Opening
晩餐会当日、その日は城の使用人達が朝から慌ただしく動き回っていた。
「…皆、大変そうね」
「何しろ晩餐会は今夜だからね。
今から準備を始めないと間に合わないんだ」
「全く、そこまで大がかりにすることもなかろうに」
今日の主役であるフィリア、ルーク、バルドは朝から一つの部屋に拘束されていた。
なんでも、逃走防止らしい。
「にしても、この扱いはひどいな。
別に今晩は逃げるつもりはないのに」
「お前の日頃の行いが悪いせいだろう。
お陰で俺たちまでとばっちりだ」
「……そんなに抜け出していたの?」
「パーティーはあんまり好きじゃないんだ」
ルークは苦笑した。
「どうして?」
「格式ばったことが面倒、と言うのもあるけど、一番は貴族の令嬢がね…」
ルークの言葉にバルドも覚えがあるのか確かにな、と同意する。
「令嬢?」
「今までルークはパーティーにパートナー同伴で参加したことが無いからな。
次期王妃の座を狙って、彼女達はまるで獲物を狙うような目でルークを見ていたものだ」
「あれは最早トラウマだよ…」
思い出すだけで嫌なのか、ルークの顔は心なしかげっそりしている。
フィリアは面白そうに笑った。
「ルーク、もてるのね」
「冗談じゃないよ。
僕は彼女達のことなんかどうでもいいし、だから今回フィリアがパートナーになってくれてとても助かっているんだ」
「あら、お役に立てたのなら光栄だわ」
おどけるフィリアに、しかしバルドは厳しい顔をしていた。
「だが、その分お前は令嬢達に恨まれるぞ」
ルークもその言葉にハッとする。
確かに、ルークの妃の座を狙っている彼女達はフィリアを目の敵にするだろう。
彼女が危険にさらされるかもしれない。
「そんな顔しなくても、大丈夫よ二人とも。
そのことならもうルーシア様から聞いているわ。
対策もばっちり」
フィリアはそう言って片目を瞑って見せた。
でも、と反論しようとしたルークの言葉を、ノックの音が遮る。
「失礼します。
フィリア様、お支度がありますので、そろそろ…」
「今行きます」
フィリアが立ち上がる。
「フィリア…」
「ルークもバルドも、後で会いましょ」
にっこり笑うと、彼女は迎えのメイドと共に部屋を立ち去った。
「…大丈夫なのかな」
「まあ、ルーシア様のことだ。
心配はいらんだろう。
だが、もしものことがあればお前がちゃんと助けてやれよ。
俺もなるべく気を付けるが、ずっと一緒にいるのは無理だろうしな。
お前はパートナーなんだ。
フィリアから離れるな」
「勿論」
残された男達はフィリアを守るためその後も色々と話し合った。
まあ、それは全くの無駄になるのだが、今の彼等はそれを知らない。
「さあ、完成です」
マーサの言葉と共に、フィリアは閉じていた瞳を開く。
鏡には何時もと違う自分が驚いた顔をして写りこんでいた。
「ふふっ、素晴らしい出来だわ。
ルーク達の驚く顔が楽しみね」
背後で待ち構えていたルーシアが満足げに笑った。
「…本当に凄いです」
フィリアは半ば呆然として鏡の中の自分を見つめた。
そんな彼女を手をとって立たせると、ルーシアは時計を見た。
既に夕刻、晩餐会の開始までもうすぐだ。
招待した貴族達も、殆どが会場である本宮の大広間に集まっていることだろう。
ルークとバルドも、先に入れるように手配させたため、もう会場入りしているはずだ。
「さ、行きましょうフィリアさん。
準備はいいかしら?
これから気を抜いては駄目よ?」
こくりと頷いたフィリアを勇気づけるように、ルーシアは手をギュッと握った。
「私も陛下も、バルドも――何よりルークが、貴女の味方だわ。
だから自信をもって、いつでも顔をあげていてね」
「はい、必ず」
二人は笑いあって、会場へと向かった。




