Tower
人垣を抜けて、二人はまた歩き出した。
「吃驚したわ」
「ここの人達は元気だからね」
肩を竦めるフィリアにルークは苦笑した。
そんな彼に、フィリアは気になっていたことを訊ねる。
「ねぇ、あの人達はルークが王子様だって知っているの?」
「そうだよ、よく気がついたね」
「だってルークのこと様づけで呼んでいたもの」
それもそうか、と納得したようにルークは頷いた。
「実は、この西大通りには幼い頃から城を抜け出して遊びに来ていたんだ。
でも、そのたびに城の衛兵達に連れ帰られてね。
それを何回も見られているうちに、僕が王太子だってばれちゃったんだよ」
「抜け出した?」
「勉強や剣の修業が嫌でね。
気分転換がしたかったんだ。
お陰で、西大通りの人達とはもう顔見知り状態なんだよ」
「いいわね」
フィリアはどこか羨ましそうに言った。
「フィリアも今日からそうなるよ」
ギュッと握った手に力を込める。
彼女は穏やかに微笑んだ。
「ねえルーク、お城の南と西にはお店があるのよね?
なら、北と東には何があるの?」
屋台で買った食品を昼食がわりに食べながら歩く。
「北はすぐに針の山脈に入ってしまうから、特に何もないかな。
東には城の離宮があるけど、そこから先は荒野になっているんだ」
「離宮?」
「どちらかと言うと離宮よりも塔と言った方がいいかな。
王家の神聖な場所とされている、少し特別な所だよ」
神聖な場所と言われ、少し気になったフィリアが尋ねる。
「入ることはできないの?」
「近くで見ることはできるよ。
ただ、塔には入り口がないから入ることはできないんだ」
「入り口がない…?」
ルークも困った顔をする。
「何故入り口がないのかは僕にもわからないけど、その塔は初代国王の魂が眠る場所と言われているから、なにか秘密があるんだと思う。
行ってみる?」
「いいの?」
「もちろん。
ただ歩いていくには少し遠回りをしなければ行けないから、できればまた魔術で飛んでいきたいんだけど…」
「わかったわ。
案内よろしくね?」
次の目的地も決まり、二人は再び空の旅を楽しんだ。
ふわりと着地して、間近に建つ塔を見上げる。
確認したところ、ルークの言った通り入り口が無いだけでなく窓なども無いようだった。
「何故こんな風にしたのかしら」
「確かに、あまり塔としての役割は果たせなさそうなものだよね」
ぐるりと塔の周りを一周する。
しかしどこから見ても塔の外観は変わらない。
「せっかく綺麗なのに。
そういえば、この塔には名前はないの?」
「あるよ。
えーっと確か…そうそう、白銀の塔だったかな」
「白銀の…
だから壁がこんなに綺麗な白銀なのね」
この白銀に輝く壁にちなんでつけられたのだろう。
それほどまでに美しい輝きを、壁は放っていた。
「この先は、荒野だったかしら?」
ルークが頷く。
手を引いて、フィリアを荒野が見える位置まで導いた。
「そう、この荒野もちょっとした有名な場所でね。
なんでも昔初代国王が……フィリア?」
繋いだ手が震えているのがわかって、ルークは顔をフィリアの方に向ける。
目を見開いた。
「フィリア!?
どうしたの?」
彼女は顔を真っ青にして怯えていた。
小さく、何度も首をふる。
「…ここ、嫌。
なんだか怖い……」
尋常ではない反応に、ルークは慌ててフィリアを荒野の見えない位置までつれていく。
そのあともしばらく、フィリアの震えがおさまることはなかった。
「…落ち着いた?」
静かな問いに、こくりと頷く。
フィリア自身、何故こんなにも自分がこの場所に対して恐怖心を抱いているのか分からず混乱していた。
それを察したのか、ルークがそろそろ城に戻ろう、と声をかける。
「でも、まだ全然…」
「大丈夫だよ。
王都の案内なんて、いつでもできるしね。
だから今日はもう帰ろう?」
「……えぇ、そうするわ」
中庭ならば転移の術が使えるため、体調が悪いことを心配するルークをなんとか説得してフィリアは転移の術を発動させた。
二人が消えた離宮に、声が響く。
「――やーっぱりフィリアちゃんはまだ駄目か。
ま、それも仕方ないかもね」
声の主はそっと塔の表面を手で撫でる。
「あんたはこれを、どういう気持ちで見てるんですかねぇ、アルザス王?」




