箸休め
まさか昼食だけで5000文字・・・orz
テンポ遅くてすみません。
2順目のトーナメントが終わったところでお昼になった。普段ならば学校に戻りそれぞれが昼休みなのだが、今日はこのまま息吹でお弁当である。
昼休みが終わり次第、トーナメント再開。
残り枠は7名。そのうち3名は補欠なので、残りチャンスは実質1回。
「……ミナト、もう負けは許されない」
「わかってるよ。わかってるけどまあキツイっていうか……」
まだ多々羅も勝ち抜けしていないので、次にまた当たってしまえば俺はその時点で終わりだ。
他にも実力的に俺より強そうなヤツはゴロゴロ残っている。
目ぼしいヤツを挙げると、まず多々羅、旨鹿。比佐山なんかも強いし、支援チームの虎穴なんかは絶対に上がってくる。
あと、実力が未知数なのはクラス唯一のソロ、佐々木一輝か。あのケルピーを一人で倒したんだからただのバカであるはずが無い。
そう考えると、今名前が挙がったヤツらを押しのけて俺が勝ち上がる可能性は……
「あれ……? 無理じゃね?」
「……ミナト、甲斐性見せて」
「この歳で甲斐性無し扱いは止めて……っ」
10年後はきっと稼いでいるからっ!
きっとレベルアップアナリストとして引く手数多だからっ!」
と、そこまで考えたところで、俺はある事に気付く。
「いや、でも俺、目的は合宿に参加する事だから……」
もうちょっと詳しく言うと、合宿に参加してレベルアップを観測することだから……
「補欠でもよくね?」
「……甲斐性無しっ」
「だから甲斐性の話はやめて……っ」
甲斐性の話は置いといたとして、そう考えると俺にもチャンスはありそうだ。火竜にとどめを刺した男にしては情けなさ過ぎるにしろ、俺は別にヒーローになりたいわけじゃない。
よし、がんばろう。次の突破を狙いつつ、何とか補欠枠にはかじりつく。これだ。
「まあとにかく、弁当食って午後に備えよう」
「……賛成」
ちなみにアーニャは打ち合わせを兼ねて先生たちと食べている。大会に出れないアーニャはサポートメンバーとして随行するらしいので、きっとそのあたりの認識合わせをしているのだろう。
どこで食べようか、場所を探して周囲を見渡すと、ドリルグループと微妙な距離にある岩場で弁当を広げる尼子屋を見つけた。
ドリルと比佐山がしきりに尼子屋の様子を気にしている。しかもやたらソワソワしていた。
俺は首を傾げながら尼子屋に声をかける。
「よお尼子屋、ここ、いいか?」
「あ、ミナト君。神城さんも。全然いいよ! 一緒にたべよう」
「……お邪魔します」
尼子屋とは結構絡む機会が多いけど、一緒にご飯を食べた記憶がない。思い返すと、きちんと時間をとって話した事も無いような気がする。俺の中では完全に友達枠に入っているのに、おかしいな……。
3人で向かい合って座ると、尼子屋の手元に弁当が3つあることに気付く。
成長期だし意外と大食漢なのかなと思ったが、どうも弁当箱のデザインというか雰囲気がそれぞれ違う。
「あれ? 尼子屋、お前なんで弁当3つもあんの?」
そう俺が聞くと、尼子屋は裏表の無い苦笑いで応えた。
「あ、これ? たはは…… カノ……西郷寺さんと比佐山さんが作り過ぎちゃったからあげるって……」
横目でチラリとドリル達を見る。
ドリルと比佐山が『えっ? あんたも!?』みたいな感じで顔を見合わせていた。どうやら互いのお弁当作戦は知らなかったらしい。そして俺たちの会話を思いっきり聞いているらしい。
「へー ちなみに中身はどうよ?」
「あ、うん。比佐山さんのお弁当は凄く美味しそうだよ」
向こうの方で比佐山がガッツポーズをしていた。お前耳良いな……
尼子屋がパカリと蓋をとった弁当は楕円形で、少し小さめな2段弁当だ。
1段目には、どこをどう見ても余り物であるはずが無い気合の入ったおかずが可愛らしく盛り付けられている。2段目はもちろんご飯だ。しかしこの2段目がアレだった。
「お、おう…… これはなかなか……」
一見、普通のノリ弁にも見えるが、思いっきりノリが『R・A』とくり抜かれていて、しかも右下のほうには控えめに『♡』。
余り物と言って渡す方も渡すほうだし、貰う方も貰う方だ。愛情が迸っとるやんけ。
「僕もR・Aなんだ。偶然って面白いよね」
「お前の発想が面白いわ」
鈍感系主人公か。
一体どこの比佐山さんのお宅に『R・A』がいるというのか。家庭環境を邪推するわ!
「じゃ、じゃあもう一つはどうなんだ……?」
「え? う、うーんと…… なんていうか、あはは……」
何!? なんていうか何なのっ!? みたいな感じで耳がダンボになってるドリル。お前らもうこっち来たらええやんけ。
だが俺は少しだけ首を傾げた。
教室で何回かドリルの弁当を見たことがあるが、大金持ちの御家柄か、プロが作ったとしか思えないほど豪勢で華麗な中身だったことを覚えている。
だから尼子屋がコメントに困るような出来というのには違和感を感じたのだ。
ちょっと困った感じで笑う尼子屋が四角の弁当の蓋を開けると……
「これは、また…… アレね……」
セパレートタイプの弁当箱。
おかずは何て言うか、一生懸命作りました的な空気は十分伝わってくるのだが……
「く、黒いな……」
「黒いね……」
「……火災現場?」
比佐山が「ぷっ」と噴き出し、ドリルがカエルみたいに頬を膨らませた。
おかずを見ると、とりあえず焦げている。それはもう執拗に焦げている。
焦げてカサカサになった干物的な何かが散らかってる感じだった。お湯で戻して食え的なやつである。
考えてみれば当たり前かもしれないが、どうやら普段の弁当は彼女が作っているわけではないらしい。しかし、おそらく今日は尼子屋に渡すために張り切ってしまったのだ。
正直、それだけなら微笑ましいというか、ドリル頑張ったんだなと彼女を讃えてもいい。
しかし、ごはんエリアの惨状もまた中々のものだから擁護に困ってしまう。
「キャラ弁、なのか……?」
「多分、そうなんだと思うよ……」
「……ピカソ?」
白米という名のキャンバスの上で踊るのが、人であることはかろうじて理解できる。
その力強いタッチは、芸術の極みと評される大作、『ゲルニカ』を彷彿とさせるのだが、解釈が必要な弁当とか正直戦慄を禁じ得ない。
古今東西、我が国において印象派のキャラ弁が許されるのは荒木飛呂彦先生の作画だけだ。
「ま、まあ食おうぜ。午後が始まっちまう」
「そ、そうだね。どうせだからみんなで食べよう?」
取り繕うように、俺は自分のバッグを引っ掴んだ。ちなみに俺の弁当は愛情たっぷりのコンビニ弁当だ。
「ああ、そういえば葵の弁当はどんな感じなんだ? あんま見た事無い気がする」
「……普段は学食で食べるから」
「お弁当は神城さんも自分で作るの?」
「……私は自分で作る」
葵が神妙な面持ちでそう言うと、小さめのリュックから「どこに入ってたんだよ」と突っ込みたくなるほど巨大な箱を取り出した。
え、まさか…… と思っていたらそのまさかだった。
葵がちょっとした引き出しくらいの容量がありそうな箱の蓋を開ける。するとそこにはぎっしりと詰め込まれている白米。そして真ん中には定番の梅干し。
男前過ぎる日の丸弁当に度肝を抜かれていると、葵はリュックをガサゴソ漁り、もう一つ普通の大きさの弁当箱を取り出した。
「あ、葵さん、まさかそれも……」
「……これはおかず。私が朝早く起きて作った」
米櫃並みにデカい弁当箱を見た後だからマヒしているが、普通の弁当箱まるごとおかずに費やすとか、アンタどんだけ食うんだよ。
俺たちが固まっていると、葵は少しだけ勝ち誇った顔で言った。
「……今日のは自信作」
葵がパカリと弁当箱を開ける。
そして俺は本日一番の衝撃に見舞われた。なぜなら―――
「こ、これは……」
黄、緑、紫、白、茶、赤。
目に眩しい色とりどりのソレは
「漬物オンリーやんけ……っ」
弁当箱いっぱいに漬物が詰まっていた。しかもやたら本格的なやつばかりだ。
葵はその中の一つ。千枚漬けらしきものを箸でつまむと、ポリポリと小気味の良い音を立てて頬張った。
「……田舎のばあちゃんが送ってくれる。ミナト食べる?」
「あ、ああ、ありがと……」
「神城さん、朝早く起きて作った自信作だって……」
「……私は切った。つまり料理した」
誇らしげに胸を張る葵。そうしてもなお、なだらか過ぎる胸に若干のもの悲しさを覚えた。
大丈夫だ葵。日本には昭和新山という実例があるからきっと……。
そんな事を考えていると、彼女はおもむろに白米に箸を突き刺し、おにぎりほどもある米を躊躇なく小さな口に放り込む。
更に今度は柴漬け食べて、ちょっとしたリスみたいにモキュモキュしていた。日本昔話状態である。
「と、ところでミナト君はどんなお弁当なの?」
「俺か? 俺はコンビニの弁当だよ。一人暮らしだしなあ」
「そうなんだ。でも最近のコンビニ弁当って色々あるもんね?」
「だな。俺なんて今日はCMでやってたネタ弁当買って来たぜ? 深淵騎士監修のパラディン丼だ。もう何が何だかサッパリわからねえ」
「あ、それってダンジョン都市限定のやつだよね」
俺は唐突に感動した。
ああ、これだ。キワモノばかりで忘れそうになる。これが普通の会話だ。俺が求めていたものだ。尼子屋に癒される日が来るとは思ってもみなかったぜ。
何度も頷きながらザックを手繰り寄せる。そして弁当を取り出そうと手を突っ込み、俺は固まった。
なんかグニャっとした。しかももぞもぞ動いている気配がする。
俺はもしや、と思いながらザックを覗き込んだ。
「く、くあ……?」
「シロ~~っ!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
葵が色々食べさせた結果、シロが一番気に入ったのが千枚漬けだった。
そして今、シロは俺の膝に座って、美味しそうに千枚漬けを食べている。
その横で、葵が『この子わかってるわ~』と言わんばかりにウンウン頷き、尼子屋が苦笑しながらその光景を見守っていた。
「シロ、美味しいか?」
「くあっ!!」
「ごめんな、シロ」
「くあ……?」
こんなに可愛くて無害でも、シロはまず間違いなくダンジョンの生き物だ。少なくとも冒険動画でも見た事の無いので、かなり希少な存在なのだと思う。
そんなシロが無防備に外を出歩いたら、誰に何をされるかわかったものではない。特に錬金科の連中に見つかったらシャレにならない。
ここは息吹で、周りにいるのがクラスメイトだからまだ良かったものの、時と場所を間違えたら笑い事では済まなくなるかもしれなかった。
シロの身を案じるからこそ、素性がわかるまでは極力外に出さないようにしていた。俺が学校に行っている間は、一人でお留守番だった。
しかし、それがシロにとって辛い事だったらしい。もしかしないでも寂しかったのかもしれない。俺の帰宅時の喜びようを毎日見ていたのだから思い至るべきだった。
ザックから恐る恐る出て来たシロは、申し訳なさそうに俺を見上げながら、「くあ…… くあくあくあくあ……」と一生懸命俺に何かを訴えていた。
「ごめんなさい。でも我慢できなかったの」。何となく俺にはそう聞こえた。
「シロ、ずっと家に一人にしてごめんよ。でもな、勝手についてきちゃダメなんだぞ……? 怖い人だってたくさんいるんだ」
「くあぁ……」
しょんぼりと項垂れるシロ。物凄い罪悪感で圧し潰されそうになるが、俺はきちんと言っておかなければならなかった。
人の言葉を理解するこの子が普通のトカゲであるはずが無いのだ。外にはマトモじゃない奴だっているし、マトモな奴だとしてもこの子に友好的とは限らない。
本当は、本来の住処に戻してやりたいけど、俺にはそれがどこかわからない。かといって、その辺に放して無事帰れるのかと言えばそれも疑問だ。
俺のわがままだという事は言われなくたってわかってる。
だけど、連れ帰ってしまったからこそ、ここまで情が移ってしまったからこそ、この子を無事に帰す義務が俺はあると思う。
だから俺はシロの頭を撫でながら言った。
「シロ。俺は責任持ってお前が居場所に帰れるようにする。そして一緒に行ける時は出来るだけ連れて行くようにする。俺とお前の約束だ」
何となくシロの目の前に指切りげんまんの形で小指を突き出した。
真っすぐ俺の顔を見上げながら、シロが俺の小指に前足を沿える。
ひんやりとした体温を感じながら、ゆっくり手を上下に揺らすと、シロはどこか嬉しそうに目を瞑った。
ほんのり温かい充足感。俺はそれを噛み締める様に笑顔を浮かべた。
「お前はもう家族だからな。一緒に頑張ろう! 危ない事はしちゃ駄目だぞ?」
「くあっ!!」




