Dream
すこし靄がかった視界。
ふわふわとした浮遊感。
「……ここが、夢の世界か」
無事に夢見が成功したらしく、ルークは安心した。
辺りを見回すと、そこは何もない真っ白な空間。
どうやらここがスタート地点らしい。
「サファイアの場所は…!?」
ルークがそう口にしたそばから、風景が変わり始めた。
何もない空間はみるみるうちにゴツゴツとした岩肌に囲まれ、その奥には青く輝く湖。
ルークは導かれるようにそこに近づいた。
湖は思っていたよりも浅いらしい。
その中央、最も青の輝きが強い場所に、それはあった。
「サファイア…」
ホッとする。
最後の宝石の在処がようやくわかった。
あとはこれを無事に取り戻し、城に帰るだけでいいのだ。
長く城を空けているし、皆心配しているだろう。
その時、また景色が歪む。
「…え!? まさか、城に?」
思った通り、次の瞬間にはルークは城の廊下にポツンと立っている事となった。
「…なんと言うか、仕事が早いね」
すこし呆れたようにオパールに向けて呟く。
まぁいい機会だ。
帰る前に軽く両親の様子を見て行こう。
そう思い、王の間へと足を進める。
「……?
いないな」
謁見中では無いのだろうか。
ルークの知る父はここにいることが一番多かったというのに。
「…あぁ、今は夜中なんだっけ」
その事実を思い出して、ルークは来た道を引き返した。
向かうは、王達の寝室。
「…こんな夜中に寝室に入るなんて、暗殺者にでもなった気分だよ」
一人苦笑する。
寝室の扉を開けると、思った通り中には寝ている両親の姿があった。
そっと近づく。
病気をしているような様子もないし、健康そうだ。
すこし疲れた顔をしているが、それは日頃の激務のせいだろう。
「…もうすぐ、帰ることができます。
父上、母上、その時に紹介したい人がいるんです。
僕の、大切な仲間――」
それだけじゃないけれど、今はまだ、そうとしか言わない。
あの緑の瞳の少女を、両親は気に入ってくれるだろうか。
「……気に入るに決まっているか」
なんといっても、自分の親なのだから。
笑って、そう言えば、と思う。
思ったことを映す、夢見。
ならば、フィリアの記憶も探すことが出来るのか―――?
風景が歪む。
思った通りになりそうな気配に、ルークの顔が明るくなった。
しかし。
完成した景色は、どこもかしこも虫に食われたかのように穴だらけで、よく見えない。
それに、先程までは現実のままの色を映していたと言うのに、今の視界は褪せた本のページのように茶色く黄ばんでいた。
何故なのだろうか。
ともかく、何か手がかりをとルークは必死に辺りを見回した。
『ね、―――、本当にいいの?』
ルークしかいないはずの空間に、声が響いた。
驚いて、そちらを向く。
そこには女性が立っていた。
顔は、見ることが出来ない。
『あぁ、問題ない。
ありがとうなフィリア』
もうひとつ、声。
見ると、黒髪に青い目の男が立っている。
と言うか今――
「まさか、フィリアなのか?」
顔を見ることが出来ないが、男が彼女をフィリアと呼んだ。
ならば、自分は今。
「ここは、フィリアの記憶のなか……?」
呆然とするルークに構わず、映像は進んでいく。
『全く、貴方は人使いが荒いのよ』
フィリアから、拗ねたような気配が伝わってくる。
『しょうがないだろ?
今の俺には、心の底から信頼できるやつなんてお前ぐらいなんだから』
『…しょうがないわね』
次いで、喜びの感情。
声に隠しきれない信頼、友情、親しさ、そして―――恋慕。
『…でも、そんなこと言ったらあの娘が泣くわよ?』
けれどその言葉には、諦めと寂しさ。
そして“あの娘”と呼ばれる女への親愛。
『いいんだよ、俺はアイツのことは信頼してるんじゃなくて、愛してるからな!!』
フィリアが呆れた気配。
『…貴方、よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるわね。
軽く引くわよ?』
『フィリア、お前はもう少し言葉をオブラートに包め…』
『はいはい、考えておくわ。
それじゃ戻りましょ。
あの娘が首を長くさせて待ってるんだから』
『わかってるさ。
でもアイツ、帰ったらまたお前にベッタリになるに決まってる…』
『あら、嫉妬?
男の嫉妬はいつの世も見苦しいわね』
『……半端なく重みのある言葉だな。
お前が言うと特に』
『うるさいわよ』
二人が去っていく。
けれど、ルークはどうしても追いかける気にはならなかった。
知ったばかりの事実を反芻する。
フィリアは男と共にいた。
そしてどう見ても彼女はあの男の事を―――
(好き、なんだ……)
しかし、男には別に愛している女性がいるらしい。
しかもあの口ぶりからすると、もう婚姻も結んでいる――?
(どうすればいい?)
こんなこと、知りたくなどなかった。
心の底からオパールを恨む。
自分が愛する少女には別に想う人がいて、さらにその相手にも――。
そしてそれら、全てを。
(フィリアは、忘れている――)
それは、彼女にとって幸福なのか、不幸なのか。
ルークには、分からなかった。




