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緑の柱  作者: 美羽
Sapphire
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Inconsistency


「……っ」



いやに重たい頭を抱えて、フィリアは目を覚ました。

今まで感じたことのないような倦怠感。

立ち上がるとクラリと眩暈がして、少しふらつく。


辺りを見回してみると自分達は未だ空き地にいるようだ。

覚えているのは“ルークが魔女を倒した”ところまで。

あの時はまだ暗かったはずだが、もう空は白んできていた。

少し離れた場所にルークとバルド、ユナが倒れており、メリダはそれとはまた別の場所にいる。



――ルークも自分も、魔女を倒したことで気が抜けて倒れてしまったのだろうか。



何はともあれ、フィリアは急いで三人のもとに駆け寄った。



「みんな、起きて」



それぞれの肩を揺すぶり、目を覚まさせる。



「……フィリア?」



ルークが目を覚ました。

次いでバルドも覚醒する。



「…っつ、お前達、無事か?

俺が倒れた後、魔女はどうなった?」


「ルークが倒してくれたわ」



魔女にやられた部分に痛みが走るのだろう。

ゆっくりと慎重に体を起こしながら問うてきたバルドに答える。



「ルークが?」


「……うん、そうだったよ、ね?」


「?

そうに決まってるじゃない。

私、しっかり見ていたもの」



歯切れの悪いルークに、首を傾げる。



「…なんだか、そんな気がしないんだ」


「強敵だったもの、意識が朦朧としていたのかもね。

勝ってすぐに倒れてしまうくらい」


「…そうだね」



それでもまだ釈然としない面持ちで、ルークは頷いた。

そこへ、小さく呻き声が聞こえる。



「う……」


「ユナ!!大丈夫?」



ユナが目を覚ました。



「フィリア…

うん、大丈夫。

それで、魔女は?それに、メリダ様も……」


「魔女はルークが。

メリダは……あそこに倒れているわ」



フィリアがメリダのいる方向を指し示すと、一同は難しい顔をした。



「メリダ嬢は、あの魔女に協力していたのか?」


「あ、バルドとユナは気絶していたんだったね。

どうやらそうみたいだ。

あの後、魔女が全部話してくれたよ」


「確か、メリダ自身も突然現れて自分の居場所をとった、って言ってたわね。

それと、彼女がしている首飾り、憎しみを増大させる魔術がかかっているんですって」


「……そうか。

とりあえず、メリダ嬢のことはアードルト殿にも話さねばならんな。

気を失っているのもちょうどいい。

このまま彼女を屋敷まで運ぼう」


「メリダ様……」



長年同じ館で過ごしてきただけに、ユナのメリダを見つめる瞳は複雑そうだ。




「……と言っても、誰がメリダを運ぶの?

バルドは怪我をしているし、私とユナは無理よね?

となると……」



自然、皆の目が一か所に集まる。

寄ってたかって目線を向けられたルークは、居心地悪そうに身じろぎした。



「…わかってるよ。

僕しかいないんだろ?」


「ああ、頼むぞ」


「…フィリア、これ邪魔になるから持っていてもらっていいかな?」



ルークが剣を差し出す。



「いいわよ」


「あと、メリダを運ぶことに他意はないからね?

これは仕方がないから僕がやるだけで、バルドが怪我さえしていなければこの役目はバルドのものだよ?」


「……?

ええ、そうね」



言い募るルークにバルドとユナが噴き出す。



「ルーク様、フィリアは鈍いですから、それでは伝わらないと思いますが」


「……そうだね。

その通りだよ、ユナ」


「? なんなの?」



未だ疑問を浮かべるフィリアに、ルークは肩を落としてメリダを運ぼうと足を動かした。











「なんと、メリダが……!?」



屋敷へと戻り、アードルトにこれまでの仔細を伝えると、彼はそう言ったきり絶句した。

まさか自分の娘が敵と通じているとは夢にも思わなかったのだ。



「ルーク様、皆様にも何とお詫び申し上げればいいか…」



しきりに頭を下げるアードルトに、ルークは顔をあげて欲しいと言う。



「いいんだ。

こうして皆無事に戻って来れたしね。

ただ、こうなってしまった以上、メリダはもうこの街の外に出すわけにはいかない」



王族、しかも王位継承者に刃を向けたとあっては死罪は免れない。

この街から出なければ、今回のことは公にはしないという、ルークなりの温情だった。



「…はい、わかっております。

私も教育し直します。

今まで娘を強く叱ることのできなかった、私の責任でもあるので。

ありがとう、ございます」



アードルトは再度、深く頭を垂れた。











「ふぅ…」



フィリアは服を脱ぎながら息をついた。

アードルトが気を利かせて湯浴みの用意をしてくれたのだ。

屋敷の主の娘があのような状態で、バルドもユナも怪我があったため、今日はメイドが出払っており、念願の一人での入浴である。



上着、スカート、下着と段々に服を脱ぎすてていき、一糸纏わぬ姿となる。

そこで、フィリアは眉をひそめた。



「これは……?」



左胸の上部、ちょうど心臓がある辺りだろうか。

二本の蔦が互いに絡まり合うように、円を描く紋様がある。

確実に昨日まではなかったものだ。

擦ってもそれは落ちることなく、まるで刺青のようにフィリアの体に刻まれていた。

そっと、そこに手を当てる。

ザワリと、蔦が蠢いたような気がした。











「本当にもう行っちゃうの、フィリア?」



涙を湛えた瞳が、フィリアを貫く。



「う……

やっぱり、も、もう少し…」


「フィリア」


「…ごめんなさい、ユナ」



翌日、このような問答が黄の族長の屋敷の門扉で繰り広げられていた。

ユナが縋り付き、それに流されかけるフィリアをルークが制す。

まるで、いや間違いなくフィリア争奪戦である。

その様子を大人二人は困ったように、あるいは面白そうに眺めている。

メリダの姿はない。

彼女は今、屋敷に半軟禁状態の生活を送っている。



「わかってる。

フィリアも行かなきゃね。

……でも、また絶対にこの屋敷に来てね?」



そう言って勢いよくユナに抱きつかれたフィリアは、その様に心を打ち抜かれた。



「もちろん!

絶対にまた来るわ。

だから待っててね?」



お互いに笑いあう。

ルークは少し羨ましそうにその光景を見ていた。

と、フィリアがユナから離れる。

あろうことか、彼女はそのままユナの頬にそっと口づけた。



「フィリア!?」


「えっ、ふ、フィリア?」



驚愕の声を上げるルークと、わたわたと真っ赤になって狼狽えるユナ。



「前に砂漠の月を出るときに、次期赤の族長のロイがやってくれたの。

約束のあかしよ!

だからユナ、またね!」



フィリアは大きく手を振って、なんやかんやと文句を言い募るルークを無視しつつ豊穣の街を去ったのだった。





はい、記憶が改竄されております。

でも誰も気が付きません。魔術すごい。

胸の紋様は、記憶をちゃんと思い出せるように前々回のフィリアさんが仕込んだものです。

別に害はないから、安心していいよフィリアちゃん。

そしてほっぺチューは間違った常識だよ!!


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