Reconciliation
ユナとの二人の夕食を終え、フィリアはバルコニーに立っていた。
ユナとはお互いに敬語を外して話せるまで仲良くなった。
しかし彼女は夜からアードルトとの族長としての修行があるということで、フィリアは暇をもて余していた。
部屋に戻って休んでもいいのだが、全く眠くならない。
そのため屋敷の誰でも入ることができるホールのバルコニーから夜空を見つめているのだ。
ため息をついて、手すりに頬杖をつく。
まだ、ルークとは一切口を利いていない。
林で出会った怪しい占い師の、仲直りしなよ、という言葉をおもいだすと気が重くなった。
(だって、謝ってこないんだもの)
目も合わせようともしない自分のせい、ということもあるのかもしれないが。
しかしこのまま全く話さない、というのも寂しい。
ルークは大切な仲間だ。
こんな些細なことで仲違いしては勿体ない。
(明日、話してみようかしら)
そうすれば、今感じている気まずさもなくなる気がして、フィリアの気分は軽くなった。
そんな気持ちのまま、手すりに飛び乗るとそこに腰掛け足をぶらつかせる。
行儀は悪いが誰も見ていないしいいだろう。
そう思い夜空を堪能していると。
「……フィリア!?」
「?」
ルークの声が聞こえた。
フィリアは不思議に思ってホールの方を振り返るが、誰もいないようだ。
もしや、と思い庭を見下ろすと、そこには思った通りこちらを目を丸くして見上げるルークがいた。
「ルーク。
どうしたの?
そんなところで、散歩?」
グッと体を下に向ける。
因みに、フィリアのいるバルコニーは三階に位置している。
「フィリア!!
危ないから、普通にして!」
「?
別に平気よ?」
「危ないよ、…あぁ、もう!
フィリア、そこから動かないで!」
そう言うと、ルークは室内へと急いで入っていく。
どうやらここに来るようだ。
言われた通り動かずに待っていると、数十秒でルークが到着した。
よほど急いだようで、ゼイゼイと肩で息をしている。
「…大丈夫?」
「…いいから、危ないからそこ降りて……」
しつこいルークにわかったわ、と返事をして、フィリアは素直にバルコニーへ降り立った。
「はい、ちゃんと降りたわ。
これでいい?」
「あぁ、うん、そうだね…」
「ところで、私に何か用?」
走ってきたぐらいだから、何かあるのだろうと思い、フィリアが問いかける。
しかしルークの返事はあぁ、とかうん、とかハッキリしない。
困惑顔のフィリアに、ルークは意を決した。
「その、フィリアに謝りたかったんだ。
今まで、嘘をついていてごめん」
「……」
黙ったフィリアに、ルークは構わず続ける。
「僕は、王太子だと知られることが怖くて、フィリアに嘘をついていた。
フィリアが身分で人を判断しないと、わかっていたのにも関わらず。
君を信じられなくて、本当にごめん」
そう言って、ルークは深く頭を下げた。
「……別に、いいわよ。
もう怒ってないわ」
フィリアの言葉に、ルークは驚いたように顔を上げる。
「いいの…?」
「だから、さっきからそう言ってるじゃない。
…そうね、そんなに悪いと思ってるのなら、本当の事をルークの口から、ちゃんと教えてくれない?」
「…ありがとう」
ルークは本当に嬉しそうに笑った。
「そう言えば、何故庭に?」
「いや、部屋に行ってもフィリアがいなくて…
庭にいるかと思って探していたんだ。
フィリア、夕食にも来なかったし、今ぐらいしか謝る機会がないと思ってね」
「あぁ、私夕食は別にとっていたものね」
「次代の黄の族長と一緒だったんだよね?」
フィリアが頷く。
「ええ、部屋に招いてくれて、二人で食べていたの」
「……その人って、男?」
「?
ユナは女の子よ?」
ルークはホッとした。
食事の席では次代の性別までは聞けなかったのだ。
取り敢えず、前回のロイのようにはいかない様なので安心した。
「いや、ならいいんだ。
……そう言えば、僕の事を話そうか」
「ええ、聞きたいわ」
「知っての通り僕は王太子で、この国の次期国王だ。
兄弟はいないから流れでそうなったようなものだけどね」
「王太子だし、ルークはお城で暮らしてたのよね?」
「そうだね。
でも、城で寝起きしている者は結構多いんだ。
城で働く使用人とか、城の護衛兵とかね」
なるほど、とフィリアは感心した。
「でも、なんで王太子なのにこんな危険な旅に?」
「それは、この剣が関係しているんだ」
「それが?
確か、その剣で結界が作れるのよね?」
「そうだね。
でもこの剣はその時の王か、王位継承権を持つものしか扱えないんだ。
かといって王が城を空けて旅をするわけにもいかない。
だから僕が駆り出されたって訳」
「ルーク、災難ね」
ルークにフィリアは同情した。
何も起こらなければ城で平和に暮らしていけただろうに。
しかし、ルーク自身はあまりこの状況を苦に思っていないようだ。
「別に、悪いことばかりでもないよ。
むしろ、ちょっと感謝してるかな」
「?」
「旅してなければ、フィリアには会えなかったからね」
フィリアは目を丸くした。
次いで、プッと噴き出す。
「ふふっ、言われてみればそうね。
それじゃあ私も、この事態を引き起こした例の前宰相さんに感謝しなくちゃ」
「それもそうだね。
僕達がこうやって話しているのも、彼のお陰か。
なんだか複雑だな」
そのまま二人で暫し笑い合う。
「そう言えば言う機会がなかったけど、そのドレス似合ってるよ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ、王太子殿下」
茶目っ気たっぷりにフィリアが返すと、ルークが露骨に嫌そうな顔をした。
「ルークでいいよ」
「あら、でも身分違いだもの」
クスクス笑いながら、フィリアが言う。
「嫌だ」
ルークが不意に真剣な顔になる。
そのまま驚いて目を見開いたフィリアの頬に手を添えた。
「フィリアには、そう呼んでほしいんだ。
王太子でも何でもない、ただのルークとして」
「…そうね、お言葉に甘えて、そう呼ばせてもらうわ。
それじゃあルーク、仲直りのしるし」
フィリアがルークの手をとる。
ルークがその意図を読み取って、上下に大きく振った。
出会ったときのように。
「これで元通りね」
「よかったよ、こうしてちゃんと話せて」
「ふふっ、ルークはメリダに付きっきりだったものね。
確か、許嫁だったかしら?」
「その話はずいぶん前に無しになったから、もう彼女とは何の関係も無いよ!!」
「そうなの?」
「そうだよ……」
その後、夜が更けても二人の会話はなかなか終わることがなかった。




