Heart
「あの、ルーク…
皆見ているのだけど…」
「俺も男に抱きつかれる趣味はないぞ」
「……」
何を言っても離れようとしないルークに、どうしたものかと二人は頭を悩ませた。
ヘルミナ達も戸惑ったようにこちらを見ている。
「…よし、わかった。
フィリアを貸してやるから、一人だけにしろ。
三人で固まっているのはなかなか辛いものがあるしな」
「ちょっとバルド!?」
ピクリとルークが反応する。
それに目敏く気がついたバルドはフィリアの声も無視して、さっさとしろと彼を急かした。
その甲斐あってか、ルークの腕がバルドから外れる。
ホッとするバルドをよそに、ルークに抱き締められたままの―しかも拘束は強くなっている―フィリアは、恨みがましそうな目で彼を睨んだ。
「……フィリアは僕にこうされるの、嫌かな?」
捨てられた子犬のような目でルークに見つめられ、フィリアはうっ、とつまった。
「そんなことないけれど…」
「それじゃあもう少しだけこうさせて?」
「…わかったわ。
でもこれじゃあ前が見えないのだけど」
確かに、このままでは不便だ。
ルークもそう思ったのか、彼はクルリと腕の中でフィリアを反転させ、後ろから抱きつくような形をとった。
そのまま再度ギュッと力をいれて抱き締める。
「うわールーク様だいたーん」
「今まではもっとヘタレっぽかったのになんで?」
「うるさいな、大人の事情ってやつだよ」
フィリアを抱き締めたまま反論する彼の姿は全く大人には見えなかった。
「それで、ルーク様。
サファイアは無事に手にいれることが出来たのですか?」
ヘルミナの問に頷いて、ルークは腰の剣を示した。
そこにはピッタリと宝石が全て嵌まっている。
「よかった、全部揃ったのね?」
「そうだね。
これでまた、結界を張ることができる」
「確か、剣を地面に突き刺せばいいんだったか?」
バルドが言う。
問題ないのなら今この場で結界を張ってしまいたい。
今もどこかで闇の者に苦しむ人々がいるかもしれないのだ。
「…確かにそうですが、どこでもいいと言うわけではありません」
ヘルミナの言葉に、皆がそちらを向いた。
「どこか、決まった場所じゃなければいけない、ということかい?」
「はい、その通りです。
結界は剣を突き立てた場所を中心にこの国に広がっていきます。
ですから、できる限り国の中心で張った方が歪みなく結界が広がっていくのです」
「この国の中心と言うと、王都か」
ヘルミナは深く頷いた。
「そうですね、城の中庭辺りが最も適しているかと」
「…それじゃ、結界を張るのはもう少し先か」
「そうなります。
しかし、城までは私が転移の陣でお送りしますので、明日のうちに着くことが出来るかと。
そこから直ぐに結界を張ってください」
「わかった」
「それでは、戻りましょうか。
王都へは、明日お送りしますので、今宵はこちらでゆっくり体を休ませて下さい」
その言葉と共に、転移が始まった。
「……ルーク、ちょっといい?」
「フィリア…?」
食事や入浴を終え、それぞれが部屋で眠る準備をした頃。
フィリアがルークの部屋を訪ねてきた。
扉を開き、フィリアを迎え入れる。
寝ようとしていたところなので、お互いに寝巻き姿である。
「ごめんなさい、疲れてるのに」
「構わないよ。
どうかしたの?」
「サファイアに触らせてほしくて」
「………そうだったね」
フィリアは、記憶を取り戻すために旅を続けているのだから。
けれど、夢でみたフィリアとアルザスと呼ばれる男のことを思い出して、ルークは苦い気持ちになった。
「ルーク?」
「…なんでもないよ。
それじゃあフィリア、ここに座って」
ベッドを示されて、フィリアは首を傾げた。
「フィリアはいつも宝石に触れると倒れるからね。
倒れても大丈夫なように」
「ありがとう」
「さ、どうぞ?」
剣を差し出す。
フィリアはそれをじっと見つめ、サファイアに触れることなくそっと撫でた。
「もうすぐ、旅が終わるのね」
「でも、僕達はこのままだよ。
前にも言っただろう?」
「……そうね。
私、一緒に旅するのがルークとバルドで本当に良かった。
二人と一緒じゃなかったら、こうして少しでも記憶を取り戻すなんて一生出来なかったと思うもの」
「それは光栄だね。
――僕も、二人でよかったよ」
「バルドもそう思ってくれるかしら?」
「勿論」
二人でクスリと笑い合う。
「よかった…」
フィリアがサファイアに触れる。
途端に、彼女は力を失いくずれおちる。
ルークは慌てずにその体を抱き留めた。
「本当に、君でよかった。
…できれば君が記憶を全て取り戻しても、そう言ってくれるといいのだけど」
そっと、フィリアの体を横たえる。
呟きは闇夜に溶けた。




