パーティー 下
ルークをフィリア達が見つけたとき、相変わらず彼は貴族の令嬢達に囲まれていた。
(――相変わらずね)
そう思うと同時に、少し寂しさも感じた。
ルークに婚約者が見つかることは、自分にとっても喜ばしいはずだ。
それを、寂しく思うなんて。
抱いた考えを振り払っていると、オズベルトが顔を覗き込んでくる。
「どうしましょうか。
近づけませんね」
「そうですね…
けれど、この距離からでも護衛は出来ますし、問題はないかと。
もともと守りの魔術もかけてあります」
「…そういう訳には、行かないようですがね」
そう言って笑うオズベルトは、彼女の耳元に顔を近づけると、もう少し強く腕を絡ませてくれませんか?と囁いた。
不思議に思いつつも、それに従うと、彼は更に顔を近づけた。
息が触れあいそうな距離だ。
「…あの?」
「…何をしているんだ」
「これはルーク様。
いえ、彼女と親交を深めていただけですよ、ねぇ?」
同意を求められ、フィリアは慌てて頷いた。
展開の早さについていくことが出来ない。
「――そんなに近づくことは無いだろう」
ぎろりと、オズベルトを睨んだルークは、その厳しい顔のままフィリアに向き直った。
「フィリア、あれはどういうこと?」
「…?」
「あの、挨拶の時の」
「あ、あれはルーシア様がそうするようにと。
でも、彼女は悪くありません。
貴族への牽制にもなりますし、むしろ私からも提案させて頂きました。
最初は危険が少ないようにと矢を用いるつもりだったのですが――」
慌てて弁解したが、突然口を塞がれ瞠目する。
犯人であるオズベルトは苦笑しながら一言。
「すみません。
ですが、貴女の言葉は全て逆効果ですよ?」
「逆効果…?」
「もういいだろう、その手を離せ」
「おや、私は彼女のパートナーですよ?」
おどけるオズベルトに、ルークは顔をしかめた。
「元々パーティーは社交の場。
同じ相手とばかりいればマナー違反だ」
「やれやれ、三年前の貴方に言ってやりたい言葉ですね。
それではフィリア様、私は少し他の者との会話やダンスを楽しんできましょう。
それまではルーク様と共に。
護衛が必要ですからね。
しばらくしたらまた来ます」
「はい、わかりました」
去り際、気を付けて、とフィリアの耳元で囁いて、オズベルトは人混みに消えていった。
後には困惑したフィリアと、未だ苛立った様子のルークだけが残される。
「…あの、ルーク様」
「踊ろう」
手をとられ、フィリアは驚いてルークを見た。
「このままだと、また囲まれてしまいそうだからね」
言われてみてみると、確かに令嬢達が近づく隙を今か今かと窺っていた。
強く手を引かれるまま、ダンスホールへと進み出る。
そのまま流れにのって踊ることになってしまった。
「ルーク様、私は護衛ですから、他の方と…」
「なんでまた様付けに?」
「私は専任魔術師ですから」
ルークは眉を寄せた。
「前はこういった所でも、ルークと呼んでくれていたよね?」
「――あの時は、旅の仲間という立場でした。
けれど今の私は貴方の配下です」
「――また、立場か。
フィリアが三年前立ち去った理由もそれだったね」
「それは、」
「こんな風に、また君は俺の前から消えてしまうのかもしれないね」
「そんなことはありません!!」
「――それじゃあ、ルークと呼んでくれるよね?
三年前のことを悪いと思っているのなら、なおさら」
「……」
フィリアはため息をついた。
この王子様はなかなか強からしい。
けれど、同時に心の中の寂しさも消えていた。
「そうですね、仕方がないからルークと呼びますよ」
「ありがとう、フィリア」
ところ変わって、こちらはバルド。
「まったく、あいつら目的を忘れていないか?」
彼は一人、ワインを片手に眉根を寄せて小さく呟いた。
「どうかされましたか?」
「――ああいや、ルーク様と専任魔術師がうまくいっているのかと、ね」
すぐそばに立つ男に不思議そうに問いかけられ、バルドは慌てて取り繕った。
何を隠そう、この男こそがパーティーの目的、行動の怪しいバークレイド侯爵である。
あの二人がなんやかんやと揉めているうちに、バルドはしっかり目標に接近していた。
侯爵は柔和そうな顔を更にほころばせてルーク達を見つめる。
その様はとても怪しい動きを見せている人間のものとは思えない。
「お二人は旅を共にした仲なのでしょう?
バルド殿が心配せずとも問題はないように思われますが」
バークレイドの言葉に、バルドはふと、あることを思いついた。
確かこの男は選民思考は持っておらず、フィリアに対してもまだ悪い感情はそれほどないはずだ。
そうと決まれば―――バルドは切なそうに顔をゆがめた。
「……そうですな。
けれど、城は人目も多い。
あまり親しげにし過ぎても、問題を呼ぶのですよ。
実際彼女はそれを苦に思い、一度は城を出た」
―――間違ってはいないのだが、正しいとも言えなかった。
ニュアンスの問題である。
しかしバークレイドは、なんと、とその話を聞き悲しげな顔で未だ踊る二人を見る。
「そんなことが……!!」
「私としても、二人を以前のような関係に戻したい。
けれど、城という環境がフィリアを怯えさせてしまうのですよ。
どこか……あまり貴族のいない、静かな環境があれば、と思うのですが」
余談だが、バークレイドの持つ領地は王国の東、祈りの森の近くにある辺境のため、他の貴族はあまり寄り付かない。
「静かな環境ですか……それならば、私の領地に視察という名目で参られませんか?
あそこならば人の目も気にせず、静かに過ごすことが出来るはずです」
「――いいのですか?」
「勿論ですとも!
我が領地としても王太子殿下のお越しとなれば活気が出て領民も喜びます」
「……それならば、お言葉に甘えて」
随分うまくいくものだな、とバルドは首をひねった。
単なる好意なのか、それとも―――
(――まあ、虎穴に入らずんばともいうしな)
もしも罠だとしても、切り抜ければいいことだ。
そう思い直して、バルドはバークレイドと話を詰めていった。
バルドさん大活躍(仮)




