お仕置き
速度制限のテザリングで2回文章が吹っ飛んで心折れてました。すみません。
明日からネット開通なので、2日に1話ペースに戻したいと思います。
なお、活動報告に書籍化についてお知らせを記載しました。
時間があったら見てみてください。
今後ともよろしくお願いします。
「神楽耶君、弾幕を! いいよ! 尼子屋君、田嶋君は接敵ッ!」
ズズンと腹に来る破砕音と共に地面が爆散。舞い上がった土煙に躊躇なく飛び込む尼子屋と田嶋。
それに遅れて弦月と佐々木が前面に展開した。
東雲、神楽耶、田嶋、尼子屋 弦月、佐々木のTOBチームは効果的な先制攻撃パターンを試している。
「比佐山さん、虎穴さんで迎撃! 小森さんは後方に方陣を展開、お馬鹿さんはわたくしのフォロー、HENTAIは好きにして下さいましッ!!」
対するフラッグ・オン・フラッグチームの6人。ドリル、旨鹿、比佐山、小森ちゃん、虎穴さん、千田先輩は迎撃態勢を取りながらTOBチームの隙を伺っている。
しかし、いかんせんTOBチームの火力が数段上を行っているせいで、ドリルチームは攻勢に出るタイミングを掴めない。
背後から尼子屋と田嶋さんの強襲、正面から接近する弦月と佐々木。そして断続的に爆裂魔法を仕掛けてくる神楽耶のおかげで、ドリルチームはなす術なく崩れてしまう。
「くそっ 西郷寺! 俺と指揮代われ! 魔導士はフリーの方がいい!」
「ま、まだいけますわッ!」
「馬鹿野郎ッ! 『二兎追うより13面待ち』ってかーちゃんが言ってたんだよっ!」
「あなたが馬鹿野郎ですわっ!」
どうやら旨鹿家は平和より国士無双という家風らしい。ロマンがあるのはわかるが、それを子供に教えるとかどうなの。
ともかく、旨鹿が要であるドリルを護りつつチームを立て直そうとするが、ここまで押し込まれては難しい。突破力が高い比佐山も単独で突っ込めば孤立するだけだ。
そもそもチーム戦では真っ先に潰さなくてはならない固定砲台を自由にさせている時点で勝負は決まったようなものだった。
しかもチームがピンチだというのに、なぜか千田君がいそいそと脱ぎ出したりするものだからたまらない。好きにしろと言われたからって、そこまで好き放題していいわけではないと思うのだが、誰も何も言わないところを見ると諦めているのだろう。
結局、数分もしない内に、戦況を立て直すことのできないままドリルチームは降参した。
「くっ なんなんですの! りょうちゃ……尼子屋は田嶋さんと連携なんかしちゃってっ!」
「そ、そうよっ! 尼子屋の分際でっ! ちょっと強くなったからって調子に乗らないでよねッ! カッコいいとか思ってないんだからッ!」
「お前ら他所でやってくれ」
尼子屋ハーレムは今日も通常運転である。
うんざりしながら向こうのフィールドを見ると、葵さんと多々羅が模擬戦をしていた。馬力は圧倒的に葵があるが、多々羅はとにかく上手い。相手が嫌がるタイミングと行動を本能的に行うのだから性質が悪い。
葵は苛立った様子で闇雲にハンマーを振り回している。苦手な中長距離で立ち回る多々羅は遠目で見ると踊っているようにも見えた。自由に動けている証拠だ。
視線をこちらに戻すと、東雲がメガネ女子なリポーターにコメントを求められていた。
「東雲クン、さっきの奇襲作戦の感触はどうでした? ポイントは?」
「はい、上手くいきましたが1回しか使えないでしょうし、ハマらなかった時の対応と一緒に運用しないと―――」
東雲が委員長らしく律儀に応える。そんなやり取りが2,3度されたのち、リポーターさんは他のメンバーにマイクを向けた。
「これ、放送されます? え? されるかもしれない……!?」
「いえ~い! 全国の可愛い子ちゃんたちぃ~ 見てるぅ~? みんなのボクだよ~!!」
「やっべ! かーちゃん、俺頑張ってんぞぉ!!」
「ちょ、ちょっと尼子屋っ! あんたコッチ来なさいよっ! べ、別に、記念に一緒に映ろうとかそういうワケじゃないんだから! 勘違いしないでよねッ!」
もうここまで来たら今更説明するまでもないが俺たちは今、訓練中である。それを聞きつけた取材クルーも同行中である。
「あ、ずるいょ! ナナもカメラ映りた―――あ痛ぁ~~ッ!!」
モモ先生の衝撃発言から2日。メンバーの参戦種目も決まり、練習試合を明日に控え、今日はメンバー全員が自主的に参加している。
勝てるはずの無い格上相手のたかが練習試合だというのに、先日、武戦と接触した元Eチームの連中の鼻息はすこぶる荒い。自主練の言い出しっぺが面倒臭がりの多々羅だというのだから、相当気合が入ってるのだろう。
俺は先ほど多々羅と組んで2対1で葵と模擬戦をしていたのだが、開始数秒で星になって今は休憩中。
そしてたった今、カメラに気を引かれた多々羅が星になった。まあその内大気圏に戻ってくるだろう。
俺はもう少ししたら今度はフラッグ・オン・フラッグに参加する予定。
補欠の俺は、どの競技に参戦するかは全く未定ということもあって、さっきからAce以外の訓練に満遍なく参加していた。当然の如くやられっぱなしである。
ちなみに、メンバーが出場する種目は
1、Ace 葵
2、B&S 多々羅 神楽耶
3、TOB 東雲 弦月 尼子屋 佐々木 田嶋 神楽耶
4、フラッグ・オン・フラッグ 尼子屋 旨鹿 比佐山 弦月 千田 カノン
5、デス・ガン 未定
の五つ。
そして大会のルール上、出場できる種目は一人2つまでとなっている。
第一種目から第4種目までの人数は合計15人なので、4戦まで行くと少なくとも3人は2種目に参加する事になるから、デス・ガンの出場最大人数は9人という計算になる。あくまで最大人数が、だ。
というのも、大会では試合中に現実世界に戻ると、使用者は戦線に復帰する事を認められない。
つまり、死んだり、死にそうになっているメンバーをゲートを使って回復させると、その人はその試合の参戦権を失ってしまうのだ。
そこでゲートを利用せずに回復を行う治癒魔導士の重要性の話になるのだが、そちらは割愛する。高専の新人戦ごときで極めて希少な治癒魔導士が出てくるわけがないとだけ覚えていれば十分だろう。
こうして、補欠の人数よりも死んだ者や重傷者の数が上回った場合、その分だけデス・ガンに参戦できる人数は減っていく。
「……ミナト、私の勝利、見てた?」
葵が巨大ハンマーを担いで悠々と歩いてくる。
団体戦だというのに一人で1勝を勝ち取れるAce出場者は、デス・ガン以外に出場する事は出来ない事になっているため、各校が満を持して文字通りのエースをブっこんで来る。
ウチでいう葵クラスの連中が、絶対に負けられない1戦に臨むのだ。
「見てたよ。女子がお星様になるのはなかなか斬新な絵面だった」
「……煎餅が良かった?」
「それだけは止めて下さい」
そして勘の良い人ならお気づきだろう。
いくらズバ抜けて強いヒーローがいようと、個人の力でもぎ取れる星は2つ。そしてチームが勝つに必要な星は3つ。
そう、高専の大会ではルール上『個』だけで勝ち上がる事が出来ないのだ。
圧倒的な個人よりも団体戦での総合力を、という趣旨は他でもない文科省が公言している事実でもあった。
その背景には、やはりダンジョンは個人で踏破するものではないという考えがある。
そして、高専の大会は、あくまで冒険者高専という教育機関としての質を問う大会である。という建前があったりもする。
そのため、個人としてはかなりの力を持っていても、仲間に恵まれなかったため良い結果を残せず、燻っている強者は弱小校にもいると言われている。
実際、ここ数年ずっと予選落ちの落校だが、2,3年生にかなり強い人が何人かいるらしい。
「ちょっと、いいかな……?」
そろそろ準備をしようかなと立ち上がりかけたところで、突然、リポーターさんに声をかけられた。
一人のところを見るとカメラさんを置いて来たらしい。
「あ、別にいいんスけど、そろそろ次が―――」
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから! ね、いいいでしょ?」
俺が口ごもっている間に、リポーターさんはスルリと隣に腰を下ろし、俺に微笑みかける。ここ1瞬間ほど、生徒相手に明るく接していたおねえさんに直接話しかけられるのは、何気にこれが初めてだった。
これぞ女子! って感じのイイ匂いがふわりと鼻腔をくすぐり、俺は思わず頬を緩ませた。
「……ミナト」
何か大事な事を忘れているような気がするが、後でも大丈夫だろう。大人なメガネ女子とのふれあいより大事な事など早々あるはずがないのだ。
肩が触れ合うくらいに接近してきたリポーターさんから逃げることなく、むしろ迎え撃つくらいのつもりでドンと構えた。
「……ミナト」
「一之瀬クンはこの大会、どんな気持ちで臨みますか?」
「ええと…… 俺はまあ―――」
レベルアップ見たいだけなんで、という台詞を何とか飲み込むことに成功。
ただでさえ世間では変態紳士として誉高いこの俺が、そんな台詞をもし書かれでもしようものならば今度こそ炎上では済まないだろう。ハンバーガーショップに電凸とか、地味にクルのでホント止めてほしい。
言葉を選んで思案していると、ポツリとリポーターさんが言った。
「ドラゴンスレイヤー」
思わず俺は彼女の顔を見る。
すると彼女は、これまで絶やさなかった笑顔をスウっと消した。ほんわりしていた空気が怜悧なものに取って代わる。
「パッとしないなあ……って」
「……え?」
「キミ、自分がどれだけの事をしたか、自覚ある?」
建前を取り払った事務的な瞳が真っすぐ俺を射貫いている。
今の今までほんわか笑顔を振りまいていた彼女の豹変に戸惑いを隠せない。
「レベル5の3流高専生が火竜を撃破。リセット無しの極限状態で、誰一人として想像もしなかった結末を齎した張本人。大人たちがあなたをどんな目で見ているか、どんな思惑が渦巻いているか、考えないかしら?」
その問いの意味。
正直、それを考えない日は無い。Jの事、弦月さんの事も含めて。
しかし、だからといって俺にどうにかできる事なんてほとんどないのだ。
だからこそ、俺はこう答えるしかなかった。
「俺は…… あんなのはマグレですよ。俺はそんな大層な存在じゃない」
「悪いけど、マグレかどうかは関係ないし、キミがどう思っているかも関係ないの。大事なのは事実とその影響。知っておいた方がいいわ。あの事件で、誰もかれもが喝采したわけじゃないって事」
「あんたは一体――――」
「そういえば……」
リポーターさんが話は終わりだと言わんばかりに立ち上がる。
そして、さっきまでの無機質な表情がうそだったかのように、いつも通りの魅力的な笑みを浮かべた。
「今日はシロちゃんは連れてこなかったの?」
「~~ッ!!」
思わず立ち上がり手を伸ばす。
彼女はその手をスルッと躱しすと、右手をヒラヒラさせながら足早にドリルチームの方に向かって行った。
タイミングを外され、手を伸ばしたまま呆然と立ちすくむ。
忠告なのか、警告なのか、揺さぶり? それともただの思い付きなのか? なぜここでシロの話を出した。どこまで知っている?
敵なのか、味方なのか、台詞も行動も断片的過ぎて何もわからない。ただ不安と焦燥感だけがぐるぐると頭を回る。
「尼子屋クゥ~ン! さっきの奇襲作戦のポイント、取材させてほしいな~」
「あ、あなた! ち、近いんじゃありませんことッ!?」
「そ、そうよ! 別にあたしはどうでもいいけどっ! とにかく尼子屋から離れなさいよッ!!」
聞きなれたそのやり取りもやけに白々しく見える。
さっきの彼女は一体何だったのか。一体彼女は何を言いたかったのか。
答えの無いまま立ち竦んでいると、俺の背後から、ボソリと声がかけられた。
「気を付けろよ」
ハッと振り返ると、目に入ってきたのは遠ざかる前園さんの背中。
気を付けろ?
俺たち冒険者を毛嫌いしている前園さんがこのタイミングで警告してくる意味は何だ?
その意図を聞こうと口を開きかけるも、前園さんの背中にはっきりとした拒絶の空気を感じ取る。
訳がわからない。何が一体どうなってるんだ。
「クソっ なんなんだよ、一体……ッ」
焦りとも怒りともつかない感情に任せて地面を蹴りつけた時、
偶然ソレが目に入り、頭に上っていた血がスウっと引く。とんでもない忘れ物に気付いたからだ。
そして、ソレは修羅の如きオーラを立ち上らせながら、こう言った。
「……ミナト、お仕置き」
俺は思わず天を仰いだ。
そろそろ3章前半終了です。
レベルアップは3章後半じっくりと ぐへへへ




