おかえり
はい、ひとつだけ注意です。
この二人、別に両思いじゃありません。
フィリアちゃんとしては抱擁=友情!ですから(笑)
ノックもせずに入った部屋の隅。
大きなソファーに力なく横たわるその姿を見て、ルークは色をなくして駆け寄った。
「フィリア!!」
「……ぅ、ルーク、様?」
声に気がついたのか、うっすらとフィリアはその緑の瞳を開いた。
ルークのすがたを認めると、緩慢な動作で起き上がる。
「フィリア、動かないで」
「…なにか、ありましたか?
申し訳ありませんが、座ったままでお許しください」
「なんで、そんな…」
くしゃりと顔を歪める。
フィリアは目を細めた。
「平気ですよ。
毒が多すぎて解毒の魔術が追い付いていないだけです。
全く、彼女、邪魔をした次の日から毒の標的を私に変えたのはいいですが、毎日毎日、前日より強い毒を用意することもないでしょうに…」
辟易とした呟きに、ルークはハッとした。
「毒ってまさか、昼食に…
それに、俺の紅茶と中身をすり替えたって」
自分は、彼女になにをした?
毒入りの食事を、毎日食べろと強要して――
「そんな顔をしないでと、私は言ったでしょう?」
すっと、いつかのように額に指があてられた。
冷えきったそれを、壊れ物を扱うかのようにそっと握る。
「フィリア、でも……」
「私がしたくてやったことです。
貴方のせいではありませんよ、ルーク様」
「違う、フィリア、呼んで」
不思議そうに、フィリアは首をかしげた。
「俺の名前を呼んで。
――前みたいに」
緑の瞳が驚いた様に大きく見開かれる。
少しの躊躇。
そして――
「ルーク」
刹那、抱き締められた。
力を込めて、離さないとでも言うように。
「フィリア…フィリア、フィリア」
「……ごめんなさい、黙っていなくなったりして」
ひたすらに名前を呼び続けるルークの金の髪を、フィリアは優しく撫でた。
拘束が強まる。
「いいんだ、そんなこと。
こうやってまた、君が戻ってきてくれたなら」
包容は暫くほどかれることはなかった。
「…あの、ルーク?
そろそろ離して欲しいのだけど」
十分程たつとさすがに体が苦しくなったのかフィリアが解放を訴えた。
「……もう、どこにもいかないなら」
「ふふっ、勿論」
苦笑混じりのその言葉に、そっと腕の力を弛める。
フィリアはにっこり笑ってルークの体の一点を指した。
「これ、していてくれたのね」
ルークはその言葉に首から下がるサファイアを取り出した。
それを見て目をみはる。
「ヒビが……」
「これには貴方を守るための術をかけたから。
あの時ナイフを弾いたことで力を失ったのよ」
「これが……」
メイドの刃を弾いた壁。
かなり高度な術式のはずだ。
しかし何でもないことのようにフィリアはサファイアに手を伸ばすと、それに再び魔術を付加した。
五連の魔方陣がサファイアに吸い込まれるようにして消えていくと、サファイアのヒビも綺麗に無くなった。
「…できた。
これでまた、もう一度だけなら貴方の身を守ってくれるわ。
バルドの剣にも同じ魔法をかけたけど、そっちは発動していないみたいだし」
「フィリア、なにも今使わなくても」
彼女は毒で弱っているのだ。
そんなときに魔術など使えば余計体力を消耗してしまう。
「大丈夫。
少し眠いだけだから」
「眠いなら寝ないと」
「…でも、」
「……それじゃあフィリア、少しの間黙って目を瞑っていて?
そうだね、一分くらい」
「…?」
訳がわからず首を傾げるフィリアを、ルークは有無を言わさず再度抱き締めた。
「はい、今から一分ね」
「…分かったわ」
そのまま、暫くお互いに黙って寄り添う。
少ししてから腕の中の存在が力を無くすのを感じ、そっと横顔を窺うとやはり。
「こんなに眠いのに、無理しなくていいのに」
囁くように呟いて、ルークはそっと眠るフィリアを抱き上げた。
ベッドへ運ぼうと、そちらへ向かうが、途中でピタリと立ち止まる。
彼は暫く何かを考えるように立ち止まると、くるりと方向を変え、フィリアを抱えたまま部屋を出ていった。




