敵の正体
「バルド、遅いな…」
書類を全て片付け、少し待ってみたがバルドは依然として戻ってこない。
まあ、遅くなるならバルドも王太子の宮に直接戻るだろう。
そう思い直し、ルークは執務室を出た。
暫く廊下を歩くと、見覚えのある後ろ姿があった。
「……あれ、君は」
「まあ、ルーク様。
お戻りですか?」
例のメイドだ。
自分の仕事はすでに終わったのか、特に何も持たずに廊下を歩いている。
「ああ、そうだよ」
「…なら、私が宮までご一緒しましょう」
メイドの突然の言葉に、驚いた様にルークは目を瞬かせた。
その様子にクスリと笑い、メイドは続ける。
「ルーク様は狙われておりますもの。
私では心許ないかもしれませんが、同行させて下さいませ」
「ありがとう。
それじゃあその言葉に甘えさせてもらおうかな」
「お任せください」
宮までの道すがら、ルークは今夜の計画をメイドに話していた。
「まあ、それでは今夜はバルド様がルーク様の護衛に?」
「ああ。
狙われるとしたら今日しかないからね。
でもバルドが今どこにいるのか…」
「……バルド様はいらっしゃらないのですか?」
メイドが心配そうに尋ねる。
「サージェントに今回の事を話しに行ったんだけど…」
そうこう話しているうちに、ルークの寝室の前まで到着した。
「隣の部屋にいらっしゃるのでしょうか?」
そろりとメイドが部屋を覗く。
ルークも部屋のなかに入り、バルドの姿を探した。
「いないみたいだね…」
きょろきょろと辺りを見回す無防備な背に、銀の輝きが迫った。
―――ガキィンッ
「えっ……!?」
「っ!?
また白の術師の邪魔か…!!」
固いもの同士がぶつかったような、鈍い音。
驚き振り向くルークの目の前で、ナイフを持ったメイドは舌打ちした。
呆然と、ルークは彼女を見る。
「何故、君が……」
「間抜けな王子さま。
こうなるまで気がつかないなんて、ね」
もう一度メイドはナイフでルークに斬りかかった。
慌てて避けるが、刃が頬をかすった。
「あの壁は一度きりのようね。
今度こそ、殺るわ」
再び、メイドが飛び掛かってきた。
「…させませんよ」
しかし、刃はルークに届くことなく、白い魔方陣に阻まれた。
憎々しげに、メイドは声の主をみやる。
「白の術師……」
「ウィズ?」
いつもと変わらない、白いローブに包まれた姿。
「ご無事で何よりです、ルーク様」
敵の姿などないかのように優雅に一礼するウィズに、彼女は苛立たし気に声を荒げた。
「化け物め!
何日も毒入りの食事を摂りながらピンピンしてるなんて」
「……毒?」
「口が過ぎますよ。
それでは役者も揃ったことですし、参りましょう。
ルーシア様がお待ちです」
――リンッ
次の瞬間には謁見の間に三人の姿があった。




