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緑の柱  作者: 美羽
再会
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これまで

王が気を利かせたのか、今日は朝に片付けた書類だけで他の政務はない。

三人は今までの事をお互いに話そう、とソファーに座った。



「と言うか今さらなんだが、フィリアは本当に“白の術師”なのか?」



まずはバルドが一番気になっていたことを尋ねる。



「恥ずかしいけど、確かにそう呼ばれてるわね。

でもあんまり呼ばないで?

それ、アルとエルが面白がってつけたものなのよ?」


「それじゃあやっぱり、この三年間は夢幻の都に?」


「一年間はそこで魔術を学んでいたわ」


「「一年間は?」」



ルークとバルドが声を揃える。



「最初の一年は夢幻の都で魔術を、二年目は豊穣の街で貴族の生活、振舞いについて、三年目は砂漠の月で政治や経済について勉強していたの。

白の術師として色々始めたのは、魔術を本格的に学びはじめてから半年ぐらい経ってからね」



たぶん王都にまで噂が広がったのはその3ヶ所を拠点に活動していたからだろう、とフィリアは何でもないことのように告げた。

しかし、実際はそう簡単なことではない。



「…なんで、そんなことを?」


「だってあのまま私が城にいたら、二人に迷惑をかけてしまっていたもの」


「……身分か?」



バルドは眉間に皺を寄せた。



「そうね。

実際私は怪しい人間だから、仕方ない事だけど。

だから堂々と城にいられる様に、“白の術師”として城に戻ってこようと思ったの。

まあ、この方法はヘルミナ様が考えたことだけどね」


「三年も、それだけのために?」



ルークの言葉にフィリアは、



「まあ、三年もかかったのは予想外だったけれど。

本当は一年半くらいで戻ってくるつもりだったのよ?」



二倍もかかってしまった、と情けなさそうに眉を下げた。



「なにを言う。

大したものだぞ?

ルークはそれに十年かけたからな。

しかも、魔術は無しで」


「…うるさいな」



バルドの揶揄にルークは小さい頃の話だろうと顔を赤らめた。




―――トントントン



来客のようだ。



「誰だ?」


「サージェントです。

白の術師殿に用があって参りました」



その言葉と共に、サージェントが入ってきた。

フィリアは立ち上がってそれを迎えた。



「サージェント、久しぶりね。

私に用って何かしら?」


「………」


「…どうかした?」



反応のないサージェントに、きょとん、とフィリアは首を傾げた。

す、とその眼前に彼の指が伸ばされる。



「もしかして、フィリアか?」


「見ての通りフィリアだけれど」



「――っひっさしぶりだなぁ!!」


「きゃっ」



突然ガバリと抱き締められたフィリアは小さく悲鳴をあげた。

それに構わずサージェントは息つく間もなく質問を重ねる。



「いつ帰ってきたんだ?

早く教えろよ。

元気だったか?

また酒場で飲み比べしようぜ、お前と飲んでからいつもなんかこう、物足りなくてな」


「ふふっ、つい一週間前にね。

元気に過ごしていたわ。

私も他の人達に会いたいし、いつでも酒場は誘ってちょうだい」


「それでこそフィリア!

俺の見込んだ女だな……っ!!」



言葉尻がしぼみ、小さく息をのむ音。



「どうし、」



突然腰に腕が巻きつき、後ろへ強く引っ張られる。

抵抗もできず、フィリアは温かい何かにぶつかった。

後ろを見てみると、ルークだ。



「……いい度胸だね?」



低い、這うような声。



「あぁ、いや違うんだ。

そのー、フィリアが戻ってきたのが嬉しくてさ」



慌ててサージェントが取り繕う。

バルドに目だけで助けを求めるが、そらされた。



(―薄情者!!)



しかし、救世主は存在した。



「ルーク、何怒ってるの?」


「……いや、怒ってはいないよ。

ただ少しサージェントがね」


「?

サージェントは私に用があって来たのよね?

何故ルークが気にするの?」


「…まあ、そうだけど」



ルークの腕から抜け出すと、また抱きつかれないよう距離をとる。



「最近ルーク、抱きつき癖があるのね。

そういうこと、婚約者の人にした方がいいわよ?

それでサージェント、何の用?」



自分の愛する人に婚約者などと言われ、ルークが真っ白になる。

助けられたとはいえ、これは哀れだ。

サージェントとバルドは少しの憐憫を込めてルークを見つめた。



「……え、あー。

というか、もしかしなくても白の術師殿ってフィリアか?」



その問いに、ああ、とフィリアは納得したような顔をした。

一瞬で白のローブを体に纏い、優雅に一礼する。



「そう言えば、まだ言ってなかったのよね。

改めまして、“白の術師”フィリアと申します。

近衛兵団長殿におかれましては、本日はどの様な御用向きでしょうか。

私で足ることならば、喜んでうかがいますが」


「……本当に白の術師なんだな」



ポカンと見つめてくるサージェントに満足したのか、フィリアはクスリと笑ってローブをしまう。



「で、本当に何の用だ?」



いつまでたっても話が進みそうにない様子に、バルドが口をはさんだ。



「お、そうだった。

フィリア、お前昨日俺の隊の若いやつを助けてくれたんだろ?

その礼を言いに来たんだ」


「助けた?

……私、何かしたかしら?」


「フィリア、鍛練所で怪我したやつを治していただろう」



その様子を覗き見ていたバルドが忘れたのか、と呆れたように彼女を見る。



「…そう言えば、そんな気も。

でもあのときはあまり意識が無かったから」


「そのわりに転移は使うわ、俺を眠らせるわ、魔術をかなり使っていたが?」


「どういうことだ?」



話の流れが読めず、首をかしげるサージェント。

ルークもその話は初耳で、ショックから立ち直り聞きたそうな顔をしている。

とは言っても本人は毒で意識が朦朧としていたと言うし。

結果的にバルドが説明することになった。



「あー、まあサージェントには細かな事は後で話すから、あまり口を挟むなよ。

ともかくフィリアはその時正体を隠していて、尚且つ毒を飲まされていたんだが」


「毒!?」


「口を挟むなと言っただろうが」



サージェントを軽く睨み、バルドは話を続けた。



「俺はサージェントに用があったから、鍛練所にいるかと思ってそこに向かった。

そうしたらそこで事故が起こってな。

訓練用の剣の刃が潰してなかったんだ。

遠目からだったが、かなりの出血で命も危なかったように思えた。

そこにフィリアが転移で現れて治療したんだが、そいつが助かった代わりにフィリアはかなりフラフラしていてな」



チラリとフィリアを見る。

何となくなら覚えている、という顔をしていた。



「流石に心配になって後を追ったら茂みのところに座り込んでいて、これはチャンスだと思い」


「「思い?」」



ルークとサージェントの声が重なる。



「正体を暴こうと思ってフードと仮面を外したらフィリアで、予想外の事に驚いているうちに魔術で眠らされた」


「……思い出したわ。

あまりにも強く呼ばれたから、それまで謁見の間にいたのだけど急いで転移したのよ」



「呼ばれた?」



フィリアが強く頷く。



「強い気持ちは届くから。

魔術でそうしているの。

そうすることで大きな災害が起きたときには、現場に早く行くことができるから。

それでともかく頑張って治して、転移は少し事情があって出来なかったから歩いて帰ろうと想ったのだけど、駄目だったのよね」



えへ、とでも聞こえてきそうな調子にルークの眉間に皺がよる。



「だめだったって、そんな無茶を…」


「別に無茶ではないわ。

魔力量だけならまだ百人ぐらい同じ状態の人を治療することができるし。

でも、それには緑の魔方陣を使わなければならないから、正体がバレてしまうかもしれなくて出来なかったの」


「そう言えば、フィリアの魔方陣は三年前は緑だったな。

なぜ白くなっているんだ?」



バルドの問いに、フィリアは難しい顔をする。



「説明するのは難しいんだけど、魔力の濃さを変えているの」


「濃さ?」


「ふつうに魔術を使えば、魔方陣は緑になってしまうわ。

それが私の魔力の本来の色だから。

でも魔術を使う時に、魔力を……そうね、五倍ほど消費すると魔方陣が白くなるの。

魔力を多くすればするほど、色は薄くなっていくから」



五倍。

三人は言葉を失った。



「あの時は毒もあって集中がきかなくて、少し魔方陣に緑が表れてしまったから、それでバルドも気がついたのかと思っていたけど、まさか単純に心配してくれていたなんて思わなかったわ」



フィリアが苦笑する。



「かなり強い毒で手足が痺れていたからフラフラ歩いちゃったのね。

ローブや仮面を取られても抵抗できなかったし。

仕方ないから驚いた隙をついて魔術で眠ってもらって、体が落ち着くまでその茂みに隠れていたのだけど」



フィリアがルークを見やる。



「今度はルークが刺客に襲われたのがわかったから、慌ててバルドを謁見の間に転移させて、私はルークの部屋に向かったの。

急いだから座標が雑になってしまって、バルドを玉座の真横に転移させちゃったのよね。

ごめんなさい」


「ついでに言うと転移先が床より少し上だったから、体をしこたまぶつけてそれで目が覚めた」


「……本当にごめんなさい」



フィリアは気まずそうにバルドから目をそらした。



「なんというか、突っ込みどころがありすぎてわからん。

ともかく、部下を助けてくれてありがとな。

その礼と言っては何だが、今夜どうだ?

カインとオルベも誘っておくし」



フィリアは瞳を輝かせた。



「二人も?

絶対行くわ!」


「駄目だよフィリア。

君は病み上がりだろう?」



しかし、ルークが待ったをかける。



「そんな、私別に病人じゃないわよ」


「でも昨日あんなに具合が悪そうにしていたじゃないか」


「もう平気よ。ね?」



バルドにも確認をとる。

彼は少し悩み、いいんじゃないか?と賛成してくれた。



「バルド」


「ルーク、お願い。行かせて?」



間近で潤んだ瞳に見つめられ、ルークの意志が揺らぐ。



「……」



その様子を見てサージェントは考えた。

このままでは待ち望んでいたフィリアとの飲み比べができない。

では、そのためにはどうすればいいのか。



「フィリア、………」



彼女に耳打ちし、指示の通りにするように勧める。

フィリアは不思議そうに首を傾げたが、やってみると頷いた。



「何を二人でこそこそと…」


「ね、ルーク」



ルークの文句を聞かず、フィリアが近づいた。

キュッとルークの服を両手でつかんで。

少しだけ首を傾かせ、上目づかいで眉を寄せる。



「――どうしても、だめ?」




「………そんなことは、ないよ」



ぐっとガッツポーズを取ったサージェントを、バルドは半眼で見つめた。





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