審判
遅くなりました・・・
大家さんの時はSS3本だったのに、今回は7本・・・
アーススターが大きくなってるでござる・・・
第一試合はもちろんACE。
チームを代表する、最強の戦闘屋同士の1対1だ。客観的にはただの個人戦ともいえる。
だが、高専の大会において、ACEは個人戦に非ず。
代表者はチームそのものだ。
引き分けなんてものは無い。互いの意地とプライドを一身に背負って容赦無くぶつかり合い、そして削り合う。
初戦に過ぎないこの種目が、後に控える種目に与えるインパクトは計り知れない。勝てば怒涛の勢いが敵を押し流し、負ければ津波のような衝撃に翻弄されたまま連戦を余儀なくされる。
絶対に負けられない。何があってもだ。
それがACE。今から行われる戦いだった。そのはずだった。
だというのに……
「何を固まっているのですか? 早くしなさい」
落校メンバー15人。葵を覗く全員があんぐりと口を開けて呆けていた。余りの事に声も出ない。
しかし驚いているのは俺たちだけではなかった。横に視線を向けると、あの武戦の連中すらマヌケ面晒して目を剥いている。
取材陣は血眼になってシャッターを切っているし、あの前園さんですら動揺のあまり、口からポロリと煙草を落としていた。驚いていないのはこっちの先生2人とアーニャだけだ。
なぜそんな事になっているかというと―――
「私はこの後、大事な合コンが控えているのです。この日のために『こんでしょん』を整えてきました。ちなみにお相手は医者と弁護士です。つまり『いんてり』」
エースの戦闘フィールドで、凛と佇む一人の女性がいる。
ピンと張った背中にふぁさりと垂れるのは、深すぎて藍にも見える漆黒の髪。
意志の強さを表す逆ハの字の一本眉と、それと平行に切れ上がる目。高く尖った鼻梁から口元、顎へと続くラインは溜息が出るほど整っており、気品と風格が漂っている。
美しい女性だ。恐ろしくなるほどに。強いて言うならば、胸が葵さん並みなのは残念だがしかし、俺たちが驚いているのはそんな事が理由ではないのだ。
「お、おい一之瀬…… あの戦闘装束、あの武器、もしかしてあの人は……っ」
「ああ、間違いない……」
ストッキング、ローヒールに黒のタイトスカート。白いシャツ、そしてグレーのベスト。
それはつまるところ、古き良き時代の『事務服』だ。
部長にお茶を出すお姉さんが着ているアレである。大人のお店での不倫プレイ必須衣装である。
彼女たちのナワバリは給湯室のはずで、決してガーデンなどではない。しかも武器は急須と茶碗と相場が決まっているはずなのに、彼女が右手に持つのは背丈ほどもある長大な魔導重狙撃銃だ。
「むっ なんです、そのモノ言いた気な顔は。わかりました。白状しましょう。確かに私は連敗記録更新中です。しかし今日の私は一味違います。なぜなら女性誌『CunCun』を熟読し、女子力向上に努めていたからです。生まれ変わったと言っても過言ではないでしょう」
誰もそんな事聞いてないのに、残念セリフをまき散らす美人OL。
すると、美女の隣に控えていたアーニャが、能天気な声で言った。
「それでは今日の審判をご紹介するぞよ。フェイさんでありんす~!」
「トップランナーやんけッッ!!」
そう、彼女こそ世界屈指の魔導狙撃手。
【闘うOL】フェイ・ランスロット・サナエ。28歳。
レベルはアーニャと同じ27。ちなみに彼氏募集中
高校卒業後、地元中小企業の経理部で働いていた時、運動不足解消のために始めたダンジョンエクササイズにハマりにハマって、信じられない事にそのまま最前線まで駆け上ってしまったというOL系冒険者だ。
得意技は、狙撃と月次決算。趣味はヨガと合コン。
4か国の血が入っているのに日本語以外は全くダメという残念要素は広く世の女性の支持を集めていた。
しかし強い。とてつもなく強い。今や彼女のスポンサーとなった元職場の制服をはためかせながら、ダンジョンを駆ける彼女を知らぬ者はこの国にはいないだろう。
「なんでそんなレベルの人が高専の練習試合の審判しにきてんだよっ! アンタ頭おかしいだろ!」
「将来有望株にツバつける『ちゃんす』と聞いて飛んできたのです。つまり合コン失敗の際の保険です」
「どんだけ彼氏欲しいんだよッ!」
俺は慌ててアーニャを引っ掴まえて事情を尋ねた。
「お、おいどういうことだアーニャさんよぅ…… トップランナー来ちゃってますねえ……っ!」
「練習試合を申し込んだマナーとして、審判は落校で用意する必要があったでありんす」
「それとあのOL冒険者とどう繋がってくんだよ」
「実は―――」
今回練習試合の相手はあの武戦様。とすれば申し込んだのは当然の事ながら落校側である。
通常、練習試合なんかは申し込んだ側が審判を用意するのが暗黙の了解みたいになっているのだが、実はそれが何気に大変だったりするらしい。
高専生とはいえ冒険者である。そんな選手の間に立ってジャッジするのだから一般人に勤まるはずが無い。
しかも選手のルール違反を諫め、いざという時には間に体を割って入らなければならない事から、プロの場合は別として、審判は選手と同等、若しくはそれ以上の実力が必要とされているのだ。
先生が交代でやっても良さそうだが、戦闘という競技の性質上、互いに遺恨を残さないためにも第三者が望ましい。
結果、審判をするのはルールを知っている冒険者という事になる。小金稼ぎにバイトしてる変わり者がいるにはいるが、高専の、しかも練習試合なんて一文にもならないものを引き受けてくれる人は稀だ。
今回もそれは例外ではない。どうにも用意できなければ結局先生が交代で行う事になるのだろうが、ビッグネームがせっかく引き受けてくれたのだから誠意くらい見せるべきだ。
そうして頭を悩ませる先生たちを見たアーニャが一言。
―――ワイが知り合いに頼んでみるで!
「―――という事でありんす」
「という事じゃねぇんだよ馬鹿! アホたれ! このイモ子ッ!」
「イモじゃないっちゃッ!!」
知り合い連れてくるのはいいよ。有名どころ連れてきても百歩譲って良いとしよう。
だけどなんで日本でも上から数えた方が早い人連れてくんだお前。
しかも戦略戦なら日本最強だぞあの人。速射の射程距離3km越えの化け物だぞ。
「トップランナー同士ってホラ、やっぱり繋がりが出来てくるっていうか――」
「こんなところに繋がり持ってくんな! お前正体バレたいのか……ッ!?」
「そこ 静かにしなさい。私はサクっと終わらせて帰りたいと言ったはずです」
闘うOLはニコリともせずに言い放つ。
そして、苛立たたし気に銃把で2,3度地面を突く。
「それでは両校代表者は前へ。なお男子は全員、紙とぺんを用意して下さい。
P・S 後で連絡先を回収します」
アーニャが溜息をついて言う。
「……gdgdでありんす」
俺は吐き捨てるように言った。
「お前が言うな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「わかってるな葵?」
フェイさんが葵をコールしている。
俺たちのエースはもちろん葵。常軌を逸した膂力から繰り出される圧倒的破壊力と、異常な戦闘能力。
小森ちゃんとさして変わらぬ小柄な肉体は、巨人の如き強靭さを備えている。
彼女がクラス最強であることに意義を唱えるヤツはいない。俺なんかは、日本全国探しても同世代最強だと思っている。
だからこそ俺は葵をフィールドに送り出す直前に声をかけた。
葵が俺を振り向きコクリと頷く。
「……もちろん。挽肉にする」
「ちげーよ」
初戦である。
遺恨があろうがなかろうが、クリスティナ先生は今回の練習試合の目的は『知る』ことだと言った。
自分たちの立ち位置を、そして団体戦を戦う上で出来る事を。
葵ならば一撃で相手を殲滅できるだろう。これまでのいきさつを考えると圧倒的勝利を収めて欲しいと思う。
「最初は様子見だ。みんなに敵のエースのレベルがどの程度なのか知らしめてやれ」
しかしそれだけではダメなのだ。エースといえども団体戦の初戦。相手の力量がどんなものなのか、どういう戦い方をするのか、情報を引き出さなければならない。葵ならそれが出来るはずだ。
有名校とはいえ、個人の名や特性が知られ始めるのは今大会からだ。
そして大会地区予選はリーグ戦である。そう、必ず武戦と戦う時が来る。あくまで今日は練習試合だ。本番じゃない。
「……わかった。手足を潰す。それから殺す」
「俺の話聞いてました?」
葵が巨大ハンマー抱えて颯爽とフィールドに乗り込んだ。
いきなりの大一番。チーム最強の戦い。どう出る武戦、お前らのエースは誰だ。
鹿島か、それとも――――
「祥子、思い知らせてやれ。格の違いってやつをな」
「えぇ~ イヤよ。弱い者イジメなんて嫌い―――じゃないわね。ゾクゾクするわ!」
迷いなく歩を進めるのは、サラサラの茶髪をサイドテールにまとめたあの女―――祥子。
見た感じを一言で表現するならば『ビッチ』がしっくりくる。
けばけばしい化粧のせいか、とても同学年とは思えないほど大人びて見える顔は、化粧を落とすともしかしたら童顔なのではなかろうか。
歩き去った後に残る強い香水の香り、無駄に尻を振りながら歩く後ろ姿に違和感を感じる。
何だ? 俺は何に違和感を感じたんだ……?
「葵、気を付けろ、そいつは……ヤバい」
「……関係ない。潰す」
フェイさんの合図とともに、目には見えない感応魔導膜が張られた。大会設定のセーフティモードが起動したのだ。
カーテンの中にいるのは葵、祥子、フェイさんの3人だけ。俺たちと彼女たちは今この瞬間、概念的に隔絶された。
あらゆる援護が出来ないし、あらゆる攻撃が届かない。そういう設定だ。
「神城君、頼んだよ!」
「セクシーだよ神城!」
「葵ちゃん頑張るの!」
「あおぴー ふぁいとぉ~」
「神城ォ! ぶっ殺してやれぇ!」
葵がユラリとハンマーを構える。
「軽くひねってやれ七星!」
「殺すなよ祥子~」
すると武戦の女―――祥子は、指先をスウッと葵に向けた。
それはあの時、街中で俺たちに絡んできた時に見せた動作。その時、俺は違和感の正体に気付く。
そうだ、何で気付かなかった。そいつは武器を持ってない……ッ!
すると、女は言葉に出来ない猟奇的な笑みを浮かべて、何事かを呟いた。
――――ゾワッ
全身をウジ虫が這うような悪寒に襲われる。
俺は気付いたら叫んでいた。
「葵ッ 避けろォォッッ!!!」




