Crisis
「さ、覚悟してもらおうかしら?」
魔女の言葉に、ルークが身構える。
「ふふっ、無駄よ?
貴方まだサファイアを手に入れていないんでしょう?
あれがあったらこの戦いも、もう少し変わっていただろうけど…
無いものは仕方ないわよねぇ?」
そう言って、魔女は大きく腕を横に薙いだ。
その軌跡から、紫に発光する刃が飛ぶ。
ルークは慌てず、その刃を剣で弾いた。
少し驚いた様子の魔女に、ルークは不敵に笑う。
「この剣には女神の加護が宿っているからね。
簡単な魔法なら、弾くことも出来る」
「あら素敵。
ますます欲しくなっちゃったわ」
それじゃあこれはどう?とまたも魔方陣を出現させる。
そこから、地面が割れた。
それをルークが避けると、すかさず紫電が襲う。
「…っ!」
すんでのところで、弾いた。
攻撃の手を弛めずに、魔女が笑う。
「なかなか頑張るわね?
でも、それもいつまで持つかしら。
防御するばかりじゃなくて、攻撃もしないと勝てないわよ?」
それはルークとて分かっていた。
しかし、魔女の攻撃は息つく暇もなく続けられており、全く近づくことが出来ない。
「ルーク、一旦逃げて!」
「そういうわけにもいかないよ」
フィリアの叫びに、ルークは考える必要もなく否を唱える。
「そうよねぇ。
貴方が逃げたら、彼女達が殺されちゃうもの。
…にしても、本当に貴女綺麗ね。
初めて見たときから思っていたの。
貴女の血を浴びたら、きっと私今よりもっと美しくなれるわ」
うっとりとフィリアを見つめる。
その視線にフィリアの背筋に悪寒が走った。
「…初めて?」
「まだ分からない?
昼間、広場で会ったじゃない」
「まさか、あのときの露天の…」
「正解。
あの時勧めた首飾りには、貴女を操るための魔術がかけてあったのだけど、なかなか勘がいいのね。
代わりに憎しみを増幅させる術をかけて、彼女にあげたのよ」
ニタリと笑い、目でメリダを指し示す魔女の汚い手口に、フィリアは眉をしかめた。
「あらぁ、嫌われちゃったわね。
……さて、遊びもそろそろ終わりにしましょ」
魔女が靴で地面を軽く二回ほど叩く。
今までよりも何倍も大きな魔方陣が形成された。
それはこれまでと異なり、少し黄色味がかった色をしていた。
その陣の中央から、土で形成された龍が現れる。
「なっ…」
「ふふっ、すごいでしょう?
私の魔力とトパーズの力を併せて作ったのよ?
貴方の剣と同じ力を使っている以上、弾くことは出来ないわ」
魔女がルークを手で示す。
龍はその指示の通りに彼に襲いかかっていった。
「くそっ」
その腮を大きく開き、ルークを食いちぎろうとする龍を、すんでのところで、剣で制する。
しかし力の差は歴然、剣は弾かれ、ルークの体はその勢いのまま突き飛ばされた。
頭を打ったのだろうか、血が流れている。
そのままルークはピクリとも動かなくなった。
「ルーク!!」
フィリアが悲鳴をあげた。
「あらいい声」
魔女がゆったりとした足取りでルークに近づいていく。
このままではルークの命が危うい。
「…?
こんなときに…!!」
また、頭痛が始まる。
たまらず頭をおさえた。
「あら、どうしたの?
もう見ていられなくなっちゃったかしら?
でも、ここからが良いところよ?」
そう言って、地面に落ちている剣を拾い上げる。
頭痛が激しく、フィリアは立っていられない。
誰かいないかと辺りを見回すが、バルドもユナも気を失っているし、元凶であるメリダは震えるだけで役に立ちそうにもない。
「ちょうどいいわ。
彼の体で試し切りさせてもらいましょう。
自分の剣で殺されるなんて、彼も喜ぶわよね?」
愉しそうに笑って、剣を高く振り上げる。
ルークは依然として気絶したまま。
魔女は、勢いよくその剣を降り下ろした。




