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緑の柱  作者: 美羽
再会
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専任魔術師



「……で、何故ここまで連れてきたんだ」



バルドは頭を抱えた。

昨晩ルークに発破をかけ、無事にフィリアの部屋に向かわせたはいいが、眠ってしまったらしい彼女は朝になっても起きず、またこちらとしても疲れているのだろう彼女を無理矢理起こす気にもならず、そのままにしている。

問題は、彼女が目覚めない事ではない。

眠るフィリアをルークが執務室まで連れてきたのが大問題なのだ。



「……だって心配じゃないか」



毛布に包まれたフィリアを抱いたままルークは聞く耳を持たず言う。



「お前なぁ……

わかったから、そこのソファーに寝せてやれ」



仕方がない、とため息をつく。

この部屋のソファーは大きいため、フィリア一人ぐらいなら寝そべることも可能だ。



「と言うか、こう言ったときは医務室だろう」


「夜のうちに行ったよ。

でも魔術が効いて毒はもう体にないから心配ないって」


「それでフィリアをお前の部屋に寝かせて、今もここに?」


「また、いなくなったら嫌じゃないか」



ムスッとしたルークに、バルドの疲労はたまる一方だ。



「あのなぁ……」


「……んぅ?」



微かに声が聞こえて、男二人は即座にソファーに近づく。



「フィリア、起きたかい?

もう朝だよ?」



先程まで不貞腐れていたとは思えない変わりようである。



「……?ここどこ?」



目を覚ましたフィリアは自室とは異なる天井にパチパチと瞬きを繰り返した。



「執務室だ」


「…なんでそんなところに?」


「だってフィリアが起きないから」


「……」



ルークの言葉に二人は揃って沈黙した。



「…とりあえず、シャワーを浴びて着替えて来るわ」


「ああ、そうした方がいいな。

俺達はあと少ししたら謁見の間に行くから、お前も準備ができたらそちらに向かえ」



バルドの言葉に頷くと、早足で部屋に戻る。

フィリアに着いていこうとしたルークを、バルドは慌てて押し止めた。



「なにを当たり前のように着いていこうとしているんだお前は。

さっさと今ある書類を片付けろ」


「……わかったよ」



ルークは渋々執務に取りかかったのだった。







ルークとバルドが謁見の間に到着したとき、そこには普段通り王と王妃の姿があった。

準備がまだ終わらないのだろう、フィリアはいない。



「あらルーク。

眠っているフィリアさんを執務室まで連れ出したんですって?

朝から城中で噂になっていたわよ?」


「……」



ルークは返す言葉がない。



「全く情けないわねぇ。

そんなことだから刺客には気づかないし、フィリアさんにも散々迷惑をかけるのよ」


「まあ、そんなに言ってやるなルーシア」


「だって陛下」



宥める王にルーシアはまだ不満顔だ。



「そりゃあまあ、毒を飲ませてしまったりしたけど」


「それだけじゃありません!」



ルーシアはキッと息子を睨み付けた。



「貴方は毒にも気がつかないし、フィリアさんの不調にも気づかないし、そのくせ刺客のメイドと仲良くなって、護衛で夜も寝ていないフィリアさんを廊下にたたせる、雑用に使う!!

本当に我が息子ながら情けないわ!!」



鼻息荒く息子を責め立てるルーシアに



「ルーシア様、流石に言い過ぎですよ」



魔方陣と共に現れたフィリアが苦笑した。



「フィリアさんはルークとバルドに甘いのよ」


「申し訳ありません」



いつもの白いローブの裾を捌いて丁寧に一礼する。



「……仕方がないからフィリアさんに免じて許してあげる。

それにしてもまたその姿に戻ってしまうの?」


「“白の術師”ですから」


「勿体ないわ。

ね、それは外に出るときだけにしましょう?」



ルーシアの言葉に困ったように笑むと、仰せのままにと返して、フィリアは昨晩のようにローブを消した。

どういった魔術なのか、どうやら消えたローブは指輪となって彼女の小指におさまるらしい。

現れた服に、昨日はそれ所では無かったがルークは自然と眉間に皺を寄せた。



「ふふっ、素敵でしょう?

仕立屋に特注でつくってもらったの」



ルーシアが自慢気に語る。

確かに、フィリアにその服は似合っている。

だが。



「肌を出しすぎじゃないかい?」



肩は出ているし、腕を覆っているのは薄い黒の手袋のみ。

上半身は体にピタリとフィットするデザインのため、体の線が明らかだ。

何より、スカート部分に大きくスリットが入っていて、フィリアが動く度に太ももがかいまみえる。



「動きやすいのよ?

それにこれなら城で着ていてもドレスと押し通せるし、ね」


「フィリアさんが強化魔術をかけているからちょっとやそっとじゃ破けないし、最高のできね」



女二人を止めるのは無理だろう。

ルークは泣く泣く諦めた。




「…それで、お前の専任魔術師はどうする?」



王の言葉に、一同が本来の目的をやっと思い出した。

そう言えばそのために謁見の間まで来たのだ。



「それはもちろん…」


「止めておきます」



このままフィリアに、と言いかけたルークを、当のフィリアの言葉がぶったぎった。



「フィリア!?」


「一週間考えてみたんだけど、今までルークに命の危険がなかったことは分かったし、別に私が専任魔術師にならなくても、と思って。

中庭の庭師でもやろうかしら」



庭師。

国中に名を轟かす白の術師が庭師。

ぶっとんだその考えに、流石にバルドが待ったをかけた。



「おい、流石に庭師はないだろう…」


「それじゃあ医務室勤務とか」



確かにあれほどの治癒魔術が使えれば問題はないだろう。



「いっそ私の専任になってみないかしら」



ルーシアまで面白がって言葉を挟む。



「駄目だ」



そこでようやくルークがショックから立ち直った。

フィリアの手をギュッと掴むと、周囲に言い放つ。



「フィリアは俺の専任魔術師にする」



異論は認めない、とでもいう声にフィリアがでも、と言葉を紡いだ。



「別にそんなの要らないと思うのだけど。

ルークだって魔術師が来るのを嫌がってたじゃない」


「……それはフィリア以外の魔術師の話。

三年前からずっと、これはフィリアがいいって思ってたんだよ?

それともフィリアは俺のそんな気持ちを踏みにじるの?」


「……」



汚ねぇ。

王、王妃、バルドの気持ちが一つになった。

そこまで言われてフィリアは困ったように視線をさ迷わせた。

ルークが畳み掛ける。



「ね、フィリア。

お願いだから、俺だけの魔術師になって?」


「……そこまで言うなら」



フィリアは仕方なさそうに苦笑して、その願いを受け入れた。











軽い足取りでルークは自らの執務室に向かっていた。

その後ろにはバルドと、そして本日付で正式に王太子専任魔術師に任命されたフィリアがついている。



「ルーク、すごく嬉しそうね…」



彼に聞こえないよう、こそりと呟く。



「ま、嬉しいんだろう実際。

俺も経緯はともかく、お前が城に俺たちのもとに帰ってきてくれたのは嬉しいと思っている。

よく帰ってきたな、フィリア」



慈しみに満ちた笑顔で、頭を撫でられて、フィリアの頬は恥ずかしそうに染まった。






「どうしたの?」



執務室の前でピタリと止まったフィリアに、ルークは不思議そうに首を傾げた。



「……?

ルーク達こそどうしたの?

部屋に入ればいいのに」


「フィリアは?」


「え?私はここに立っているから…」


「駄目!絶対に駄目だ!!」



当然の事のように言うフィリアに、ルークは今までの行いを心底反省した。

バルドも気まずそうに目をそらしている。



「?」


「今までごめん。

フィリア、入って」


「ああ。誤解していたとはいえ、すまなかった」



頭を下げる二人に、むしろフィリアが慌てた。

廊下を歩く人の目線が痛い。



「わ、わかったから、入りましょ二人とも!!」



慌てて二人を部屋に押し込め、フィリアも執務室に入ると勢いよく扉を閉めた。





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