第3.5章 栄光への道
このシリーズ初の難産でした・・
世界情勢的なお話
冒険者高専冒険家 1巻の表紙を活動報告に乗せています。
よかったら見てください。
在庫処分だと言わんばかりにバカスカ打ち上げられた核ミサイル。
たった2年で3分の1にまで世界人口を減らした、かの終末戦争は私たちが思っている以上に最近の話らしい。
いつだって笑顔と優しさを忘れない大好きなおじいちゃんでさえ戦争の話になると、決まって顔を紅潮させ、鬼のような形相で絶対に口にしてはいけない言葉を連発する。
あの腐れイ○ポのアカ共が! とか、ママのクソ穴でフィ―バーしな! とか、〇〇の凸凸で凹凹してやるぜ! とか、そういった類の言葉だ。
そうしてゼイゼイと過呼吸気味に息を荒げた後、決まって大きく深呼吸をする。
そしてついさっきまでの興奮がウソみたいに、穏やかに微笑んでこう言うのだ。
「私の可愛いグロリア、見苦しいところを見せてしまったね。思わず感情的になってしまったよ。でも聞いてくれないかハニー。主と君に誓ってもいい、悪いのはアカ共なんだ。そう、スターリンと毛沢東を神だと信じてるアホ共のことさ。あいつらはまるでピンポンダッシュする近所の悪ガキみたいに核のボタンを押しまくった。とても酷いやつらだったんだ」
現在は西と東に分裂したロシアに非核兵器で更地にされたあと、中国の核兵器で程よく地獄になった名も無き国出身のおじいちゃんにとっては、終末戦争はつい最近の出来事だ。
私の生まれた国、オーストラリアは戦禍を免れたほぼ唯一の国だった。
特に軍事的に強かったわけでもなければ、外交的に勝利したわけでもない。ただ何となく無傷で残ってしまった。そんな感じらしい。
国という国の首都は大抵、なんだかんだ核が落とされているというのに、我が国の元首都『キャンベラ』は、亡命軍に占領されたあげく独立宣言されただけで済んでいる。
命惜しさに、豊富な鉱物資源と食料と誇りを惜しげも無く差し出す土下座外交に切り替えたのが良かったと、褒めてるんだか貶してるんだかよくわからない事を専門家が言っていた。
そしてオーストラリアもいよいよヤバイってタイミングでダンジョンが現れ、『戦争なんかやってる場合じゃねえッス!」とばかりにそこら中で停戦合意がなされる。
各国の偉い人たちは唐突に平和と友愛と未来志向を語り出し、満面の笑顔で敵国と握手しまくった末、世界の1/4の地域を汚染し、80億もの命を奪った終末大戦は、あまりにもあっけなく終結した。
戦略核、戦術核含め、使用された核兵器の数 842発
弾道、巡航、迎撃その他、発射されたミサイルの数 23,211発
化学兵器、生物兵器等、非人道的兵器の使用が確認された例、 377例
世界中にバラまかれた薬莢の数 星の数ほど
私が見た歴史の教科書にはそう書いてあるが、国によって違うらしい。
あまりにカオス過ぎて誰も正確な事を把握できないのだ。
とまあ、とにかく暗黒時代が終わり、世はダンジョン開拓時代。オーストラリアの成績はすこぶる低い。
ほとんど汚染されていない大地と、未だ枯渇していない鉱物資源、食料生産可能な広大な土地に発電可能な自然環境。
多くの国民がなんとなく『ガーデンが無くとも生きていける』と思い、またそれが事実であったおかげで、ダンジョン探索の機運が高まらない下地があった。
結果、オーストラリアは豊富な資源を元に、どの国よりも早い復興を果たしていたにも関わらず、保有する【権限】は未だ0だ。
今現在も国民は文明的な生活を送る事が出来ている。
しかし、ガーデンが無ければまともな外交など出来ないダンジョン至上主義時代の今、ダンジョン弱国である我が国の扱いは、それはそれはもう酷いものだ。
今になってダンジョン攻略をしなければ未来は無いと、ダンジョンアタックに力を入れ始めてはいるが、国としての成果は芳しくない。
ダンジョン発現初期での出遅れが致命的だった。
比較的攻略が容易だった階層の権限は全て他国が保有している。
ダンジョンアタックで手に入る技術やノウハウを蓄積し、転用した現代技術を惜しげも無く投入するという正のサイクルが出来上がっている国との差は絶望的なまで広がっているのだ。
アメリカ、ポーランド・ウクライナ連合、統一ゲルマン帝国、インドネシア列島同盟、モロッコ、マジャール・イスラム共和国連邦、日本
大戦により、国連やらG20やらといった既存秩序やパワーバランスは完全に崩壊し、今やダンジョン列強7カ国、【D7】が新秩序の中心である。
世界の2/3の富を独占する彼らの機嫌を損ねては、この汚染された星で生きていくことは出来ないし、彼らの意向無くして世界は回らない。
それに異を唱え、我が国こそ覇国と真中華民国などは声高らかに叫んでいるが、耳を貸すものなど一人もいなかった。むしろ聞こえてくるのは嘲りの声だ。
確かに冒険者の質は列強と比べて何の遜色も無いのが真中華民国である。
先日、【迷宮王】が亡命したりと不安要素も大きいが、それでも冒険者の層はもしかしたら列強に対抗できるかもしれない。
虐待とも取られかねないほど苛烈な英才教育体制は戦前からのお得意技で、ノウハウも実績も申し分ない。右向け右で、一斉に右を向くガチガチの共産主義国家の強みといえるだろう
しかし、そんな共産主義国が権限を手にした例など一つも無いのが現実だ。
実力的な問題ではない。もっと根本的な問題なのだ。
実際、真中華民国は権限を保持するに至った冒険者パーティーを輩出したことがあった。27階層の原始権限保持者チーム、【覇人連】である。
彼らは自らの限界を超え、己の全てを掛け、難所と評される27階層の権限を見事勝ち取った。
誇らしげに胸を張り、威風堂々と帰還した彼らを待ち受けていたのは、狂喜する国民、果て無き歓待と際限の無い称賛。
三日三晩にも渡る酒池肉林の宴の終わり、彼らの下を訪れた国の重鎮は満足気に頷いた。
「不撓不屈の革命闘士たちよ。同志の愛国的闘争により全人民の悲願は果たされた。さあ我らが偉大なる祖国に忠誠を示しなさい」
命を懸けて戦い抜いた戦士たちに向かって、でっぷりと脂の乗った指導者は、さも当たり前のように言ったという。
家を建てて上げよう。ガレージには高級車が入っているぞ。もちろん党のポストも用意しているとも。
階層権限が持つ本来の価値と比べると、同情したくなるほどの報奨と引き換えに権限譲渡を暗に強要され、頬を引き攣らせる【覇人連】のメンバーたち。
一人頭1億ドルをチラつかされれば祖国への忠誠だって揺るぎもする。
4日後、彼らは遠く海を隔てたアメリカで記者会見を開き、亡命とアメリカ政府への階層権限譲渡を表明した。
メンツ丸つぶれの真中華民国は師団規模の暗殺者を送り込み、現在までメンバー5名中、実に2名が殺害されているが、権限はアメリカが保持したままだ。
しかし真中華民国の凋落はこれで終わらない。
一連の事件をきっかけに統一ゲルマン帝国へ亡命した【鬼兵隊】が、後に権限取得に至ったことで、彼らは本来手にしていたはずの権限を2つも逃したこととなった。これは文字通り致命的な損失である。
以来、中国勢は権限争奪レースから脱落し、今現在に至るまで一つの権限も獲得出来ていない。彼らの中では上海連邦が一歩先んじてはいるが、列強の戦力に比べると貧弱と言わざるを得ないのが現状だ。
権限を一つも保有していない国に発言権は無い。
そしてそれは我が祖国、オーストラリアも同じこと。
「相応しくない…… 我が祖国はもっと素晴らしい国のはずだ。こんな扱いをされるべき国ではないのだ」
握りつぶさんばかりにニュースパネルを握りしめて、私は呟いた。
ニュースパネルに浮かぶのは、もはや見慣れてしまった感すらある『外交的敗北』の文字。
豊富な天然資源は列強国に毟り取られ、農産物の価格すらもいいようにコントロールされている。
非権限保持国同士の友好を深めようと、すり寄ってきた中国勢に足元を抄われ、本来豊かな国力は流出する一方。
このままでは駄目だ。このままではこの国は立ち行かなくなる。
権限が必要だ。この国を覆う暗雲を払うために、私達には単独行使できる階層権限が必要なのだ。
そんな事は分かり切っているというのに、冒険者ランキング100位に入る冒険者が一人もいないという深刻な現状を、正しく認識している者はいるのだろうか。
「少なくとも周りにはいない。私が通う冒険者学校に、危機感を持っている学生は皆無だ」
拳を打ち付けたテーブルがギシリと軋む。
みんな、ある程度の冒険者になってある程度の暮らしが出来れば良いと思っている。自分が権限を取得するなんて最初から想像すらしていない。そんな事ではダメなんだ。
この美しい街並みも。朝霧に濡れる新緑の香りも。汚染されていない川と、それがもたらす豊かな恵み。1枚20エーカーもの葡萄棚と、地平の向こうまで広がる小麦畑。
これら全ては坐しては得られない。闘わなければ守れないのだ。
「ならば、私が守って見せる。私が権限を持ち帰って見せる……ッ!」
豊かで素晴らしいこの国の未来のために。
この地で生まれる次代の子らが、誇りを胸に生きていけるよう。
私はそのための礎となろう。
「『聖弓騎士』 グロリア・エスペランサ。君の留学先は列強の一角、日本のブレイバーズ・アカデミーに決まった。気分はどうだね」
「ハッ 光栄であります! 教官殿ッ!!」
「かの国は4つの権限、5つのダンジョンゲート、同じく5つのダンジョン都市と32のアカデミーを抱え、更には訓練及び魔導実験のためのガーデン【Ibuki】を保持している。在来者の歴史も深く、ニンジャ、オンミョウジ、サムライが闊歩する神秘の国だ。君はそこでブレイバーとしての技術を磨く事になる。君は何のためにそこに行く?」
「ハッ 我が国悲願の階層権限を獲得するためでありますッ!」
冷たい風の吹く7月の終わり。
私の手には今、列強国で学ぶための数少ないチケットがある。
それはブレイバーとして高みへ至るために同世代を蹴散らし、死に物狂いで勝ち取った希望への架け橋。か細く、そして険しい百万分の1の彼方へと続く無謀な旅路。
だが私は決めたのだ。その道を征く、と。
今は未熟でも、いつしか最前線で戦い、そして必ず至って見せる。必ず夢を叶えて見せる。
「ならば今この場で名乗りを上げたまえ。誇り高き自身の名を」
胸が破裂するほど大きく息を吸い込む。
迷いは無い。覚悟は決めた。あとは一歩踏み出すだけ。
「私は『聖弓騎士』、グロリア・エスペランサッ!」
不倒の40階層を踏破し、その先に広がる深階層で。
そう、誰もが夢見る栄光の道へ
だから私は叫んだ。
「愛する祖国に【権限】を持ちかえる者でありますッ!!」
次から4章です。




