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緑の柱  作者: 美羽
再会
92/182

争奪戦



結論から言えば、フィリアに飲み比べを申し込んだ兵士達は前回と同じく彼女に早々と潰され、床に転がった。

バルド、カイン、オルベはこの結果が手に取るようにわかっていたため最初からルークとサージェントの一騎討ちに注目している。

二人は今ウィスキーを飲み始めた所で、お互いにまだ酔いつぶれる素振りは見せない。



「二人はまだやってるの?」



勝負のため他のテーブルに移動していたフィリアが自らの席に戻りつつ問う。



「あぁ、見ての通りだ」


「お互い一歩も譲りませんからね」


「長引きそうだ」



三人揃って似た内容を告げられ肩を竦める。

仕方がないのでフィリアも自らの杯を干しつつ二人の勝負を見守った。



「なんだフィリア、もう周りのやつらは降参か?」



フィリアが席についたことで漸く周囲の様子に気がついたのか、サージェントがグラスを揺らしつつ声をかけた。

ルークもそれに辺りを見回す。



「もう?

本当に強いんだね」


「グレイ翁に毎晩のように付き合っていると、余計にね。

ロイもここ数年で凄く強くなっていたわよ?」



ロイの名前を聞いて、ルークは眉間に皺を寄せ、サージェントはニヤリと笑った。



「ロイってのは次期赤の族長だろ?

仲が良いのか?」


「ええ、一年間一緒に勉強させてもらったし、旅でもお世話になったしね。

道に迷っていた所を助けてもらったの」



何かを企むようなサージェントの笑みに気づかず、フィリアは笑顔で答えた。

ルークの表情が険しくなっていく。



「へぇ、一年間ひとつ屋根の下、か。

そりゃ仲も良くなるな、色んな意味で」


「…?そうね」



あまり意味が分からなかったが、仲が良いのは事実であるため肯定する。



――ガンッ




「……次のものを貰えるかな?」



空のグラスをテーブルに叩きつけたルークは、白々しい程の笑顔で更なる酒を要求した。



「なんだ、機嫌が悪いみたいだな」


「お陰さまでね」



意地悪く笑うサージェントに余計神経を逆撫でされるのか、ルークは後先考えずに杯を重ねていく。

いつしかその顔は酒気を帯び、呂律も怪しくなっていた。

冷静にその様を見ていたサージェントは勿論未だ素面である。



「ルーク、そろそろやめた方がいい」


「倒れちゃうわよ?」



バルド、フィリアが止めにはいるが、彼は聞く耳を持たなかった。



「まだ平気だよ」


「さっすが王太子殿下。

なら付き合うぜ。

そうだ、フィリア注いでくれないか?」



ピクリ、とルークの片眉が上がる。

フィリアはなぜ自分に、と怪訝そうな顔をしたが別段断る理由も無いため了承した。

隣の席に座るサージェントの杯に酒を注いでいく。



「すまないな」


「別に構わないけれど…」


「フィリア、俺にも」



ルークが空のグラスを差し出してくる。



「…なんだかルーク、怒ってる?」


「怒ってないよ。

いいから注いで」



ピシャリと返され内心怒っているではないかと思いつつ、フィリアは立ち上がった。

ルークとは席が離れているため、一度席をたたなければならないのだ。



「はい、これでいいでしょ?

……今度はどうしたの?」



注ぎ終え、自分の席に戻ろうとしたフィリアを、ルークが手をつかんで止める。



「なんで戻るの」


「え?だってもう終わったし…」


「――もう一杯」



ルークは直ぐに酒を飲み干した。

どうやらフィリアを離れさせたく無いらしい。

完全なる絡み酒である。



「ルーク、私座りたいのだけど」



それを何度か繰り返すと、とうとうフィリアが音をあげた。

しかしルークは首を傾げると、ぐいと彼女の腕を引く。



「なら、こうすればいいよ」



自らの膝の上にフィリアを座らせ、ご満悦のルーク。

彼女の服と体をつかんで離すようすがない。



「ちょっとルーク!!

……サージェント、どうにかしてちょうだい」



原因を睨み付けるが、彼は楽しげに笑うばかり。



「いいじゃないか、仲がよくて。

それにもう寝てるみたいだぜ?」


「え?」



慌てて体を捻る。

それによりバランスが崩れたのか、ルークの体の体重がフィリアにずしりとかかった。

確かに、寝ている。



「俺の勝ちだな」


「それはいいから、重い…」



潰されそうなフィリアに慌ててバルドが駆け寄る。



「……離れん」



しかし、彼をフィリアから引き剥がそうにもしっかりと腕を巻き付けているため離れない。

フィリアは眉を下げた。



「どうすればいいの?」


「参ったな…」


「貴方ももう少し考えなさい。

こうなった原因なんですから」


「そんなこと言ったってなぁ」



困り果てるフィリアとバルドを笑うサージェントを、カインがピシャリと叱りつけるが全く堪えた様子はなかった。

それを見て仕方がなさそうにフィリアがため息をつく。



「もういいわ。

このままルークの部屋まで行って、どうにかしてみる」


「大丈夫か?」


「たぶん……

幸いしっかりくっついているから、転移の最中に落とす心配もないし」


「おぉ、頑張れよー」


「……サージェントには言われたくないわね」



すみません、と上司の代わりに詫びるカインに気にしないでほしいと告げ、フィリアは周囲に転がる兵士達を魔方陣で包む。



「一体なにを?」


「重さを軽くする魔術よ。

この人数だし、運ぶのは大変でしょう?」



言われて持ち上げてみると、確かに片手で足りる重さだ。



「へぇ、便利だな」


「本当は全員転移で連れていきたいのだけど、場所もわからないしこれで勘弁してちょうだい」


「いえ、十分です」



大したものだ、と感心する男達に苦笑して、フィリアは術を展開する。



「朝には術の効果が切れるから、それまでに運んでね。

それじゃ、先に帰っているわ」




そう言って消えた二人がいた席を眺めながら、オルベが一言。



「…フィリアは脱出出来るのだろうか」


「「…」」


「そりゃ無理だろ」



賢明にも、何も言わないバルドとカイン。

サージェントは未だ杯を干しながら、愉快そうに目を細めた。





ルーク君は絡み酒。

しかもスキンシップが通常の2割増になります(当社比)

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