西大通り
そろそろ日も傾きはじめた頃、ルークはフィリアを揺り起こし、王都へおりる準備を始めた。
「ルーク、もういい?」
「大丈夫だよ」
休憩室にてルークの着替えを待っていたフィリアは彼の許可を経て執務室へ戻る。
「…うん、街人って感じね」
上から下までしげしげと彼を眺める。
デザインとしては誰でも着ているような服。
けれどその生地や仕立ては一級品だ。
見る人が見れば気がつくだろうが、遠目からでは問題ないだろう。
それに元々ルークは王都の人間には正体を知られているので通りすがりの旅人達にさえバレなければいい。
因みに、フィリアは白の術師のローブを着用し、尚且つまだ存在を知られていないため変装の必要はない。
「それじゃあ行こうか。
フィリア、転移か浮遊をお願いしていいかな?」
「一度行ったことがあるし、転移できるわ。
西大通りにそのまま転移しても問題ないかしら?」
ルークは少し考えた。
まあ、西大通りの人々は顔見知りだし、転移で突然ルーク達が現れたとしてもそこまで大きな騒ぎにはならないだろう。
「たぶん、大丈夫だと思う」
頷いて、転移した。
結果的に言えば、ルークの予想は当てにならなかった。
転移で大通りに二人が現れた途端、驚いた人々に取り囲まれたのだ。
最近ルークが城に籠って王都に来ていなかったことも一因だろう。
だが何よりも彼等が驚いたのはルークの傍らに寄り添う白いローブ姿の怪しい人影だった。
二人が魔方陣と共に現れた以上、その人物は魔術師。
白、魔術師、その二つが指し示すものは。
「ルーク様、もしかしてその方…
白の術師様じゃ!?」
「その通りだよ。
――案外有名なんだね」
クスリと笑ったルークに、ローブの下から恨みがましげな目線が刺さった。
フィリアとしてはその名前を呼ばれるのは心底恥ずかしいのだ。
「ごめんごめん。
それじゃあ改めて紹介しようか。
俺の専任魔術師になった、白の術師殿だよ」
おおっ、と歓声があがる。
それほどまでに白の術師は有名なのだ。
「は、初めまして、白の術師様!!」
「君たちは“初めまして”じゃないと思うけどね」
緊張したように挨拶をする人々に、ルークは楽しそうに笑った。
「…え?いや、俺達は術師様に会ったことはありませんよ?」
キョトンとする人々に、ルークは覚えてないかな、と呟くと、フィリアを前に出してそのフードを外した。
「三年前に一度、会っているはずだよ?
俺の旅の仲間の、フィリア」
「……」
人々の反応はない。
「……だから何もフードまで被らなくてもいいって言ったのに」
覚えていないのだから隠しても意味はないだろう。
フィリアがため息をついた、瞬間。
「あ、あの時の美人の嬢ちゃんか!?」
ビシリと指を指され、取り敢えずフィリアが頷く。
それを皮切りに、次々と人混みから声が上がった。
「あの時の!」
「え?ってことは嬢ちゃんが白の術師様で白の術師様が嬢ちゃんで…?」
「相変わらず美人だな」
口々に言い合う人々を見つめるフィリアに、ルークはほらね、と笑って見せた。
「ちゃんと覚えてただろう?」
「……そうみたい」
「それじゃあ嬢ちゃんはずっとルーク様のとこにいるんだろう?
ルーク様、よかったですね!」
一人が囃し立てると、それに皆が反応する。
「そうそう、嬢ちゃんがいなくなってからのルーク様といったら!」
「あれはひどかったよな」
「死にそうな顔してたぜ」
「数日前までは幸せの絶頂みたいな顔してたのにな!」
その場にいた殆どにからかわれ、ルークは顔を赤くした。
「なっ……」
「……そうなの?」
申し訳なさそうに、けれどどこか嬉しそうに顔を覗き込んでくるフィリアに撃沈する。
「……そうだよ」
周囲がドッとわいた。




