Fruit
「それではルーク様、準備はよろしいですか?」
「大丈夫だよ」
朝食を食べ終え、剣や保存食、水などを準備したルークは(試しの洞窟の中がどうなっているか分からないため色々持ち込まなければならない)、ヘルミナの問いに頷いた。
「それでは参りましょう」
転移の陣が発動し、その場にいる全員を試しの洞窟があるという場所まで送り込む。
そこは、何もない草原のような場所だった。
「ここに、試しの洞窟があるの…?
見たところそれらしいものはなにも見当たらないけれど」
フィリアがキョロキョロしながら尋ねる。
「――そうですね、それではフィリアさん。
ここから試しの洞窟を探してみてください」
「探す?」
「試しの洞窟はおいそれと人が入れないように魔術による目くらましがされているのですよ。
昨日アルとエルに教わった魔術の中でそういったものを解く術もあったはずです」
フィリアは昨日のうちにつめこまれた膨大な量の魔術からそれに該当するものを探る。
(――そんなものあったかしら?)
少し考えて、あ、と思いついた。
目に意識を集中させ、魔力を送り込む。
瞳の中で魔力が渦巻いた。
もう一度、草原を隅から隅まで見回した。
「……あった」
フィリア達が立っている場所から少し離れた場所に、結界が見える。
青の民が何人かでかけたのだろうか、濃淡のある青がまだら模様を作り、辺りを囲っていた。
(これを、解除しなければいけないのよね?)
確か双子達は困ったときは壊しちゃえばいいよ、と言っていたと思う。
ならば。
フィリアはすっと結界のある方向に向けて手を伸ばした。
あの結界を壊すには生半可な力では足りない。
伸ばした手の先に、色の濃さの違う三つの緑に輝く魔方陣が展開された。
ヘルミナが息をのんだ。
「三連魔方陣!?
フィ、フィリアさんまさか……」
「―――いけ」
刹那、金に輝く稲妻が放たれる。
それは結界に向かい竜の形をとると、そのままそれに喰らいついた。
バチンッと何かが破裂するような音がして、結界が破られる。
そこはただ草原が広がっているだけの場所だったというのに、いまでは見る影もなくごつごつとした岩に囲まれた洞窟が姿を現していた。
「ちゃんとできたみたい」
「あの、フィリアさん…」
「え?」
満足げにうんうん頷くフィリアに、ヘルミナが恐る恐る声をかける。
ルークとバルドは驚きすぎて言葉もないようだ。
「なにも、壊してしまわなくとも……」
「え? でもアルとエルはなんにしろ大体壊しちゃえば平気だよって……」
「うわっ!駄目だってフィリア!!」
「それ内緒で!怒られる!!」
双子が慌てて遮るが、もう手遅れだった。
「――貴方達には後でゆっくりお話をする必要がありそうですね…?」
双子は真っ青になった。
魔術師たちの騒動をよそに、ショックから抜け出たのかバルドが感心したようにフィリアに声をかけた。
「フィリア、お前もうあんな強力な魔術が使えるようになったのか」
「うーん、でも付け焼刃よ?
実際に使ったのもまだ二度目だし」
「「二度目!?」」
急に入ってきたヘルミナとルークを吃驚して見ると、二人は居心地悪そうに目をそらした。
「いえ、あの、驚いてしまいまして…」
「うん、すごく使い慣れてる感があったからね」
「そうかしら」
「けれど、これで決心いたしました。
フィリアさん、今日一日で私の知る魔術のすべてを貴女に授けて見せます」
「え…いや、そんなにやる気にならなくても…」
少し引き気味のフィリアに、しかしやる気に満ち溢れているヘルミナは気づかない。
その様子をルークとバルドはコソコソと眺めた。
「ねえバルド、僕一応これから一人で試練に向かうんだよね?」
「ああ、そうだな」
「それにしては僕達空気じゃないかな?」
「……それは言うな」




