愛した貴方だからこそ、気づかないでいて
―――夢を見ている。淡い、夢。
『ありがとう……これで、全て上手くいった』
「そうね…」
バルコニーから夜空を眺めて、二人で語り合う。
今までの事を思い出すと、感慨深いものがあった。
『明日は、一緒に出てくれるか?』
「………えぇ、貴方の大切な日だもの、行かないわけないじゃない」
―――本当は、行きたくなどない。
明日、貴方は私の手の届かない存在になってしまう。
『そっか、よかった。
アイツも喜ぶよ』
―――貴方はあの娘のものになる。
「きっと綺麗でしょうね、あの娘」
『そうか?アイツだぞ?
なにも変わらないだろ』
「…わかってないわね。
女の子は変わるわよ?
明日、驚いてヘマしても知らないんだから」
―――好きな人のものになる、一生に一度の日なのだから。
ずっと、こうなることは分かっていた。
だから気持ちに蓋をして、知らないふりを続けて。
―でも。
『そんなことあるわけ無いだろ。
見てろよ、明日魅力的な俺に驚いて、度肝ぬかれることになるんだからな』
そう言って、貴方が笑うから。
私は、私はどうしても、涙が出そうになるんだよ。
「…知ってるわよ、元から」
『え?』
「貴方の魅力なんて、みんな知ってるわ。
いつも皆のために一生懸命で、そのためならなんだってやる。
私に頼みごとをしたのは、貴方が初めてだもの。
その願いを、叶えたこともね」
貴方がポカンとこちらを見つめる。
「だから幸せになりなさい、アルザス」
『……俺の名前』
「あら?
忘れたとでも思ってたの?
ちゃんと知ってるわよ、貴方の名前ぐらい」
『………フィリア、ありがとう』
「はいはい、いいからさっさと寝なさいよ。
明日は忙しいんだから」
そう言って、彼を追い出す。
―――もう、限界だった。
「――っ、ふっ……ぅ…」
目の前が滲む。
目の奥が熱くて、喉の奥がつまるような感覚。
こんなに、苦しい
好き
好きなの
大好き
私の大事な、貴方
今だけは、想うことを許してほしい。
明日になったらきっと、二人を心から祝福してみせるから。
だから―――
「愛してる、アルザス」
零れた言葉は、どうか貴方にだけは届かないで。




