Preparation
夕食をとり、それぞれに湯浴みを済ませて再びリビングに集まる。
全員そろったことを確認すると、ヘルミナが口を開いた。
「それでは、夢見の準備をいたしましょう。
アル、エル、フィリアさんの支度を」
「はーい」
「フィリア、こっちに来て」
二人がフィリアを連れて部屋を出ていく。
その様子を不思議そうにルークとバルドが見送った。
「フィリアの支度というのは?」
「より魔力を扱いやすいようにするのです。
フィリアさんは今まで魔術を使ったことがない。
慣れていないと思われますので、その手助けを、と」
「なるほど。
僕は何かすることはあるのかい?」
「いえ、ルーク様はオパールを握って眠りについていただければ」
「そうは言うが、オパールは剣に嵌っているぞ?」
バルドがルークの腰の剣を横目で見やる。
「それなら問題ありません。
ルーク様、オパールに触れて外れろ、と思ってみてください」
言われたとおりにしてみる。
すると、オパールはあまりにも呆気なく剣から外れ、ルークの掌の上に零れ落ちた。
「……こんなに簡単に?」
「ルーク様はこの剣の持ち主ですから。
勿論、他の者ではよほど強い衝撃を与えなければ宝石は剣から離れることはありません」
「知らなかった…」
「平時であれば宝石の力を直接使うことは殆どありませんから、無理もないかと。
歴史的にも初代アルザス王か、戦が起きた時に王だった者、それに初代王妃に女神の居場所を探してほしいと頼まれた二代目しか使ったことがないと言われています」
「…女神を?」
意外そうに問うバルドに、ヘルミナは沈痛な面持ちで頷く。
「ええ、初代を闇の者との戦で亡くし、その遺体を城に届けた時から女神は姿を消したまま。
彼女がどうしているか、初代王妃も心配したのでしょう。
けれど女神の力は強く、その創造物たるオパールではその行方を探し当てることは出来なかったそうです」
「…まあ、当然と言えば当然か。
全く、女神様とやらはどこにいるのか。
本当に存在するのかすらも疑いたくなってくる」
「……あら、案外女神は近くで私達を見守って下さっているのかもしれませんよ?」
「だといいけどね」
そこへ、準備が整ったのかフィリア達三人が戻ってきた。
「ジャーン!見て見て!!」
「フィリア可愛いでしょ!」
「結局こういう事になるのね…」
はしゃぐ双子達に対し、フィリアは最早何かを悟ったような表情をしていた。
「よくお似合いですよ、フィリアさん」
「そうだな。
それは青の民の魔術師の衣装か?」
「はい、その通りです。
青の民の服には術式が編み込まれていて、魔力の巡りをよくする効果があるのですよ」
言われてみれば確かに、フィリアの纏う薄い青の衣は銀糸で幾何学模様が描かれている。
恐らくこれが術式なのだろう。
ただ床にまで届きそうな長衣はフィリアを神秘的なものに見せていたが、どこか歩きにくそうだった。
彼女の腕をとり、ヘルミナは更にと付け加える。
「この腕の布にも術を埋め込みましたので、効果はより確実なものとなるはずです」
フィリアの両腕は二の腕から手首までやはり薄青いリボン状の布が覆っている。
「これで準備は整いました。
さ、ルーク様これを」
ヘルミナがルークに容器に入った飲み物を渡した。
「これは?」
「確実に眠りに導くためのものです」
なるほど、飲めという事か。
頷いてルークはそれを飲み干した。
それをしっかりと見届けて、ヘルミナは二人の背中を押す。
「それではお二人とも、頑張ってくださいね。
私達は一階にいますから、もしも何かあった時には大声で呼んでいただければ駆けつけます。
フィリアさん、絶対にルーク様の手を放してはいけませんよ?」
「わかったわ」
そうして全員に見送られながら、二人は二階へと向かった。
「……なんというか、結婚後の初夜のようだな」
「あ、それ僕も思った」
「僕もだよー」




