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準備

残業祭りと風で3日も空けてしまいました。

すみません。

幕間です。一息場面なので面白くないです

「―――ていうことがあってさ~」

「…………へえ」


 とんでもなく低い「へえ」に冷や汗をかきながら、なんで俺は浮気がバレそうな男みたいな言い訳をしなければならないのか、イマイチ納得がいかない。

 そもそも俺は何も悪くないのに、葵さんの怒気に軽く涙目だ。


 朝、学校に行こうと家を出たら、ちょうどアーニャも行くところだったらしく、マンションの踊り場でばったり出くわした。

 するとアーニャが、どうせだから一緒に学校に行こうって言うものだから、断るのもおかしな話だと思ってなんとなく一緒に登校した。


 学校に着くと、アーニャは挨拶に行くと言って職員室に直行。

 へーへー行ってらっしゃいと、アーニャを見送って振り返ると、そこにはスーパーサイヤ人みたいになった葵さんがいたのだ。

 葵さんは言った。



――――私の納得できる説明が無い場合は死刑



 

 彼女の死刑執行は、往年のディズニーアニメを彷彿とさせるペラッペラ具合で執り行われる。

 空中を数歩歩いた後に谷底に転落したり、激突した地面に人型の穴が出来たりするのと同じノリだ。ぺちゃんこにされた後、風に舞うのである。

 だから死刑になりたくない俺は今、必死に説明しているのだ。

 昨日の帰りの出来事から話はじめ、アーニャが何故か隣に引っ越してきた事を話したあたりから、俺は葵さんの背後に、巻き上がる瓦礫と廃墟を幻視した。

 ご機嫌ナナメにもほどがある。もしかしたら葵さんはアノ日なのかもしれない。



「……女狐の事で昨日、先生に呼び出されて口止めされた。尼子屋も」

「え? 今更? 口止めすんの遅いだろ」



 そういえば実習後、二人の姿が見えないと思ったら職員室に呼ばれていたらしい。

 考えてみれば、生徒の中でアーニャがアリョーシャであることを知っているのは俺以外には葵と尼子屋だけだ。口止めするのも当然、いや、むしろ遅いくらいだと思う。

 尼子屋なんかは多分、アーニャが戻ってくる事を知った時点で、色々と察したのだろうが、この目の前のちんちくりんは何気に残念な子である。



 そうこうしているうちに、クリスティナ先生が教室に入ってきてHRが始まる。

 アーニャが一緒に入ってきて、当たり前のようにお祭り騒ぎが始まったが、いつも通り過ぎるので省略する。

 いつもと違う話としては、林間学校みたいな泊りがけのイベントが近づいてくると、いつも錬金科が群がってくるから注意するように、との事だった。

 

 一体何のことかサッパリなので聞いてみると、基本的に錬金科の連中は自作魔導具の実験台にしようと冒険科の生徒を狙っているが、こういうイベントになると羽目を外す奴がいて毎年犠牲者が出るらしい

 そのへんの事情に疎い1年生は格好の餌食だそうで、とにかく上級生に気をつけなさいという事だ。犠牲者って何だよ、怖いんですけど。


「特に3年生はあの浮世さんをはじめとして錬金科の力が強いので注意するように。基本的に自己判断ですが、無理やり何かを持たされそうになった時は先生に相談しなさい。以上です。解散」


 何かのフラグになりそうな先生の不穏な発言に気が滅入りそうになるが、要するに変な物を持ち込まなければいいだけだと気持ちを切り替える。

 俺にとってはこの後のカリキュラムの方がよっぽど重要だ。


 今日も今日とて息吹で実習である。俺もそろそろレベルも上がるころなのでどうしても憂鬱な気分になtった。痛覚耐性が異常に高いといっても痛いものは痛いものだ。

 たかだかレベル5でこんな感じなのだから、男はつくづく不利に出来ていると思う。

 冒険者を志す者は男が多数だというのに、実際上級と呼ばれるまでになった冒険者は女性の方が圧倒的に多いことからも、レベルアップ時の苦痛のすさまじさが伺える。

 しかし、強くなるためにはレベルアップをしなければならないというジレンマは、俺が冒険者である限り、一生持ち続けるものなのだろう。



「あ~ やだな~」


 

 誰に向けるでもなくボヤいていると、突然声をかけられた。



「ミナト、今日はパーティーを組むナリ!」

「コロ助かお前。まあいいけど、悪ぃな、今日はEチームで組むことになってんだよ」

「Eチーム……? それは何ナリか?」

「あれ、まだお前聞いてないのか?」


 よく状況のわかっていなさそうなアーニャに説明する。

 林間学校の事、すでにチームが決まっており、最近の実習はみんな林間学校を想定して、連携の確認に努めている事。アーニャはみんなが羨むAチームで、俺は冒険家生え抜きの馬鹿チームである事などだ。


「せっかくミナトとパーティ組めると思ったナリ……」

「俺たちは学生だからな。でも即席チームも悪い事ばっかじゃねえよ」

「そうナリな! 色んな人とチームを組むのは大切ナリ! 残念だけど林間学校が終わったら一緒に組もうね!」


 そう言うと、葵がタタタっと俺のところに駆けてきたと思ったら、アーニャの袖を引っ張って向こうに連れて行った。いつもはアーニャを邪険にしている葵だが、敵対してみたり面倒見てみたりとせわしい奴だ。


「リーダー いちのーん、早く行こうよぉ」 

「さっさと行こうぜリーダー、一之瀬」

「チンタラしてんなよ小森リーダー」


 物思いにふける暇もなく、3馬鹿が俺たちの下に集まってくる。多々羅と旨鹿は当然の如く、弦月も見た感じはいつも通り。昨日の出来事がウソのように元気な素振りを見せていた。

 こうして見てみると、顔をくしゃくしゃにして豪快に笑う彼女が、実態も見えない相手に怯えていたなど信じられない。いや、もしかしたら心配かけまいとわざと明るく振る舞っているのかもしれない。


 彼女の脳筋は上腕二頭筋よりも発達しているが、そういう事だけには人一倍気の回る優しい女の子であることを、ここ数日で見てきた俺としては、穏やかではいられない。


「ううぅ……、リーダー、指揮。気が重いですぅ……」

「ま、とりあえずやってみようぜ。意外と何とかなるかもよ」

「そ、そうでしょうか……?」


 チワワみたいに潤んだ瞳を向けてくる小森ちゃん。

 俺は彼女の肩をポンと叩くと、転送室に向かった





◇ ◇ ◇ ◇





「あ、多々羅さん突出しすぎですよ! 旨鹿君、カバー入って下さい!」


「弦月さん、対多数なのでヒットアンドアウェーでお願いします! 一之瀬君は牽制に徹したほうが効率いいかもしれません!」



 小森ちゃんが可愛らしい声で指示を飛ばす。

 当初のビビりようからは想像できないほど適格な指示、間違いなく小森ちゃんが指揮官として全体を俯瞰しつつ、突出したがる馬鹿3人の位置関係をコントロールしている。

 指示は少なくても多くてもいけない。大雑把でも細かくてもだめだ。その点、小森ちゃんの指示はわかりやすく明確で、しかも鼻にかかったアニメ声が思いの外耳に届きやすい。


 たまに間を抜けてきた敵にビビッて尻餅ついたりしているが、即席チームで初めて指揮を取ってるとは思えないほどハマっていた。

 尼子屋も状況コントロールが上手かったが、あいつは自身が立ちまわって戦況を構築していくタイプだ。他人を動かすという意味では小森ちゃんのほうが上だろう。


「もう多々羅さん! キメポーズは倒しきった後にしてください! 危なかったですよ!」

「リーダーすごぉい」


 指揮する小森ちゃんも一応は結界師だ。出力こそ大したことも無いし、自分に自信が無いせいかミスも多いが、自身の能力と特性を認識した上で、状況の勘所をきっちりと押さえてくる。敵の攻撃の動き出しを邪魔したり、致命的な攻撃を繰り出そうとした敵の注意を逸らしたり。

 実働部隊としては危険を回避できるし、回転を上げられる。


「旨鹿君、いちいち技名は叫ばなくていいんですっ!!」

「え~ だってカッコいいじゃ~ん」


 もちろん個人の戦闘力は重要だ。仮に6人のパーティで一人戦えないとなると、単純計算2割近くの戦力を損していることになる。

 しかし、この世界はゲームじゃない。ダンジョンではエンカウントしてバトル突入ではないのだ。

 もちろん短期決戦もあるが、連戦を強いられることもあるし、戦闘そのものを継続しながら移動する場合だってある。


 そもそも、ダンジョンにおける戦いとはイコール戦闘ではなく、戦闘、移動、食事、睡眠 すべてをこなさなければ探索など出来ない。そして、そういった要素も含めた長期戦を戦うための運用というものがある。

 今目の前の戦闘の次、そしてさらに次を想定して、余裕で勝てる相手からも逃走を選択することもあれば、勝ち目が薄くても立ち止まらなくてはならない場面もある。

 極端な話、準備段階から戦いは始まっていて『戦闘』という一要素が苦手でも、全体をまとめ、率いる人がチームには必要だ。


 小森ちゃんは直接戦闘はからっきしだが、チームには必須の司令官(コマンダー)特化タイプなのかもしれない。こうしている今も、別口で近づいてきた敵に注意を払いつつ、連戦に向けたポジション取りを始めている。

 3馬鹿に対する当てつけとしてリーダーに指名した小森ちゃんだったが、大正解だった。小森ちゃんも性格上、こういう事でもない限り指揮官なんてする機会が無かっただろうから、偶然とは恐ろしい。


「おーい馬鹿共集まれ~ 反省会すんぞー」

「おい馬鹿だってよ、多々羅、弦月、早く来いよ」

「馬鹿はオメーと多々羅だろッ!」

「えぇ~ かなでんとぉ、うまっしーだとぉ 思うょぉ」


 一通り戦闘が終わって反省会。

 みんなで意見を言い合うが、そこでも小森ちゃんがリーダーであることに違和感は全く感じなかった。

 オドオドしながらもそれぞれの意見を調整し、次の戦闘にどう生かすかを一つの道筋としてとりまとめている。


「いやー、戦いやすかったぜ。リーダー凄えわ」

「かなり安定してたな。指揮官がいるとやりやすい」

「ナナも思ったぁ」


 それは馬鹿チームも同じだったようで、口々に小森ちゃんの指示について肯定的な意見を言っている。

 しかし、ここらで調子に乗ってくるのもまたこいつらである。


「ていうかぁ ナナもぉ 指揮官してみたいなぁ」

「ばっか! 次はオレだろっ!」

「何言ってんだお前ら。俺だよな一之瀬?」

「お前らそこに座れ。正座だ」


 即座に正座を命じて大人しくさせた。このへんは最早『しつけ』である。

 小森ちゃんが荷が重いので俺がやるしかないのだ。


「お前ら正直に手ぇ上げろな。『次こそは自分の番!』だと下剋上狙っちゃった人~?」

「ば、ばっか言ってんじゃねえ一之瀬! オレ達はそんなセコイ事しねえよ! お前らそうだよな!?」

「あ、ああ。ももももちろんですともかーちゃんに誓ってだ!」

「な、ナナはぁ うんとぉ…… えへっ」


 俺は道端のクソでも見るような目でヤツラを見下ろし、顔だけは笑顔で言った。


「じゃあみんな目を瞑れ。そうそう小森ちゃんもね~」


 ガーデンの荒野フィールドで大人しく正座する馬鹿3人と、不安気に俺の様子を伺う小森ちゃんの図がシュール過ぎて頭が痛くなった。


「はい、では! 俺しか見てないし他の人には絶対に言わないから正直に手を上げよう。『我こそは!』って思っちゃった人~?」


 ギュッと目を瞑って恐る恐る手を上げる馬鹿3人。

 予想通り期待を裏切らない信頼と実績の馬鹿を前に、俺は独り凶悪な笑みを浮かべた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 放課後、きっちりこってり話し合い(物理)をした俺たちは、駅前商店街へと繰り出していた。

 2日後に迫る林間学校に備えた買い出しだ。件のおやつだが、好きに買って良いのは一人一個までと決め、残りはシリアルを買えるだけ買った。

 多々羅はハーゲンダッツ、旨鹿は食玩付のガム、そして弦月はよっちゃんイカである。よっちゃんイカ1袋(10g)を片手にプルプル震える弦月がやけに印象的だった。


 おかしだけならそこらのスーパーで問題無いのだが、駅前商店街に来たのは理由がある。

 ダンジョンのゲートが現れるまで、シャッターが9割を占めていたという落ヶ浦銀座商店街は、今やダンジョン探索を生業とする冒険者で大混雑する一大スポットである。


「いつ来ても混んでるな~」


 武器屋、防具屋に始まり、錬金科と提携した魔導具屋やら、ダンジョン用便利グッツ販売店、はたまたダンジョンと銘打っただけの土産物屋までが所狭しと軒を連ねた商店街は、今日も今日とて人足が途切れず賑わっていた。

 もちろん、俺たちの主装備は今更変更しない。学生の身としては懐具合だって限られているし、学校側からチームの予算として認められているのは5,000円までだ。

 そんな俺たちがなぜ商店街に来たかというと、チーム内で3人を占める女性陣のたっての希望があったからだ。


「男子にはぁ わかないよぉ 女の子の冒険者の大変さはぁ」

「そうそう。女の嗜みってやつだな!」

「ううぅ…… 恥ずかしいです…… こっち方面の準備も男の子と一緒になんて……」



 そう、それは4日間にも及ぶサバイバルに必要な道具、そして女性陣には必須のエチケット用具の買い出しをするためだった。


 



次回、林間学校開幕です

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