Witch
――夜。
一人の少女が、大通りを北に向かって歩いている。
その後ろに、それを追う人影が一つ。
「…あれが犯人かしら」
「まだ確定は出来ないけど、恐らくそうだろうね」
そのさらに後ろ、ギリギリ二人が確認出来る位置に、フィリアとルークはいた。
お互いに、気づかれないよう息を潜めている。
闇に乗じられるよう、服は暗い色の物をメイド達に用意してもらった。
フィリアのものはやはり所々にフリルが散りばめられた可愛らしいものだったが。
「ちゃんとバルド達が待っているところまでたどり着けるといいんだけど…」
「でももうすぐ着くし、大丈夫よ。
…念のため、もう少し近づいておきましょうか」
「そうだね」
何が起こっても対処できるよう、影に近づく。
しかし心配は杞憂だったようで、無事に墓地の脇の空き地へとメリダはたどり着いた。
どこかにバルドとユナが待機しているはずだ。
メリダが振り返る。
「私に、何のようかしら?」
「…あんたの血を、頂かせてもらうよ」
「させんぞ」
すかさずバルドが飛び出す。
それを合図に、フィリアとルークも影の前に姿を現した。
ユナはメリダの前に立ち、守りの力を発揮する。
二人を薄く発光する膜のようなものが覆った。
「…女?」
声でもしやと思っていたが、影の主は美しい女だった。
うねる薄紫の髪に、青みがかった黒い瞳。
肩を大きく露出し、足元はスリットが入った黒いタイトなドレスを身に纏っている。
「ふふっ、これはこれは、また綺麗な女がこんなに…嬉しいわぁ」
女がフィリアやユナを見て舌なめずりする。
「なぜ街の女を襲う」
「そりゃあ、私が美しくあるためよ」
「…美しく?」
眉をひそめたフィリアに、女はうっとりと笑った。
「そう。
人はいつだって、美しくありたいものでしょう?
貴女だって、今はそんなに美しいけれど、年を取るとしわくちゃになって、それが無くなってしまう…
私にはそんなこと耐えられないわ」
だから、と女は言葉を続けた。
「調べたのよ。
一生美しくいられる方法を。
知ってるかしら?
若い美しい女の生き血を浴びると、ずっと美しくいられるんですって。
だからあの子達には協力してもらったの」
「そんな理由で…街の人々を襲ったのか」
「そんな理由ですって?
私には大問題よ」
「御託はもういい。
それも今日で終わりだ」
バルドが女に斬りかかる。
女は笑って、それを避けようともしていない。
――いける。
そう思ったが、しかし。
パンッ
バルドの剣が、何かに弾かれた。
それは、まるでユナの――
「なぜ、守りの力を!?」
「ふふっ、あの石、トパーズだったかしら?
すごいわよね、こんなことが出来ちゃうなんて」
「トパーズ!?
馬鹿な、闇の者には使えないはずだ!!」
「…あら、私は闇の者だ、なんて言ったかしら?
あんな知性の欠片もないやつと一緒にしないでちょうだい」
「じゃあ貴女はなんだっていうの?」
フィリアの言葉に女は笑った。
「貴女、魔女を見るのは初めて?」
「魔女?
…それでその瞳か!」
「この瞳の色は、青の民特有のものだものね。
すぐバレちゃうかと思ったけど…あなた達が間抜けで助かったわ」
「青の民は自らの領地から出ることは殆どないはずだ」
「私、族長に追放されちゃったの。
魔術の力を封じられてね。
でもここで、トパーズを見つけた。
おかげで力の封印も解けたし、守りの力も手に入れられたしで、良いことづくしなの。
だから――あなた達の血も、頂かせてもらうわね?」
小首をかしげて、手を前に伸ばす。
その先に、怪しく光る紫の魔方陣が展開された。
「危ないっ」
即座にフィリア達の目前に守りの力が張られ、襲いかかってきた紫電を弾いた。
だが――
「きゃっ!?」
響いた悲鳴に、振り返る。
「メリダ!?」
メリダが何か棒のようなものでユナを殴り付けていた。
気を失ったのか、ユナが倒れる。
それと同時に、守りの力も暗闇に溶けるように消え去った。
「メリダ嬢、何を――ぐっ!」
気をとられていた隙に、バルドが強い力で壁に叩きつけられる。
そのまま、くたりと力を失った。
「バルド!!」
「アッハッハ!
ほんとにお間抜けねぇ?
あの女の裏切りにも気がつかないなんて」
魔女が高らかに笑う。
「メリダ…何でこんなことを」
ルークの問いかけに、メリダはキッとフィリアを睨んだ。
「憎たらしいのよ、貴女も、この女も!
突然現れて、私の居場所を奪って!!
…だから、その魔女に協力してもらったの。
ふふっ、大丈夫ですわ、ルーク様。
私とルーク様だけは無事に返してもらえると、私約束したんですの」
どこか、狂気を孕んだ笑み。
こうなるまで気がつかなかったなんて、とルークは唇を噛んだ。
「さあ魔女。
この女達を早く殺してちょうだい」
「そうねぇ……」
魔女が手を振り上げる。
瞬間、フィリアとメリダの周囲に半透明の壁のようなものが形成された。
「フィリア!!」
ルークが駆け寄り、壁を破壊しようと斬りかかるが弾かれる。
「ちょっと、なんで私まで!」
メリダが叫ぶが、魔女に堪えた様子はない。
「私は女を殺すのは手伝うと言ったけど、この男を殺さないとは言ってないわよ?
もちろん、あんたもね」
「約束が違うじゃない!!」
「これだから金持ちのお嬢ちゃんは…」
クツクツと笑う。
「悪い魔女が約束を守るわけ無いじゃないの。
私、トパーズだけじゃなくて、他の宝石も欲しいもの。
だから、貴方を殺して、残りの宝石も頂かせてもらうわね?」
魔女は艶然と微笑んだ。




