心配
その後、バルドは詳しい事情を説明しろとサージェントに詰め寄られたため、兵士用の食堂で昼食を摂りつつこれまでの出来事を語ることになった。
なぜその場所かと言うと、サージェントだけでなく、カインとオルベにも話しておくためである。
酒の席で質問攻めにされてはかなわないし、そもそも二人を酒場に誘う理由がフィリアの帰還祝いなのだ。
サージェントだけでは上手く説明できないだろうことを予想した行動だった。
「説明なら私も行きましょうか?」
本人もいた方が良いのではないかと気をきかせたフィリアだったが、バルドとサージェント、二人から反対をうける。
「大丈夫だ。
疲れているだろうし、夜まで休んでいるといい」
「そうそう、ルークと一緒にここにいろって。
それに事前に会っちまったら驚かせ甲斐がないだろ?」
「……そこまでいうなら」
渋々フィリアがソファーに座り直す。
サージェントは心の底からホッとした。
何しろ先程の抱擁もある。
これ以上ルークの機嫌を損ねるようなことがあれば、後で何をされるか。
ぶるりとサージェントの体が震えた。
「それじゃ、酒場で会おうぜ」
「俺も今日はこのまま酒場まで向かうから、気を付けて来るんだぞ」
「え?私、場所をしっかり覚えていないのだけど…」
少し不安そうな顔をするフィリアに、何でもないことのようにルークが笑う。
「それなら俺が分かるから問題ないよ」
「ルークも来るの!?」
「勿論だよ」
仮にも王太子が、夜の酒場に。
というか、今もまだ城を抜け出しているのか。
「なんというか、果てしない違和感だわ…」
「ちゃんと街人の格好もするし、何度か行ったこともあるから問題ないよ。
それじゃ二人とも、また夜に」
「あぁ」
「待ってるぜ」
二人が執務室から去っていく。
フィリアはまだ納得しきれていない顔をしていた。
「俺が酒場に行くのはそんなに変かな?」
苦笑するルークに、フィリアはそういうことではない、と首をふる。
「なんだか、本当に三年経ったんだなって思ったの。
私の思い出の中のルークは、お酒を飲むことが殆ど無かったから」
「確かに三年前まではそうだったね。
でも国王は酒にも強くなければ、とか言われて、二年前くらいから半強制的に飲まされはじめたんだ。
今は慣れて、普通に飲んだりしているよ」
「なんだか、ルークなのにルークじゃないみたい。
あ、悪い意味ではないのよ?」
フィリアは眩しそうにルークを見た。
「こんな俺は、フィリアは嫌かな?」
「いいえ、どんなルークもルークだもの。
嫌いになんてならないわ。
ルークは白の術師の私を嫌がるの?」
「勿論そんなことないよ」
二人は穏やかに微笑みあった。
その時、昼食の準備が整ったのかメイドが入室する。
それに一瞬ルークの動きが止まった。
「…?」
フィリアは少し首を傾げたが、一瞬のことだったため、気のせいかと思い直し、テーブルに並べられた料理を見つめた。
起きた時間が遅かったため、朝食を取っていないのだ。
メイドが退出し、フィリアは早速ナイフとフォークを手にとる。
「それじゃあ、いただきます」
フォークに食材を刺し、口に含もうと―――
「フィリア!」
した所を、ルークに止められた。
自らの腕を強く掴んで食べさせようとしないルークを、フィリアはポカンと見つめた。
「どうしたの?」
その言葉にルークはハッとしてその手を離す。
気まずそうに視線をそらした彼を見て、フィリアはもしかして、と考える。
「ルーク、これに毒は入っていないわ」
「……本当に?」
やはり、と思った。
ルークはフィリアがここ数日昼食に毒を盛られていたことを気にしているのだ。
ならば。
「はいルーク、あーん」
「へ?」
ルークはわけがわからず、差し出されたフィリアが食べるはずの料理を見る。
フィリアは自分の持つフォークをズイッと更にルークの口元に寄せ、もう一度言った。
「ルーク、あーんして?」
「……あ、あーん?」
戸惑うように中途半端に開いた口のなかにフォークを突っ込む。
口内の食材を、ルークは困惑したまま咀嚼した。
それを見届けてフィリアがにっこり微笑む。
「美味しい?」
「うん…」
「毒なんて入っていないでしょう?」
フィリアの言葉にルークは目を見開いた。
「……うん、そうだね。
毒は入ってない」
「もう安心でしょう?」
頷いたルークに、フィリアも満足そうに頷いて今度こそ食事を口に運んだ。
やっとありつけた食事をニコニコしながら食べるフィリアを見つつ、ルークは頭の隅で考える。
(――あれ?もしかしてこれって)
フィリアが今使っているフォークは、先程自分が使ったもの。
ならばこれはやはり。
ルークはうっすらと顔を赤くする。
フィリアが食事に集中していて助かった。
もし彼女に気づかれれば、どうしたのかと問い詰められるに決まっているのだから。
そう、間接キスです(笑)




