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戦評

シリアス終わり予定。

続きは今日か明日。遅くなってすみません。

「は、はいっ みなさん、きょ、今日はお疲れ様でしたっ! ええと、その…… い、いえ~い! おつかれちゃーんっ!! ぱふ~ ぱふ~ッ!」 


 お通夜みたいな雰囲気だ。

 この世の終わりみたいに空気が重い。

 なんとかこの空気を払拭しようと、教壇の上ではしゃぎまわるモモ先生が痛々しくすらある。

 

「先生、いいよ無理しなくて」

「ち、違……っ 先生、ふぐっ 無理なんかっ してないもん……っ」


 えぐっ えぐっ と泣き始めてしまったモモ先生を慰める余裕すら俺たちには無かった。

 練習試合を終えて集合した教室はやけに広く感じる。

 14人が思い思いに席に着き、ただ無言で机上の一点を見つめる様は、普段の騒がしさを知っている分、悔しさだけが胸に残る。

 あまりに重苦しい空気に、取材陣までもが最低人数だけを残して教室から逃げ出していた。


 チラリと葵の席に目を向ける。

 葵の姿は―――ない。

 息吹では死なないし、欠損も回復する。しかし見えないダメージというものは確実に残っているものだ。

 さらに葵のショックは大きかったのだろう。彼女は戻ってくる事無く、そして今この場にもいない。

 もしかしないでも俺たちと顔を合わせたくなかったのかもしれなかった。

 

「モモ先生、私が変わりますので座っていなさい」

「ぐすっ ふ、ふぁい……」


 モモ先生が教壇の脇にある椅子に座って、しょんぼり項垂れる。

 そしてクリスティナ先生が何事も無かったかのような表情で、ズイッと眼鏡を押し上げた。


「みなさん。今日はご苦労様でした。残念な結果でしたがこれが現実です」


 凛と涼やかな声が刃物のように感じる。何の感慨も無く言い切るクリスティナ先生に、俺たちは見捨てられたのだろうかと恐ろしくすらある。

 全くの無反応な俺たちに合わせるつもりなど無いと言わんばかりに、先生は淡々と話を進めていく。


「では今日の総括をしましょう」


 1戦目。『ACE』。葵の敗北。

 その衝撃がもたらした影響は甚大で、特に2戦目の『B&S』(タッグマッチ)は目も当てられなかった。

 超火力特化の神楽耶ジュリエッタ(固定砲台)と、随一の曲者、多々羅ナナのコンビは、練習ならば『東雲&弦月』ペアを完封するほど相性の良いコンビだったと思う。

 しかし、エースが負けたショックから立ち直れない2人は、動揺も露わに最初から最後まで主導権を敵に握られたまま成す術なく崩れ落ちた。


 いつもなら自由自在に可変式武装を操り、トリッキーな動きで敵を翻弄する多々羅が、まさか武器の変形に失敗するなんて思いもしなかった。

 『神楽耶をフリーにする』という役割を満足にこなせないまま、敵の矛先は当然のように固定砲台に向く。

 

 そして、その神楽耶(固定砲台)に至っては可哀想で声もかけられない有様だった。

 目つきが鋭かったり、あまり感情を表に出さない彼女は、クラスメイトから恐れられている存在だが、俺はそのイメージが間違いであることを知っている。

 時折見せるニヒルな笑みは、彼女が死ぬほど焦っている時にするクセだ。


 実はのんびりマイペースで鈍くさい神楽耶は、そう見えないだけで臆病なテンパリ屋である。

 さらには、そもそも発現系魔導士なのに魔導制御が苦手という不器用な女の子なのだ。


 冷静沈着な鋭い眼差しを維持したまま、酷薄と思えるほどニヒルな笑みを浮かべた神楽耶が渾身の爆裂魔導を放つ。

 「おおっ!」というクラスメイトのどよめき。

 そしてソレはレーザービームのような軌跡を描いて、なんとか立て直そうと必死な多々羅の背中を直撃した。多々羅は星になった。

 神楽耶(固定砲台)のもう一つの代名詞。

【仲間殺し】(フレンドリーファイア)である。

 

 誰もがキョトンと目を点にしていたし、敵のタッグも挙動不審に陥っていた。

 圧倒的ポルナレフ状態で静まり返るフィールド。

 神楽耶はそんな中、余裕たっぷりの表情で髪を掻き上げた。

 そしてなぜか高圧的な口調で言った。


「ジュリエッタはおととい出直す、ました」


 降参である。

 一瞬、目元が光ったが、おそらく涙だったのだろう。手元がプルプル震えていたからきっとそうだ。

 神楽耶ならば2対1でも善戦するだろうが、心が折れては戦えない。

 以前、実習でやらかして、校庭の花壇の花に話しかけている神楽耶を見たことがある。彼女の心は繊細だ。







「モモ先生、鼻をすするのはやめなさいと何度言ったらわかるのです? ホラ、これで顔を拭きなさい」

「……ふぁい…… ズビビィッ」


 クリスティナ先生に渡されたハンカチで容赦なく鼻をかむモモ先生。

 一瞬クリスティナ先生の眉がピクリと動いたが、先生は諦めたようにため息を吐いた。

 椅子にちょこんと腰掛けて項垂れているモモ先生は、まるで親の到着を待つ迷子の幼稚園児だ。

 俺は罪悪感でその姿から目を逸らした。落ち込ませてしまった原因は俺たちにある。



「良い経験でした。悔しいでしょうが早めに敗北を経験出来て良かった。特にTOBメンバーは目が覚めたでしょう」


 その言葉に、東雲が悔し気に唇を噛んだ。

 屈辱の敗戦を思い出したのだろう。他のメンバーも思い思いに敗北の味を噛みしめている。

 何が悪かったのか。絶望するほどの実力差など感じなかったのに、なぜなす術も無くやられてしまったのか。

 そんな疑問を覚えながら俺は戦闘場面を思い出す。




 重苦しい雰囲気のままTOB(パーティー戦)は始まった。

 

 パーティー戦のメンバーは東雲、神楽耶、田嶋、尼子屋 弦月、佐々木。

 武戦は、名前も知らない女3人 男2人と、リーダーの鹿島。そのうちの男一人だけが真剣な表情で試合に臨んでいるが、鹿島含めた他の5人は完全にニヤついていた。

 鹿島の存在感であまり目がいかない5人も、かなりの使い手であることは、油断ならない身のこなしからも推察できた。


 開始直後、飛ばすはずだった神楽耶の魔法が不発に終わる。ダッグ戦での失敗(フレンドリーファイア)が頭に残って威力調整に失敗したのだ。

 再度魔法を飛ばすも、花火と大して変わらない爆発で終了。焦れば焦るほど威力調整に失敗し、しまいには発動すら覚束なくなる始末。 


 癇癪玉程度の威力の魔法では、目くらましになるはずだった土埃すら発生しない。

 尼子屋、田嶋の隠密組は姿を隠す事も出来ず、正面戦闘を余儀なくされた。フィールド中央で敵の先鋒2人と迫撃戦を開始。

 対する敵の女1名は発現系魔導士。ドリルと比べても遜色ない威力の魔法が隠密組の頭上に断続的に降り注ぐ。敵は連携に慣れているのか、まるで背中に目がついているかのように味方の魔法を回避する。

 苦し紛れに前に出た弦月は敵の2人に挟まれ防戦一方。 


 まず最初に倒れたのは尼子屋だ。

 魔弾を躱して、態勢を崩した尼子屋に対し、敵で唯一真剣に試合に臨んでいた男が裂帛の気合いで突きを放つ。

 体をくの字に折り曲げて吹っ飛んだ尼子屋はそのまま意識を失った。


 次に、吹っ飛ばされる尼子屋に気を取られた弦月が、死角からの一撃を受けて昏倒。

 弦月と戦っていた敵二人はそのまま中央に移動し、田嶋は4対1という圧倒的不利な闘いを余儀なくされる。

 そして敵魔導士は援護の必要なしと判断したのか、前線近くに移動し、東雲と神楽耶に対する爆撃を始めた。


 必死に声を涸らす東雲に対して、余裕の笑みで腕を組んでいる鹿島。

 それが俺たちの現状を何よりも雄弁に語っていた。


 見せ場があったとすればそれはセクシー侍、佐々木の特攻だろう。

 女子との戦闘を嫌って乱戦に参加しなかった佐々木が突如、中央を突破。

 余裕の表情でふんぞり返る鹿島に肉薄。と同時に鹿島の体がふわりと宙に浮いた。

 

 銀光一閃。

 

 渾身の居合に、鹿島の表情に一瞬焦りが生まれる。しかし―――



―――ガキンッ


 

 金属同士がぶつかるような音。

 不可視の何かに阻まれ斬撃は届かない。佐々木の目が見開かれる。

 レベルアップによるDEF(装甲)じゃない。魔導障壁のようにも見えたがそれも違う気がする。

 鹿島を護るように展開する何らかの揺らぎが見えた。


 何が鹿島を護ったのか、なぜ鹿島が宙に浮いたのか、理由はわからないがはっきりしている事がある。

 対人特化のエルダー、佐々木の一撃が鹿島に届かなかった事。そして、次の瞬間、佐々木が見えない何かに吹っ飛ばされた事。 


 尼子屋、弦月、佐々木の3人が戦闘不能。田嶋は4人相手に消耗戦。

 フリーの敵魔導士は好き勝手に魔法を撃ちまくり、敵将、鹿島は戦況を眺めているだけ。


 敵魔導士の一撃を食らい、神楽耶が蹲ったところで東雲は降参した。

 その決断を誰も責める事は出来なかった。生き残る事が最重要とされる冒険者にとって、結果の分かり切った玉砕は唾棄すべき行為なのだから。

 こうして俺たちは敗北したのだ。







 完璧に。徹底的に。完膚なきまで叩き潰された。これ以上ない屈辱の敗戦だった。

 奴らにとっては『雑魚を蹴散らした』ぐらいの感覚に違いない。

 悔しさで捨てセリフさえも出てこなかった。

 敗者に語る弁は無い。鹿島の言う通りだ。


 唯一、想定外があったとすれば、それは田嶋が武戦の精鋭4人相手に最後まで生き残った事だろう。

 戻ってきた田嶋は体調が悪そうに咳をしていたが、目立った外傷はなかった。そしてこれには俺たちも驚いた。

 選抜トーナメントを圧倒的な実力で勝ち上がった田嶋だが、彼女の実力はどうやら俺たちの想像の上を行っているらしい。


 

 その後、先生は厳しくも暖かい戦評をつらつらと述べていく。

 個々人の技術や能力を褒めつつ、メンタルや状況判断、ピンチからの立ち回りについてが主な内容だ。

 あの短時間で、あの一方的な負け試合で、よくも本当に俺たち一人一人を見ていてくれたんだと、熱いものがこみ上げた。

 

 色んな感情がない交ぜになって急に目頭が熱くなる。その時、はじめて俺は、

 このクラスが好きなんだと知った。

 何も難しいことなど無かった。仲間が笑われたことが許せなかったのだ。勝って奴らを見返してやりたかったのだ。

 そして、俺ははじめて。何か出来ることは無いかと思った。



――――ガタンッ


 

 突如、先生の戦評中だというのにソイツは椅子を蹴って立ち上がった。

 メンバーの視線が集中する中、ソイツは顔を俯けたまま教室から飛び出した。

 深い藍の髪を振り乱し、オリーブ色の腕を握りしめて。



「おい、どこ行くんだ!? 待ち――――」

「東雲君。今はそっとしておきなさい。彼女の気持ちもわかります。戦評を続けますよ」


 

 タッグ戦でフレンドリーファイア。パーティ戦で不発。きっと自分を責め続けていたのだろう。きっと耐えられなかったのだ。

 確かに誰かを吊し上げるとすればソイツは戦犯の一人だろう。ソイツがいつも通りの実力を発揮していれば、結果も内容も大きく違ったはずだ。


 しかし今日はたかだか練習試合である。勝敗が何を決めるわけでもない。

 何より、一生懸命闘った彼女を責める奴なんかこのクラスにはいないというのに。

 それでも、ソイツ―――神楽耶ジュリエッタは、机上に光る水滴だけを残して、教室から走り去っていった。


3章前半、次話で終了です。

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