Barrier
「―――ここが、お城?」
目を開くとそこには、今まで見たどこよりも広く、細やかに手入れされた庭園があった。
「そうだよ。
ここは城の中心で、ここを囲むように城が立っているんだ」
「懐かしいな。
フィリア、言われた通りまずは結界を張ってくれ」
「わかったわ」
フィリアは予めヘルミナから、周囲に結界を張るように指示されていた。
今は中庭に三人以外に人影はないが、ルーク達が戻ってきているのを知られるのは時間の問題だ。
そこで城の人々にルークが結界を張るのを邪魔されないため、また、闇の者からの妨害を防ぐ意味合いも込めてフィリアが結界を張っておくこととなった。
三人の周囲が緑の膜に包まれたことを確認して、ルークが剣を抜く。
フィリアとバルドはその様子を息をのんで見つめた。
「……いくよ」
二人が頷く。
ルークは勢いよく剣を地面に突き刺した。
その剣を中心に、突風が巻き起こる。
それは結界の中のみに留まらず、城をも包み込んだ。
宝石が輝き、それを中心として白、赤、黄、青の光が天に上った。
「……!!」
光はそのまま四方に散り、それらの方向から四色の光の柱が立った。
最後にその四点を囲むように銀の光が輝くと、暫くして全ての風や光がおさまっていく。
「…これで、結界が完成したの?」
ぼんやりとフィリアが問う。
ルークはそれに、力強く頷いた。
「うん、これでこの国はまた、闇の者に襲われることはなくなったんだ。
よかった……」
「やったな、二人とも。
これで本当の旅の終わりだ」
お互いに、確認するように見つめ合う。
けれどそれだけでは喜びが収まらず、ルークはまたも二人を抱き締めた。
「わっ」
「またこのパターンか…」
「いいじゃないか二人とも」
確かに、今日は特別な日になったしな、と二人は苦笑して彼を抱き締め返した。
――何やら結界の外が騒がしい。
気持ちも落ち着いた三人は、外の様子を窺う。
そこには、人、人、人――
城で働く者達が大集合していた。
あれほど大々的に国を覆う結界が張られたのだから、気づくのも無理はない。
「えっと、どうしたらいいの?
結界を解除した方がいいわよね?」
フィリアには城の勝手がよくわからない。
二人に聞くのが確実だろうと思ったのだが――
「いいよ、このままで」
「だが、これでは逃げられんぞ」
「え、お城の人達なのよね?
久しぶりに会ったんでしょう?」
二人は結界を解く事に難色を示した。
特にルークはかなり嫌そうな顔をしている。
「久しぶりだからこそだよ。
長い間城を空けていた分、いろいろとしなければいけないことがてんこ盛りだろうしね」
「そうだな。
俺は流石にそこまででもないだろうが、ルークは数日間は城に拘束されるんじゃないか?」
バルドがニヤリと笑う。
「……要は、ここから誰にも捕まらずに逃げればいいの?」
「それが出来たらいいんだけど、ね。
こうも結界の周りを囲まれると…」
苦笑するルークに、フィリアは考える。
なにか、現状を打開できるような方法は無かっただろうか。
「………あ」
「どうした?」
「あったわ、捕まらずにここから出る方法」
「本当!?」
ええ、と頷いて、フィリアはルークの手をとった。
ポカンとするルークをよそに、バルドにも手をさしのべる。
「バルドも、手を繋いでくれない?」
「……いや、俺はやめておこう」
「バルド?」
不思議そうにする二人に、バルドは何かを企むかのように笑う。
「俺は残って、王に報告をしておく。
フィリアに王都を案内する約束をしているんだろう?
この期を逃せばルークが外を出歩けるまでかなり日数がかかりそうだし、二人だけで楽しんでこい。
ただし、夜までには戻ってこいよ?」
「バルド、やっぱりお父さんみたいね」
フィリアが笑う。
ルークもそれに同意した。
「うるさい。
さっさと行け」
しっしっ、とまるで野良猫を追い払うような動作にまた笑って、フィリア達は頷いた。
「だがフィリア、一体どうするつもりなんだ?」
「簡単よ。
地面が塞がれてるなら、空からいけばいいんだわ」
バルドに片目を瞑って、フィリアは魔術を発動した。
ふわりと体が浮く。
フィリアと手を繋いでいるルークも同様だ。
「それじゃあ、行ってきます」
「バルド、父上の方は頼むよ」
「ああ、任せておけ」
十分に地上から距離がとれたことを確認して、フィリアが結界を解除する。
同時に速度をぐんと上げた。
バルドが人に取り囲まれるのが見える。
騒ぐ人々を尻目に、二人は城を後にした。




