真実
謁見の間に突然三人もの人間が現れたというのに、王も王妃も驚くことなく玉座に座っていた。
すぐそばにはどこか不服そうな顔をしたバルドがおざなりに立っている。
普段ならば、王を尊敬してやまないバルドが、とルークは驚くだろうが、今の彼は混乱の極みにあるためそれ所ではなかった。
「陛下、ルーシア様、お連れしました」
ウィズが片膝をつく。
メイドは転移の間にウィズが魔術を使ったのか、白く輝く枷で体の自由を奪われていた。
ぼんやりと、ルークは呟く。
「……どういうことなんだ?」
「ルーク、貴方まだわかってないのかしら?」
ルーシアは呆れた目を息子に向けた。
「わかってないって……
だって彼女はあの時確かに俺をウィズから守ってくれて」
「ルーク、止めておけ。本気で」
バルドが慌てて止めるが、混乱しているルークには聞こえない。
「俺を殺そうとしていたのは彼女じゃなくてウィズじゃないか」
ふぅ、とため息が聞こえた。
依然として跪いて頭を垂れたままのウィズからだ。
そして、ルーシアの含み笑いも。
「ルーク、後悔しても知らないわよ?
ウィズ、もういいわ。
私の目的は達成できたし、肝心のルークがこんな様子じゃ、ね」
「なにを……」
「その命、承りました」
ルークの言葉を遮って、ウィズが立ち上がる。
くるりと、ルークの方を向いた。
ハラハラと、ウィズの纏うローブが花弁が散るように崩れていく。
もはやその姿を隠すのは、銀の仮面のみ。
フワリと、長くうねる黒髪が揺れた。
「―――まさか」
長く白い指が、仮面をそっと取り去る。
「私ってそんなに信用がないのね、ルーク王太子殿下?」
緑の瞳が煌めいた。
「……フィリア」
名前を呼ばれ、嬉しそうに彼女は微笑んだ。
「本当に…?」
未だに目の前の現実が信じられず、ルークが恐る恐る呟く。
それに答えたのはフィリア自身ではなく、ルーシアだった。
「正真正銘の本物よ?
ウィズの正体は、貴方の旅の仲間のフィリアさん」
ルークの驚きぶりに満足したのか、満面の笑顔である。
傍では王とバルドが憐れそうにルークを見ていた。
と言うことは。
「……バルドも知ってたの?」
「い、いや、俺は今日知ったばかりだぞ!?
この事を知っていたのは…」
「そう、知っていたのは陛下とルーシア様だけですよ。
ああでも、オズベルト様は気づいていたでしょうね」
バルドの言葉をフィリアが引き取った。
「でも、何故そんなことを…」
「貴方が命を狙われているっていう情報が入ったから、フィリアさんに手伝ってもらったの」
ルーシアは楽しそうに説明した。
「でも、あの時確かに…」
「それはなんというか、私の失敗ですね」
フィリアは苦笑しながら答えた。
「あの時、彼女とその仲間は貴方の寝室へと忍び込み、命を奪おうとしていました。
そこへ私が現れ、彼女達の邪魔をした。
彼女以外の者は倒すことが出来ましたが、あと一人ということで油断してしまったんです。
その隙をついて、彼女はルーク様に覆い被さった」
スッと目を細め、彼女を見る。
あからさまに彼女は体をビクつかせた。
「貴方は気づかなかったかも知れませんが、あの時彼女は貴方の背中にナイフを構えていたのですよ。
私が動けばいつでも殺せるように、とね。
ついでに言うならば、彼女が初めて出した貴方のための紅茶には毒が含まれていたんですよ?
気づかれないように魔術で私のものと中身を取り替えておきましたから、大事には至りませんでしたがね」
仕方がない、とフィリアは肩を竦めた。
「それじゃあ、ウィズは本当にフィリアで、命を狙っていたのは彼女?」
「何度も皆そう言っているじゃない」
ルーシアが心底呆れた顔で言った。
「これで万事解決ですね。
申し訳ありませんが、私は休ませて頂きます。
彼女のことをお願いします。
また明日の朝、お会いしましょう」
フィリアはふっと薄く微笑み、転移の陣でその場から立ち去った。
ルークは流れの速さについていけず、立ち尽くす。
「おい、ルーク。
早くフィリアを追え」
「…え、でも」
「夕刻あいつを見つけたとき、具合が悪そうに茂みに座り込んでいたぞ。
――それに、またいついなくなるか分からんしな?」
バルドの言葉にルークは初めてその事に思い至った。
そうだ、彼女は今ここにいる。
――けれどそれは、いつまで?
三年前だって、彼女は突然消えたのだ。
今夜は大丈夫だと、何故言い切れる?
「…行ってくる」
ルークは急いで王太子の宮にあるウィズの――フィリアの部屋へ向かった。
慌ただしく立ち去るルークの背を見送るバルドに、王から声がかかる。
「お前はいいのか?
お前だってフィリアの事を心配していただろうに」
王の言葉に、バルドは苦笑して一言だけ返した。
「それは勿論ですが、俺は嫉妬にかられた貴方の息子に刺されたくはないのでね」
はい、と言うわけでウィズの正体はフィリアちゃんでした。
やっとフィリアちゃんをきちんと出せて私としても安心です。




