酒場にて
そのまま西大通りをぶらぶらし、二人はバルド達が待つであろう酒場へ向かった。
「ここだよ」
「…何となく、覚えているわ」
フィリアはしげしげと酒場の外観を眺め、頷いた。
「それじゃあ、お手をどうぞ?」
ルークが片目を瞑り、手を差し出す。
フィリアは少し驚いて、けれどその手に自らのそれを重ねる。
「お願いします」
二人は揃って扉をくぐった。
「うおぉぉお!
マジでフィリアさんだ!!」
「やべぇ相変わらず可愛い…」
「生きててよかったっす!」
「お、着いたかお前達」
「……バルド、これはどういう事かな?」
酒場へ入った瞬間響いた男達の野太い声に、ルークは口元をひきつらせた。
「……あいつのせいだ」
バルドはルークから目を背け、サージェントを顎で示した。
サージェントはギクリとした顔をしてルークから離れる。
「サージェント、少し話があるんだ」
そのままルークは彼に詰め寄った。
「やれやれ、忙しない人達ですね」
「…久しぶりだな」
その隙にフィリアのもとへカインとオルベが現れる。
フィリアは顔を輝かせた。
「二人とも!
本当に久しぶりね。
三年前は挨拶もできなくて…」
「いいのですよ。
貴女にも、事情があったのでしょう」
オルベも頷いて同意を示した。
「ありがとう。
――ところで、どうしてこんなに兵士の人達が?
サージェントからは二人と、という事しか聞いていないのだけど」
「それが、兵士の食堂で話をしていたら皆が貴女に会いたいと言い出しまして。
仕方なく連れてきたんですよ。
彼等は三年前、貴女と酒を飲み比べた仲ですから」
そう言えば、とフィリアは周囲の兵士達を見回す。
どおりで見覚えがあるはずだ。
「嬉しいわ、こんなにたくさんの人がいるなんて」
「そう言って下されば幸いですよ。
さ、席を用意してあります。
行きましょう」
サージェントの元へと消えたルークの代わりにカインがフィリアをエスコートする。
どうやら以前飲んだ時のように座るらしく、導かれたテーブルにはフィリアを合わせて六人分の座席が用意されていた。
一つは前回参加していなかったルークのものだろう。
フィリアが席についたことを確認すると、未だ言い争うルークとサージェントに向かってバルドは声を張り上げた。
「二人とも、始めるぞ!
さっさと座れ」
その声にやっと気がついたのか二人がテーブルに駆け寄る。
円いテーブルに、フィリア、カイン、オルベ、ルーク、バルド、サージェントの順で座った。
「なんでこんな席順に…」
「ルーク様はサージェントと戯れていらしたので」
フィリアとテーブルを挟んだ向かい側――すなわち一番遠い席となった事について小さく文句を垂れるルークに、カインがしたり顔で告げた。
反論が出来ない彼に哀れむような視線がいくつか刺さる。
それに気づかないふりをして、サージェントはいつものように乾杯の音頭をとった。
「そんじゃ、フィリアの帰還と専任魔術師への就任を祝して、乾杯!」
それと共に所々でグラスを鳴らす音が響く。
フィリアもテーブルの全員と杯を合わせ、その中身を一気に喉へ流し込んだ。
「――相変わらずいい飲みっぷりだな」
それを見てニヤリと笑うサージェントに、フィリアも同じ笑みを返した。
「あら、私が今までどこにいたと思ってるの?
酒盛りなんて赤の領主の館では日常茶飯事よ」
「グレイ殿か。
ますます楽しみだな。
なぁ、ただ飲み比べるだけじゃつまらないし、ここはひとつ賭けをしないか?」
「賭け?」
サージェントの言葉にフィリアは首を傾げた。
他の者達も何を言い出すのかと黙って話に聞き耳を立てている。
「そうだな……俺が勝ったら、お前を一日借りる」
「私?」
サージェントが何かを企むように笑う。
「あぁ。
お前は魔術師だから、酒だけじゃなく純粋に戦ってみたい。
俺の剣が魔術師相手にどこまで届くのか、試してみたいんだ」
「ふふっ、“白の術師”に挑戦ということ?
でもそれくらい、賭けにしなくても普通に受けてたつわよ?」
「いーや、お前の主が納得しなさそうだからな。
それに、戦うだけじゃなくてその治療の腕もかってるんだ。
訓練とは言え、怪我人も出るしな。
他にも頼みが色々あるから、一日フィリアを借り受けたい」
そう言って、ルークにチラリと目線を送る。
「何を言い出すかと思えば…
フィリアは俺の専任魔術師なんだから許可するはずないだろ」
ルークはため息をついてそれを拒否した。
「いいじゃない、一日くらい」
「駄目だよ」
見兼ねてフィリア本人もそう言うが、ルークの意見は変わらない。
「独占欲剥き出しの男は嫌われるぜ?」
「………」
どちらも譲らない二人に、それなら、とバルドがひとつの提案をした。
「お前達二人で飲み比べをして、それで決めればいいんじゃないか?」
「それは名案ですね。
そうしましょう、二人とも。
祝いの席でいがみ合うのは誉められたことではありませんよ?」
バルドとカインの言葉、そしてオルベの視線に二人も頷いた。
「いいぜ、絶対勝つ」
「のぞむところだよ」
「…サージェント、私と飲み比べする約束だったのに」
闘志を燃やす二人に、フィリアが唇を尖らせる。
そんな彼女に、三年前潰されたことも忘れ、周囲の兵士達がこぞって勝負を申し出るのだった。




