嫌疑
ウィズが城に来て、五日目。
その日も朝からウィズはルークの背後に付き従っていた。
昨日のことなどなかったかのようなその態度に、ルークの怒りは募る。
しかしそれを一切表には出さず、ウィズをまるでいないものとして扱っていた。
執務室の前まで来て止まると、バルドを先に部屋にいれ、ウィズが入る前に勢いよく閉め出した。
一日目に戻ったかの、いや、それよりもひどい扱いだった。
けれど、昨晩のこともありバルドも何も言わない。
ウィズは一日目のように扉の脇に立ち続けた。
「何で父上も母上もあんな術師を信用するんだか」
書類を次々と決裁しながら、ルークは忌々しそうに呟いた。
「そもそも、本当にあれが有名な“白の術師”なのか!?
災害が起これば直ぐ様現れ人々を救い、どんな大怪我も癒し、それに対して何の対価も要求しないという、あの!?」
段々とペンを持つ手に力が入っていく。
そばで見ているバルドはペンを壊さないかとひやひやした。
「バルドもそう思わないか!?」
「………ふむ」
話を向けられて考える。
確かにあの現場を見てはウィズを疑うのも当然だろう。
「しかし、王の言葉も気になる」
「…相変わらず、父上至上主義だね」
ルークはうんざりしたように呟いた。
ふと、バルドが何かを思い付いたような顔をした。
決裁の済んだ書類を持って廊下に出る。
「ウィズ、この書類を王の元へ運んでほしい。
ただ、大切なものだから手で持っていって欲しいんだ。
ついでに、近衛の団長であるサージェントという男にこれを届けてくれると助かるんだが」
どっさりと荷物を受け取り、ウィズは分かりましたと返した。
それに頷き、もうひとつバルドは付け加える。
「それと、城であまり魔術を使わない方がいい。
城の防衛をしている別の青の術師の気が散るかも知れないしな」
「それでは歩いて行ってきましょう。
少し遅くなるかも知れませんが、構いませんか?」
「ああ、問題ない。
頼んだぞ」
歩き出すウィズの背中を見送って、バルドは扉を閉じた。
じっとりと見つめてくるルークを見て苦笑する。
「なんだその顔は」
「何であの術師に頼むのさ」
「いいじゃないか。
これで話を聞かれる心配が少しは減る。
まぁ、魔術師相手に無駄な手かもしれんがな」
バルドの言葉にルークはなるほど、という顔をした。
「確かにそうだね。
これで少しは気が抜ける」
「それに、今は相手を泳がせることも必要だろう。
王や妃殿下が納得しないのならば、現場を押さえるしかないからな」
「……また襲撃されろってこと?」
ジト目で睨み付けるルークに、気まずそうにバルドは目を泳がせる。
「……まあ、俺も今度からはちゃんと護衛するし、な?」
「信用してるよ」
ルークは苦笑して新たな書類にとりかかった。
昼になると、昨晩ルークの命を救ってくれたメイドの彼女が食事を運んできた。
「昼食をお持ちしました」
「あぁ、昨日の」
ルークの言葉に彼女は控え目に微笑んだ。
「……あの、ウィズ様の昼食はどういたしましょう?」
困ったように首をかしげる。
確かに、さすがに廊下で食べさせる訳にはいかない。
仕方なくルークはウィズの入室を許可した。
「……」
無言で三人がソファーに座る。
メイドはウィズの前に恐る恐る皿を置いた。
「それじゃあ食べるとするか」
気まずい空気を振り払うかのようにバルドが声を出す。
ルークは無言で、ウィズは頷いてそれに答えた。
カチャカチャと食事の音だけが部屋に響く。
暫くそれは続いていたが、ウィズが食事の手を止め、声を発した。
「御馳走様でした。
もう結構です」
「……随分残っているじゃないか」
ルークが眉をひそめる。
ウィズの皿には料理が殆ど残されていた。
「申し訳ありません」
「これは国民の税金で出されているものなんだ。
もう少しきちんと食べたらどうだい?」
「おいルーク」
「……いえ、ルーク様のおっしゃる通りです」
バルドが止めるが、ウィズは構わず料理に再び手をつけ始めた。
それを見ても特にルークはなにも言わず、顔を背ける。
バルドだけが少し心配そうにウィズを見ていた。




