた。さすが生粋のマザコンは言う事が違う。
「まあとにかく俺は元気にやってるから心配すんなって」
『とにかく危ないことはしちゃ駄目よ。夏休み中にお母さん一回そっちに行くからね』
学生とはいえ冒険者掴まえて危ない事するなとか……
俺は苦笑しながら適当に返事をして電話を切った。流石に来るなとは言えないし、言う理由も無い。たまにはおふくろを安心させてやってもバチは当たらない。
やれやれと伸びをすると、いつの間にか目を覚ましたシロが首を傾げながら俺を見上げている。誰とお話をしてたの? とでも言いたげな感じだ。
「おふくろだよ。何かあったらすぐに電話をかけてくるんだ」
「くあくあ?」
「そういえば、お前にお母さんはいるのかな?」
「くあ~~ッ!」
何の気なしに放った問いに対してシロが嬉しそうに鳴く。見る限りシロは俺たちの会話を理解しているっぽいので、おそらく「お母さんいるよ!」と元気に答えたのだろう。
シロはダンジョン由来の生き物だから、親子とかどういう事になってんだと思うと同時に、きちんと母親に会わせてあげなければと少しだけ気合を入れた。
「そうか、じゃあいつか必ずお母さんに会わせてあげるからな。約束だ」
「くぁくあ~!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日も当然のようにオークパジャマで朝飯を食いに来たメス豚アーニャに、俺は開口一番で言った。
「―――ということで3日ほどシロをあずかってくれ」
「く、くあッ!?」
シロが驚いたように俺を見る。
アーニャも少しだけ焦ったように声を荒げた。
「と、突然どうしたブー!?」
「その『ブー』をやめろ。想像以上にイラっとする」
「ミナト様の仰る通りでございますよ嬢様。ここは卑しいメス豚らしく、きちんと下品におねだりすべきかと」
見た目は完璧な駄メイド、タバサさんが何故か険しい表情でアーニャをたしなめた。
するとアーニャが仕切り直すようにコホンと咳払い。
おもむろに床に転がると、ゴロにゃんポーズで言った。
「ご、ごはん欲しいニャンッ!」
俺は道端のクソを見るような目で吐き捨てる。
「ゴミが」
「なんでッ!?」
おねだり = にゃん♡ という浅はかな様式美が日本のサブカルを駄目にしているとなぜ気付かない。
上辺だけの作品に人の心を動かせると思うなよ。
猫耳であるだけで萌える時代はとうに終わってる。必要なのはプラスアルファだ。
「ちなみに、今の場合の正解は『私のレベルアップ見てほしいニャン♡』だ」
「えっ そこなのッ!?」
真理を理解しない愚物と議論しても仕方ないので、俺はとりあえず経緯を説明する。
佐々木の実家に修行に行くこと。
折角の機会なので数日間の泊まり込みになること。
その間、シロの世話をする人がいなくなってしまうので手を貸してほしい。
お前はいつになったらレベルアップするんだ。
「レベルアップは…… まだまだ出来ないと思うブー……」
「出来る出来ないじゃない。やるんだ。自分を信じよう。きっと俺も手伝えるはずだ」
「それはちょっと……」
「くあ! くあくあ~~ッ!!」
俺たちが会話をしていると、私の事を忘れないでとばかりにシロが俺の胸に縋りついてきた。
物凄い罪悪感に襲われるが、これは仕方のない事なんだと自身に強く言い聞かせる。
「シロ、少し離れるだけだ。2,3日したら俺は帰ってくる。そしたらまた一緒だ。だから少しだけ我慢してくれないか……?」
「くあ~~ッ くあくあッ!」
今にも決壊しそうな涙目で必死に何かを訴えてくるシロ。
自分も連れてってと言っているような気がした。
「駄目だ。連れて行けない。今回はお留守番だ」
「くあッ!」
「いいかシロ。人間の言葉を完璧に理解する動物はこの星に存在しない。お前がダンジョン由来の生き物である事は見る奴が見たらすぐわかる。そしてバレたらきっと大変な事になる。お前もただじゃ済まないかもしれないんだ。錬金術師はこぞってお前を欲しがる。冒険者ギルドだって黙っちゃいない」
そもそもダンジョンのモンスターはゲートをくぐれない。
もしそんな事が出来ていたら世の中はとっくに魔界になっているし、ダンジョンアタックどころではなくなるだろう。
DNAを採取してクローンを作ろうとした学者もいたが結局実現は出来なかった。地球科学でいう遺伝子という要素がモンスターには存在しない時点で科学的アプローチは不可能と言っていい。
ダンジョン内の生き物を外に連れ出すためには、冒険者ギルドだけが保有する特殊な技術が必要だ。
しかもその技術は超高レベル機密扱いされていて、一般人の目に触れる事はまずない。一般人どころか、ギルドの中でも一握りの幹部と研究者しか知らないと言われている。
その技術の危険性を鑑みると至極当然と言う他ないだろう。
そんな状況だというのに、たかだか高専生がよくわからない内に出来ちゃいました、なんて笑って済む話であるはずがなかった。調査、尋問、研究、考えだしたらキリがない。
クラスメイト達は馬鹿ばかりだから気にもしていないだろうが、シロがこの場にいる事は何気にとんでもないことなのだ。少なくとも俺たちは一緒に暮らすことは出来なくなる事は間違いない。そして俺にとってそれは受け入れ難い。
「シロ、わかってほしい。今は危ない橋は渡れない。俺はお前と約束したんだ。必ずお母さんの下に送り届けてやるって」
「くあ……」
アーニャは残念イモ子だが信頼は出来る。
彼女自身、正体を隠している時点で、色々俺たちは一蓮托生の関係だ。タバサさんだってアーニャが本気で不利になるような事はしないはずだし、万が一、荒事になったとしても、これほど頼りになる奴は他にいない。
そして俺は知っていた。
「ほらシロちゃん、いってらっしゃいしてあげよう? ちょっとだけ我慢しようブー」
たとえ言動が残念極まりなくとも、キャラであるはずの語尾が錯綜していようとも
「おねえちゃんいっぱいアニメ持ってるから。一緒に見ようブー」
「くあくあ……」
彼女は仲間思いの優しい女の子だという事を。
アーニャはシロを優しく抱っこすると、一緒にソファに座って、当たり前のようにリモコンを操作し始める。
いつもアーニャを威嚇していたシロは、気落ちしている事もあるのか、されるがままだ。
パキリと小さめに割った煎餅をシロに渡し、満足気に煎餅にかじりついた彼女は、今度は得意げに今から見るアニメの見どころをシロに語りだす。
俺はタイトル名すら聞いたことがないが、可愛い幼竜と一緒に暮らす超絶親バカ勇者が、家賃工面のために走り回るお話らしい。
シロも最初は戸惑っていたが、ディスプレイに浮かび上がった可愛らしい幼竜が『シチューのうた』を歌い出すと、アーニャと一緒に体を揺らしてくあくあと歌いはじめた。
一応ココ、俺んちなんですけど―――というツッコミは今更だろう。俺だってそこまで無粋ではないつもりだ。
「アイツ、アホだけどいい奴ッスよね…… 本人の前では絶対言わないけど」
特に返事を求めるでもなくそう呟くと、いつの間にか俺の横にいたタバサさんがフッと微笑んだ。
「それはもちろん。このタバサが仕える主でございますので」




