Determination
「で、何があったんだ?」
一人で行くと言うのなら剣の修行が必要だ、と言ってルークを外へと誘ったバルドは、剣を振るうのに適している林に入って早々問いかけた。
「え……」
突然のことに、ルークは戸惑いを露にする。
「だから、フィリアと何があったのかと聞いているんだ」
「なんでそれを…」
バルドは心底呆れたような顔をした。
「そんなのお前の顔を見れば一目瞭然だぞ。
お前は顔に出やすすぎる。
そんなことでは一国の王としては失格だな」
「…そうかもね」
「おい」
「冗談だよ」
尚も半眼で見つめてくるバルドに、ルークは苦笑した。
「…夢のなかで見たんだ」
「見た?何をだ?」
「フィリアの、記憶」
バルドは目を見開いた。
「オパールの力を使えば、フィリアの失われた記憶についてもわかるかもしれない。
そう思ったら、見えている景色が変わった。
そこは所々穴だらけで、分かりにくいものだったけど、フィリアと呼ばれている人がいたし、オパールの見せるものだから、間違いはないと思う」
「…呼ばれていた、と言うことは、フィリアは誰かと一緒だったのか?」
ルークは頷いた。
「男の人がいた。
黒い髪に、青い瞳の。
フィリアは彼の名前を呼んでいたみたいだけど、その部分は聞き取れなかった」
「黒髪に青の目か…
まるで初代アルザス王の様だな。
――そう言えば、フィリアがエメラルドに触れて最初に記憶を取り戻した時、“アルザス”と呼んでいたな」
「うん、たぶんアルザス王にあやかって名付けられたんじゃないかな。
髪と瞳の色が一緒ってことで」
「その可能性は高いな。
で、その記憶で何を見たんだ?」
バルドの更なる問いかけに、ルークは目を伏せる。
「…特に、何を見たってわけじゃないんだ。
でも、会話の端々でフィリアの彼に対する思いが感じられて、ね」
バルドが目を細める。
「フィリアはその男に惚れてたってことか?」
「…うん。
でも、彼には他に想いを交わしあってる人がいるみたいだった。
それにその彼女のことを、フィリアもよく知っているみたいな口ぶりだったんだ」
「……なんとも、難しい状況にいたものだな、フィリアは」
バルドが嘆息する。
しかしルークの表情は曇ったままだ。
「…どうしたらいいか、分からなくなったんだ。
僕は、フィリアが好きだ。
でも記憶を無くす前のフィリアには好きな人がいて、その人にはもう唯一の人がいて…
フィリアは、想いが返ってこない辛さをよく知ってる」
バルドは黙ってルークの言葉を聞いている。
「僕がフィリアに想いを告げて、そしてフィリアがいつか記憶を完全に思い出したら。
そうしたら、フィリアは困ると思うんだ。
フィリア自身の彼への想いと、僕からの想いとに挟まれて。
だから、僕は――」
「フィリアに想いを告げないことにする、か?」
そこでバルドが口を挟んだ。
「それは…」
否定も肯定もせず、ルークは黙り混む。
「自分が我慢すればうまくいく、本当にそう思っているのか?」
「なら、他にどうすればいいって言うんだ!!」
「お前は王になるんだろ?」
叫んだルークは、けれど返された言葉に勢いを削がれ、目を白黒させた。
「なるんだろう?」
「うん…」
「王なら、欲しいものがあればそれを何があっても、何を使ってでも自分のものにするんじゃないのか」
「それは…そうかも知れないけどね……」
なら、とバルドは言葉を続けた。
「フィリアが欲しいのなら、手に入れればいい。
お前の持つ、全てを使ってな」
「でも、今のフィリアは記憶が」
「記憶があってもなくても、フィリアはフィリアだろう。
記憶が戻ったからといって、今までの思い出を忘れるわけではない。
フィリアが俺達を信頼する気持ちも、記憶を取り戻せば消えてしまうのか?」
そんなことはない、とルークは思う。
それが分かったかのように、バルドはニヤリと笑った。
「違うだろう?
だから、記憶を失っている今のうちに、フィリアの気持ちをお前に向けろ。
記憶を取り戻しても、その男のことがどうでもよくなる程にな」
ポカン、とルークはバルドを見つめた。
バルドは未だ、どうだと言わんばかりに自信満々に笑っている。
「バルド、でもそれって相当セコいんじゃ……」
「うるさい!!」
「はい…」
それでも、ルークはクスリと笑った。
その笑い声が段々大きくなっていく。
「おい、何を笑ってるんだお前は」
「ははっ、ご、ごめん…」
目尻に浮かんだ涙を拭いながら、ルークは謝った。
それでもまだ笑いがこぼれる。
「でも、バルドの言う通りだね。
すこし、難しく考えすぎてたかな」
「そうだろう」
「まぁ、バルドの考えはなかなか力任せだと思うけどね」
うっ、とバルドが詰まる。
それを他所に、ルークは憑き物が落ちたかのように清々しい表情を見せていた。
「僕はこの国の王なんだから、一人の女の子ぐらい余裕で手に入れられないと、ね?」
そのために利用できるものは、全て利用しよう。
彼女が記憶を失っていることすら。
にっこりと、愛しい少女を思い浮かべて微笑む。
(君を、僕の隣に)
誰にも邪魔はさせない。
そのために、努力は惜しまない。
その様子を、バルドは少し引き気味に見つめる。
なんだか自分は、してはいけない事をしてしまった気がする。
(――すまん、フィリア)
心の中で彼女に謝る。
しかし、ルークの心を奪ってしまったのがそもそもの原因だ。
(こいつも、あの方の息子ということか)
バルドがただ一人剣を捧げた、この国の現王。
彼のように、計略を凝らし、時には強引に、時には強かに、欲するものを手にいれる王に、彼はなるのだろうか。
ただ。
(フィリアのことには、あまり強引な手を使わなければいいが)
それだけがバルドの心配の種だった。
別名、王子ふっ切れるの巻(笑)
これでルーク君のフィリアちゃんに対する遠慮はなくなりました!
記憶を覗き見る前も、記憶無いしなぁって彼はちょっとだけ躊躇ってたんです!きっと!
これからはヘタレルーク君は腹黒オオカミに路線変更!……できたらいいですね。




