Last
ぼんやりと、フィリアは目を覚ました。
ベッドから起き上がる。
枕元に置かれた椅子でルークがうたた寝していて、苦笑が漏れた。
(―私がベッドをとっちゃったから…)
立ち上がり、一度掛け布を手に持つ。
そこにルークを魔術で転移させた。
どうやら彼を起こさずに出来たようだ。
それにほっとして、風邪をひかないように布を掛けた。
そのまま部屋を出て、外に向かう。
外に出るとひんやりとした空気がフィリアを包み込んだ。
未だ夜は明けていないようだ。
人の気配のしない、閑散とした街に立ち竦む。
――あの場所は、どこなのだろう。
取り戻した記憶の一欠片。
その、敵の残骸で埋まる荒野は、一体どこにあるのだろうか。
魔方陣を展開する。
しかしそれは、輝くことなく力を失い消え去ってしまった。
「……やっぱり、駄目ね」
予想通りの結果に苦笑する。
元々失敗することは目にみえていた。
双子達も一度行ったことがあり、正確にその風景を記憶していなければ転移は発動しないと言っていた。
「つぎはぎの記憶じゃ、行けるはずもないものね」
それでも、行きたかったのだ。
彼が待っていた場所に。
もうそこに、彼がいるはずがなくても。
(―彼は、生きていてくれたの…?)
唯それを、確かめたいがために。
フィリアは小さく頭を降ると、建物の中に戻っていった。
―――翌朝。
「フィリア!!」
「ひゃっ!」
突然名前を呼ばれ、部屋で荷物を詰めていたフィリアは飛び上がった。
扉を確認すると、声の主であるルークが肩で息をしながらこちらを見ている。
余程慌てて来たようで、寝巻きのままだ。
「どうしたのルーク?
そんなに慌てて、何かあった?」
「……あ、いや。
その…目が覚めたらフィリアが部屋にいなかったから」
フィリアは目を見開き、次いでクスリと笑った。
「だって私がいつまでも貴方のベッドを占領していたら、ルークはゆっくり休めないじゃない」
「…うん、よかった」
心底安心したような顔に、違和感を覚え近づく。
「…私が、どうかした?」
ルークはその問いに迷うそぶりを見せた。
黙って彼が答えるのを待つ。
「君が、いなくなったんじゃないかと思ったんだ」
「私が?」
「フィリアは宝石に触れるたびに記憶を思い出してきているから。
そのうち全てを思い出して、僕たちの前から消えてしまうんじゃないかと思ったんだ」
その言葉にフィリアは思わずふきだした。
恨みがましげにルークが彼女を見る。
「フィリア、僕は本気で…」
「ご、ごめんなさい、でもルークが突拍子もないことを言うから。
私は別に消えたりしないわよ?」
「……」
「記憶もまだ全然思い出せていないし、ね。
もしも記憶を全て取り戻したとしても、貴方達に何も言わずにいなくなるはずないわ。
だって二人は大切な仲間だもの」
「そっか…」
フィリアの言葉にやっと安心したのか、ルークの表情が和らぐ。
その様子にホッとして、フィリアも笑った。
「…さ、ルークも支度しないと、遅れるわよ?
今日は王都に行くんだから」
「そうだね、急にごめん。
それじゃ、また下で」
「ええ」
ルークが戻るのを見送り、フィリアも荷造りを再開した。
「皆さん、よろしいですか?」
朝食をとり、全ての準備を整えたルーク、フィリア、バルドの三人にヘルミナが確認をとる。
それぞれ頷いたところで、三人の足元に転移の陣が浮かび上がる。
「ありがとう、ヘルミナ殿」
「世話になった」
「いいえ、私は何もしておりません。
この結果は皆様の努力の賜物です。
結界の完成をこの青の地で心待ちにしております」
力強くうなずく。
「フィリアさんも、また何時でもこの街にいらしてください」
「僕らもまた新しく、たくさん魔術を覚えておくから!」
「今度来たときに絶対教えるね!」
「……え、えぇ。
楽しみにしておくわ」
フィリアは苦笑しつつ頷いた。
三人が見送る魔術師達に手をふる。
それを最後に、三人の姿は夢幻の都から消え去った。




